第十八話 守り人ジゼルからの特別依頼
メイストーンから帰還して一週間程経過。
前の依頼を達成したお陰でお金にはまだ余裕があるけど、一日寝て過ごすというのも勿体ないよね。時間は平等に有限なのだ。
とりあえずは、ギルドへと向かう朝一番。今日はなんだか人通りが少ない。いや、何時も少ないんだけど、それにしたって一人二人って事はなかったのよ。天気は良く日差しは暖かいはずなのに、こうも人通りが無いと温度を感じないものなんだね。
あ、お気に入りのパン屋さんがお休みしているや。品数は少ないけど、その分美味しいのよね。う~む、物の供給でも止まっちゃったのかな? その辺りの情報も知る為にも、ギルドに行くべきでしょう。
ギルド内は通りの人の少なさとは異なり、いつもより少し多めに集まっていた。とは言っても十数人程度なのでギチギチとはならない。皆、何やら事情を知っているせいか、好き勝手に話しているだけで慌てた様子は無かった。事情を知らないのは私だけかな?
ふと依頼の掲示板を見たが、常駐依頼以外は全て剥がされている。冒険者は開店休業のようだ。こういう時はマシロちゃんに話を聞こう。
「おはよーマシロちゃん。今日、街中とか全体的に雰囲気が変だけど、何かあったの?」
「あ、アーリィさん。お早うございます。知らないんですか? 流行病ですよ。大流行中なんです」
なんでも、街の半数以上が流行病に掛かってしまったとの話。罹ってない人も、これ以上蔓延しない様に家に引き籠っているそうな。
流行病自体は珍しいものでもなく、余程重症化しないと命を落とすという事は無いのだけど、掛かっている間はとにかく辛くて動けなくなるそうな。そして、それが今回は大流行してしまっている。街の運営がマヒする程に。
勿論、流行病に対するお薬は備蓄されていたのだが、折り悪く周辺の集落に分けて居た為にその在庫が減っていた。先日のあれだね。で、想定を遥かに上回る流行で備蓄も枯渇してしまい、周辺の集落や街の備蓄は使い切っているだろうから頼ることも出来ないと。
「で、これ以上はどうしようもない状況なんです。ギルドの皆さんは街の外に居る事が多かった為か、殆ど掛かって無いんですよね」
「で、依頼も来ないし、外に出たら病気に罹るので、皆ここでたらだらするしかないと」
「はい」
成程。こんな世界じゃ大量生産が難しいだろうからね。幸い、死亡率は低い病気だから良かったけど。
にしても、これじゃ私もやれる事無さそうだね。現代知識無双したい所だけど、私はお薬ってどうやって作られているか全く知らないし、興味も無かったからなぁ。
どうしよっかな~とギルド内を見渡していると、例の中二病患者ことルシード君を発見した。今日も元気に黒皮のロングコートでキメている。お礼もまだだったし、声を掛けよう。
「おはようございます。ルシード君ですよね?」
「……ああ、おはよう。何で俺の名前を?」
あの時と違って、どうもローテンションだなぁ。モソモソとサンドイッチを食べながら私を見ずに答えてきた。
「一週間ほど前のキメラ種ですよ。あの時追われていた一人が私なんですよね。キミの名前は一緒に居たギルドメンバーに聞いたの。で、今日偶々キミを見つけたので、お礼を言おうと思ってね」
「お礼なんて要らない。街から報酬も出て貰っているから気にするな」
「それでもよ。私はアーリィ。ありがと、あの時は助かったよ」
興味無さげな視線をようやくこちらに向けてくれた。ん? ルシード君、私を見るなり固まったけど、どしたん?
ぷいっと再び顔を背けられてしまった。むぅ、何かお気に召さなかった様子。外行き用の笑顔は崩れてないよね、熱湯タオルで念入りに体を拭いているけど匂いは大丈夫よね、む~何がいけなかったかな。
と色々と考える時に、ドアを大きく開けてギルドに入ってくる人が。私を含めて多くのギルドメンバーが視線を向ける。
「ちょっとお邪魔しますわよ!」
「お嬢様。私がマスターに話を通しますので」
おっと、お嬢様キャラが執事を連れての襲来だ。
お嬢様は恐らく私より少し年上。私も認めざるを得ない程の美人さんだ。黒い長髪が白いドレスに良く映えている。白い帽子もあれば完璧だったのになぁ。スタイルも豊満なので、ここまで来ると、悔しさも出てこないぞ。
執事さんが受付に居たフウラさんに声を掛け、フウラさん、執事さん、お嬢様の三人で奥に入って言った。
「ありゃ、守り人のジゼル・マリア・クルトネーじゃねえか。なんで貴族街からわざわざ出て、ここに来てるんだ?」
誰かが呟いた言葉が聞こえた。街の守り人? ジゼル・マリア・クルトネー? どこかで聞いたような……
思い出そうとうんうん唸っていると、ルシード君が助け船を出してくれた。
「あの人はこの街の運営をスキルで支えている貴族の重要人物だ。ここに来たって事は、俺達に依頼があるって事だろうな」
「ああ、そうか。ギルドメンバーになった時にマシロちゃんから聞いたっけ。そんな人が私達に依頼ってなんだろ?」
「今の街の状況を考えれば幾つか想像が付くが、まあ、のんびり待っていれば良いさ」
確かにね。どうせ他に用事も無いし。
ということで、サンドイッチを食べ切ったルシード君の横に座って成り行きを待つことにした。ギルド内はジゼルさんの話でもちきりになっている。悪く言う人が居ないところを考えると良い人なんだろうね。
程なくして、見たことない男性と一緒にジゼルさんと執事さんが出てきた。
「ギルドマスター、どうした?」
「皆、聞いてくれ! 特別依頼の話だ」
この人がギルドマスターなのか。かなりのイケオジで、筋肉の付き具合から見ても頼れる感満載だ。この街だけかもしれないけど、イケオジが多くて私は満足である。
さて、特別依頼とやらを聞いてあげましょうか。