第十六話 巨大剣命名!
トムさんが魔物の群れに飛び込み、多くを引き付ける。クレウス姉さんが弓でトムさんのフォローをしつつ、魔物を更に多く狩る。
二人の実力が遺憾無く発揮されているが、完全に囲まれてしまえば、引き付けるのも限界がある。
その内ウルフ一匹が抜け出し、私目掛けて走ってきた。私は剣を構えるが、お手本のようなへっぴり腰。
「はわわわ」
考えてみれば、まともに戦うのはこれが初めてだ。そりゃ、剣を持って素振り程度はやっているが、命が掛かった状況というのは別物だわ。
しかし、ここで魅せなきゃ冒険者になった甲斐が無いというものよ。
ふん! と気合を入れ直し、腰を入れる。剣なんて、振れればとりあえずは上等!
鋭い牙を剥き、飛びかかってくるウルフ選手。対するアーリィ選手、剣を振りかぶり……振ったぁ!
「キャィン!」
ホームラン! 私に腕力は無いが、スキルの力で豪快に振り抜き、飛びかかってきたウルフをそのまま吹っ飛ばすことが出来た。元は練習用の剣なので全然切れてないけど、こりゃ、ウルフ選手ノックアウトだね。
戦果が出たとちょっと喜び、飛んだウルフの先を見るとトムさんとクレウス姉さんがタコ殴りにあっていた。トムさんがクレウス姉さんへの攻撃も可能な限り庇って、クレウス姉さんは攻撃を受けつつも反撃を試みている。どう見てもヤバい! このままじゃトムさんは魔物のご飯になって、クレウス姉さんは薄い本が厚くなる展開になってしまう!
状況を確認。襲い掛かってきた魔物、ゴブリンとウルフ達は二人を潰そうと取り囲んで出鱈目に襲い掛かっている。商隊は既に現場から離れている。まだそれ程離れていないが、雨で見通しが悪く、直ぐにでも見えなくなるだろう。
この状況ならば!
私は剣を鞘に納め、天に向かって手を伸ばす。今、命名だ。
「おいで、サテラ君!」
雷が落ちたかと誤解しそうな鋭い音が響く。全長5m程の巨大な剣が天から降って地を貫いた。その衝撃を魔物たちも感じたようで、一斉に動きを止める。
この巨大剣はサテラと命名。これから宜しくね。お金に余裕が出来たらデコってあげよう。
サテラ君が傾き、柄が私の手に掛かる。
「クレウス姉さん! トムさん! 出来るだけ低く伏せて!」
二人は、雨のせいで私が何をしようとしているのか解らなかったと思うが、張り上げる私の声を聴いて素直に伏せてくれた。信用してくれてありがとう!
スキルの力で、二人を攻撃するために群がっている魔物目掛けて、サテラ君を投げつける! 私の手は添えるだけ……
「いっけぇ!」
例えるならボーリングだろうか? 魔物達はピンの如く弾き飛ばされ、様々な悲鳴を上げ倒れる。サテラ君は二人の周りを縦横無尽に飛び回り、ほぼ全員を薙ぎ倒してから私の下に戻ってきた。
「ありがとね、サテラ君」
サテラ君は再び上空へ飛ばしておく。残りが居ても普通の剣で十分でしょ。さて、二人は大丈夫かな。二人に駆け寄り負傷の具合を見る。痛々しい傷を無数に負っていたが、とりあえずは生きている。
「クレウス姉さん、トムさん。もう起き上がって大丈夫だよ。傷とか大丈夫?」
「アーリィがやったのかい? ああ、傷は多いけど致命傷ってのは無いよ」
「俺も問題ない。助けてくれてありがとう、アーリィ。病欠が出て二人だけで対応しようとせず、お前を誘って正解だったな」
うひ~。トムさんが褒めてくれて嬉しい。思わず顔がにやけちゃうよ。おっと、クレウス姉さんとトムさんがいちゃつき始めたよ。まぁ、トムさんの庇いっぷりは見事だったからね。こりゃ、クレウス姉さんも惚れ直しちゃうでしょ。
それにしても、街から結構近いってのに、この魔物達はどこから来たのかな?
「さて、こいつらは止めを刺して、早く切り上げようかね。雨で傷が染みるよ」
ありゃ、もういちゃつくのは良いの? 吊り橋効果は長く続かないよ。トムさんを捕まえるなら、盛り上がった時が一番簡単なのに。
「そうだな。こいつらが出てきた理由を確認したい所だが……」
トムさんも同意して止めに移ろうとしたとき、森が大きく揺れ、原因が現れた。
獅子の顔に山羊の頭も脇に生えている。体は獅子のものと思われるが、生えている毛は茨のように刺々しい。尻尾の代わりに3匹の蛇が生えていた。体は大きく5m以上ありそう。
「キメラ種か……魔物の群れは此奴に追われて出てきたようだな」
キメラ種は総称的な呼び名で、コレのように複数の生物が歪に混じり合った生き物を指しているいるんだって。森の奥深く、呪われた魔獣の住処に触れてしまった生き物が、こうして混ざり合って狂い、魔獣以外の生き物を手当たり次第に襲うんだそうな。
今、サテラ君に跳ね飛ばされながらも、まだ生きていたゴブリンやウルフが、キメラ種に止めを刺されている。
「キメラ種が魔物に気が向いている内に逃げるよ。今の私らじゃ勝ち目が薄い」
「そうだな……アーリィ。街に向かって先に走れ!」
「は、はい!」
殿はトムさんが務めてくれる。私が走りクレウス姉さんが走った後で、トムさんも下がり始める。
雨のせいで判り難いが、街はもうすぐそこのはず。ほら、街の明かりが見えてきた! が、魔物を殺し尽くしたキメラ種が、今度は私達に目を付けたようだ。巨体を激しく揺らしながら私達に迫ってくる。
「ちっ……お前たちは先に街へ。門の兵士たちに応援を頼んでくれ」
トムさんが振り返り、キメラ種を迎え撃つ構えを取る。
「それはアーリィ一人でも出来るね」
クレウス姉さんも振り返り、弓を番えた。
ちょ、それ死亡フラグだから! 迎撃を試みる二人は傷を負い弱弱しく見える。一方、キメラ種はその巨体で二人を跳ね飛ばそうと迫っていた。
逃げれば良いのか私も手助けするべきか、あ、サテラ君の落下攻撃なら……走っている目標に当てられる?
そうこう迷っている私の脇を、黒い何かが駆け抜け、更には二人の間も通り過ぎ、キメラ種に立ち向かった。
「ここは任せろ!」
黒い皮のロングコートを靡かせ、黒のシャツにズボン。無駄に多いベルトで体を締め、その手に持つ剣は二刀流。
背中で語るその黒い影は、中二病患者だった。