第十九話 遠方にてお薬を手に入れろ!
「依頼者はクルトネー家だが、街の運営としての依頼だ」
このギルドの役目の一つが「街の運営の援助が行き届かない所への対応」である。この街の運営はスキルのお陰ですこぶる健全で上手く行っている。それでもそこから零れてしまう人がどうしても出てくるのだ。そう言った人達の援助や依頼がメインであり、それ以外の普通に生活できている人達の依頼はそこそこ。貴族や運営からの依頼は皆無である。通常は。
なので、街の運営からの依頼と言うだけで、相当特別ということだ。
「マスター。依頼概要は私から説明させて貰いますわ」
「ジゼル嬢。お願いします」
ジゼルさんは皆が注目している事を確認し、一呼吸置いてから話始めた。
「皆さん初めまして。街の運営よりクルトネー家のジゼル・マリア・クルトネーです。今日は皆さんに無理な依頼をしに来ました。依頼の内容は街キョウスティンまで流行病治療薬を取りに行って戻ってくることです」
依頼内容を聞いたギルドメンバーが騒ぎ始めた。お薬を取ってくるだけの話だが、どうも無茶な事らしい。
「いくらなんでもキョウスティンは遠過ぎるだろ!」
「キョウスティンでないといけない理由があるのか?」
口々に上る質問に対して、ギルドマスターが一喝し抑え込んだ。流石ね。
少し静まった所で、ジゼルさんが話を続けた。
「今、この街で流行っている流行病の事はご存じと思います。幸い重病者は少なく、死者もそれ程出ないと思われますが、問題なのは流行病が収まるまで街の機能がマヒしてしまう事なのです。今はまだ備蓄がありますが、直ぐにでも使い切ってしまうでしょう。外からの援助は勿論望めません。なので、この流行病を少しでも早く鎮静化させる必要があるのです。この程度の事でと思われるかもしれませんが、今の時代はこの程度の事で街が滅びかねないのです」
成程ね。この世界は基本的に街の中で自己完結しなければいけない。それが出来ない所は滅ぶか、近くの街に頼るしかないのだろう。頼られる街も人が動けなくなれば自己完結出来なくなる。もしそうなった時、人が多い分、最悪の事態になるのが早いのだろう。今回はその一歩手前。最悪の事態になる前に手を打つということだ。
「近隣の街や集落は既に流行病が流行った後で、薬の在庫はありません。あったとしても、念のため確保しておきたいものでしょう。流行病の影響が無く、確実に相当数の薬の在庫があるとなるとキョウスティンしかないのですわ。キョウスティンなら私に伝手がありますので、確実に分けて貰えます」
「街と街のやり取りになるなら、街の騎士か兵士がやるべきでは?」
誰かがもっともな意見を上げた。
「確かに。本来ならそうなのですが、騎士や兵士も大半が流行病に掛かってしまい、残った少数でなんとか看病と治安維持を熟しているのですわ。私も運営指揮で街から離れることが出来ません。なので、ギルドに依頼することとなりました」
「執事のサンド・バセランです。報酬としてそれなりの金額を用意しています。街の存続の為、どうか皆さま、よろしくお願いします」
報酬も約束されてギルドメンバーは大騒ぎになった。だが、名乗り出る様子が無い。ちょっとマシロちゃんに聞いてみようかな。騒ぎの中に入らないようにしながら、こそこそっと移動。
「ねえねえ、マシロちゃん。ちょっと良いかな」
「はい、アーリィさん。何でしょう?」
「キョウスティンって、そんなに遠いの?」
「ええ。馬で仮に何事も無く進めたとしても、最低でも一週間以上掛かるでしょうね。依頼の話であれば、往復になりますから二、三週間。トラブルがあれば一ヶ月見る必要があります」
「ひょえ~、確かに皆が騒いでるように無茶な話だね。それに一ヶ月も掛かってしまうんだったら……」
「恐らく、街の在庫が切れて、最悪の状況になることもあり得ます。けど、他に確実な方法が出てこない以上、頑張って貰うしかないでしょうね」
何とかしてキョウスティンって所まで早く辿り着く方法かぁ……っと私が無駄に考えていると、とうとう名乗り上げる人が出てきた。ルシード君である。
「俺が行こう。俺一人なら道中に障害があっても何とか切り抜けられる。恐らく潰すことになるだろうが、馬を貰えるか」
「貴方が最近活躍のお方ですか。では、手短に準備の話をします」
と、ジゼルさん、ギルドマスター、ルシード君の三人で話し合いが始まった。
話は短く簡潔に終わり、お金と手紙がルシード君に渡される。ルシード君は何やら荷物を整理し始めた。
っと、ギルドマスターが残った人に何かあるようだ。
「残ったお前ら。近隣に薬は残ってないと判っているが、念のため行ける範囲で俺たちが確認しに行くぞ。此方も報酬は出る。薬が見つかっても見つからなくてもな。こっちに参加する奴は出てこい」
「お。それなら参加するぜ」
近くで見つかるならそれに越したことはないからね。
さて、私はどうしようかなぁ……っとルシード君がもう出発した。少しでも早く到着するためだろうね。
近隣を探すグループはまだ色々とわちゃわちゃしている。
「これは……私が手助け出来そうね」
「アーリィさん?」
「マシロちゃん。私、ルシード君の手助けに行ってくるね!」
「ちょ、ちょっと。どうするつもりですか~」
マシロちゃんが呼び止めるのを聞き流して、私はギルドを飛び出した。ルシード君は……もう見えない!? なんたる足の速さ。
街キョウスティンは東の方って話だから、東門に向かったのだろう。私も取り急ぎ、向かうとしますか。