第十七話 ルシード君と報告と病の影
「うぉぉ!」
黒髪の同い年に見える中二病の男の子は、キメラ種の巨体に全く怯まず立ち向かっていた。
受ければタダでは済みそうもないぶっとい爪の薙ぎ払いを潜り抜け、キメラ種の体を次々に斬り付けていく。
凄いのはそのスピード。キメラ種を斬り付けたかと思えば、反撃が振るわれる前に移動し、反撃が空振りしてはまた別の所を斬り付けている。
「凄い! なんかこのまま一人でやっつけちゃいそう」
「誰かと思えばルシードか。頼りになる援軍が来たな」
トムさんがクレウス姉さんを庇いながら私の所まで下がってきた。恐らく、満足に動けない自分では足手まといになるだけと判断したのだろう。クレウス姉さんも、弓の誤射を考えて同じく控えている。
「知っているのか雷……違った。知り合いなんですか?」
「最近ギルドに登録された新人でな。初日から大物を相手を討伐していた期待のルーキーだ」
なにそれ。私に活躍のお約束が無かったのは、横から掻っ攫っていたのが居たからのようだ。
むむむ、とするとお約束的には、あの子が私のライバルになるのか。
ただ見ているだけの私を鼻で笑い「同じ新人でも無能なようだな」とか言われて見下げ果ててくるの。暫く私は苦難の日々を過ごすのだけど、ふとした切っ掛けに私は覚醒! あの子を超える戦果を叩き出す一方、向こうは追われる焦りから失敗が続いて、どんどん落ちぶれていく。立場が逆転した私とあの子は再び相対して、私は……
「アーリィ! 街から兵士たちが応援に来たようだから下がるよ」
「ありゃ? わかりました~」
おっと、妄想に入り込んでいたようだ。
クレウス姉さんに肩を貸して、トムさんと三人で下がる。中二病のあの子はルシード君と言ったかな? キメラ種は相当にしぶとい様で、まだ勢い変わらず戦い続けている。
街の兵士さん達と合流し、トムさんが簡単に状況を説明してくれた。兵士たちは一人を私達の護衛に残し、残りはキメラ種に戦いを挑んでいく。
私達はキメラ種との戦闘の結果を知ることなく街の中に退却した。何はともあれ、まずは二人の治療だ。門の詰め所で応急手当を受けさせて貰った。私は二人をタオルで拭いてあげたのだ。雨はまだ止む様子はない。兵士さんの話では今日一日は降り続けるだろうということだ。
ルシード君や兵士さん達が応援に駆けつけてくれたのは、先に避難した商隊からの救助要請があったからだそうな。クレウス姉さんの判断が正しかったと言えるね。
その後の流れとしては、応急処置を受けた二人と私でギルドに戻って結果報告だ。
「こんなに貰って良いんですか?」
「貰って貰って。今回、アーリィに助けて貰ったからそのお礼と思って。こっちは赤字にならない程度には貰っているから遠慮なくね」
そう言って貰った報酬の大半を私にくれたのだ。中には金貨も混じっている。これだけあれば、暫くの間は依頼をこなさなくても食うに困らない。地球に帰る為の調べ物の為に貴族街を探索するにしても不自由はしないはず。どう使うかは悩ましい所だ。
「そうだ、アーリィ。良かったら私達と組まないかい? 病欠していたドミニクにも紹介したいし、上手くやっていけるんじゃないか? ねえ、トム」
「そうだな、クレウス。ドミニクもアーリィをきっと気に入るだろう」
一緒にやっていく……か。確かに見知らぬ世界で上手く生活するには、一緒に行動できる人が居た方が絶対に良い。けど……
「誘ってくれてありがとう。私もクレウス姉さん、トムさんと仲良く出来ると思う。けどごめんなさい」
私はこの世界の人では無いのだ。いずれ居なくなるだろう。それに、居なくなるまでの間の安心できる帰る場所は必要と思うけど、その為に二人を利用したくはない。
「そか。けど、何時でも私達を頼りにしてくれて良いからね」
「そうだ。何かの依頼で一緒になることもあるだろうしな」
「ええ。私こそ今回誘ってくれてありがとう。色々と学ぶことが出来たよ」
こうして、今回の冒険を終える事が出来た。
ちなみに、キメラ種は殆どルシード君一人で討伐したらしい。彼とも、今後一緒に依頼をすることもあるだろう。今回の事のお礼もしたいし、機会を見て探すのも良いかもね。
手持ちに余裕はあるし、明日はどうしよう。家に帰った私はベッドに寝転がりながら窓から空を眺める。もう夜になっていた。野外で見る夜景は素晴らしかったけど、やはり部屋の中で眺めるというのも良いものだ。落ち着いて眺めることが出来る。
雨は上がり風が少しヒンヤリしている。明日の朝はまだ地面が乾いてないかもしれない。なら朝は家に籠って、出かけるのはお昼からが良いかもね。
「くちん!」
クシャミが出た。今日は盛大に雨に降られて濡れたからなぁ。お湯で濡らしたタオルで体を拭いたけど、冷えてしまったかもしれない。風邪をひかない様に今日はもうオヤスミしよう。
後日の話だが、別に私は風邪とか病気にはならなかった。
しかし、集落メイストーンで流行したものが、この街にも流行り出すことになる。