第百六十話 暗転落
「あれは俺らに任せろ! エイン! リーオン! やるぞ!」
「ルシード!?」
ルシードとエイン、リーオンが四方に散って、魔獣とキメラ種の波に立ち向かっていく。
「アーリィ達はアノンを! 頼むぞ!」
一体一体が危険な相手。それが多数一気に襲い掛かってきている。
三人とも……無事でいて!
「アーリィ! ベクト! 速攻で決めるわよ!」
「ガリアちゃんが仕切ってる」
「まあ、いいけど……」
私達はアノンと対峙する。
まずはガリアちゃんの魔法から!
「怒れる粒子達 その心を今解き放て! ダスト・デトネイション!」
瞬間、アノンの周囲で衝撃が巻き起こる。
しかし、その爆裂音が収まらない内にアノンが一足飛びに跳ね駆けた。
爪が煌めく。
ベクトが立ちはだかり、爪の手を殴り上げて逸らす。その流れで、腰をひねったストレートがアノンの顔面にヒット!
アノンは顔をゆがめたまま、その場に立ち尽くしている。
「これで!」
サテラ君と剣。二つの剣を立ち尽くすアノンの胸に叩き込む!
アノンはそのまま滑るように倒れた……けれど、
「……この程度ですか?」
効いてない!?
攻撃はちゃんと入っている。サテラ君は魔獣と同じ強度があるのだ。ダメージにならないはずがないのに……
アノンは呪いから解放された魔獣と同じように、少しづつ強くなってきている?
「まったく。どうしたものかね?」
「いや、大丈夫。見た目よりダメージにはなっているから」
ベクトの分析が入りました!
そうかそうか。アノンも演出の為に、結構やせ我慢してるのねぇ。
こっちのニヤニヤに、アノンから笑みが消えた気がする。
「アノン! あんたの人生には、同情の余地はあった。だから、あの時拾ってやったの。……でも、それで何をしてもいいわけじゃない!」
「はは……私は変わりませんよ。昔から、今も、そしてこれからも」
ガリアちゃんとアノン。
この二人にどんな接点があったのだろうか? まあ、それを聞くのはこの戦いが終わってからだよね。
「今からディス・インテ・グレートを使う! 魔力を高めるのと詠唱の時間を稼いで!」
分解消去魔法!
良くも悪くも、思い出のある魔法だ。
とりあえず、魔獣にも効果はあるのだから、使えるなら決め手になる!
ガリアちゃんは、アノンから距離を取り、魔力を練りはじめる。
アノンはそれを許すわけが無い。爪を掲げて阻止に来た。
「行かせない!」
ベクトが前に出る。
『アノンに隙を作らせるから』いきなり脳内にガリアちゃんの声が聞こえた。スキルによる伝達だ!
「邪魔だ!」
アノンが爪を振るう。が――外れた。
ガリアちゃんのスキルで位置を誤認させたんだ!
「今!」
まずは、ベクトの重力を加えたドロップキック!
続いて、拳の嵐を顔、脇腹と通常なら脆い所に浴びせていく。
アノンの足は完全に止まっていた。
今なら!
「ガリアちゃんの魔法の前に、サテラ君をもう一度!」
真上からアノンに向けて一気に落とす。
サテラ君なら、体が魔獣並みとしてもきっと!
瞬間。
腕が振るわれた。
サテラ君が弾き飛ばされる。
「え?」
そして、その爪が前に立つベクトの腹部を貫いたのだった。
流れる赤。
それがベクトの致命的な量の出血と、私が理解する前にアノンはガリアちゃんの前に立った。
爪にベクトの体を残したまま。
「ディス……」
ガリアちゃんが魔法を放つより先に、空いた手でガリアちゃんの首を掴み唱えさせない。
ガリアちゃんの表情が、たちまち苦悶に満ちる。
「お前達にも色々世話になりましたが……ここでお別れです。最後に少し、実験に付き合ってください」
二人を持ったまま、呪いの源流カオスゼロの前に立つ。
まさか!
「この呪いに触れ落ち込んだ魔物は溶け合い結合し、キメラ種となります。人間が取り込まれた場合はどうなるのか? 私もこの身になるために、少ししか触れていないので良く判らないのですよ」
ベクトとガリアちゃんを事も無げにカオスゼロへと放り込む。
私は思わず声を挙げながら、二人を助け出そうとカオスゼロへと駆け寄る。
私の声で、周囲で魔獣やキメラ種を抑え込んでいたエインとリーオン。そしてルシードがこの危機に気付いた。
私は二人しか見えていなかった。
必死に助け出そうと、闇に呑まれつつある二人の手を掴む。
大丈夫!
二人の手からは二人が生きている事が感じられた。ベクトも、手当てを直ぐに行えば、きっと助かる!
二人に意識していたためだと思う。私の後ろにそっと回っていたアノンに、全く気が付いていなかった。
「折角です。貴方も一緒にどうぞ……」
不意にアノンに背中を押され、私はカオスゼロの中へと転落する。
遠くから、ルシードの呼ぶ声が聞こえた気がした……