表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
仮定のアーリィは今日も異世界の空を飛ぶ  作者: 田園風景
呪いの中心カオスゼロ
156/167

第百五十六話 去りゆく者たち

  まずはルシードが斬りこんだ。

 ヴェタリーは、相変わらず避けるそぶりも見せずに反撃してくる。


「お前、前より速くなったな? ……まあ、俺には関係ないけどな」

「くそっ!」


  以前と変わらず、攻撃がすり抜ける。

 振動ナイフを埋め込んで振動させても、高周波ブレードを通しても同じだ。

 ただ、今回はそこにベクトも攻撃に加わった。

 ベクトは土や石、木の枝をぶつける等、攻撃の種類を増やしている。

 しかし、それでもまだ足りない!


「サテラ君、GO!」


  攻撃の量をもっと増やす!

 私はサテラ君を、二人の間から滑り込ませるようにヴェタリーにぶつけた。

 ヴェタリーに効果が無いのは同じだが、動きが少し変わった。攻撃を避ける様子を見せたのだ!


「ちっ、小賢しい奴らが!」


  ヴェタリーはこれまで、スキルにより一方的に攻撃してきた。その為だろう、自身が追い詰められるという状況に慣れていないのだ。

 もう少し押し込むことが出来れば……

 ……そう思ったのも、つかの間だった。


「ほら、どうした!」

「きゃ!」


  反撃の剣が、ベクトの肩をかすめた。赤い線が走る。

 ヴェタリーは、透過する攻撃を選別し始めたのだ。

 受けても大した影響のない、土や木片に対して透過せず、そのまま受けている。そうすることで、スキルが限界に到達するのを防いだのだと思う。

 こうなると……単純に手が足りない!


  ルシードとベクトが私の所に下がってきた。

 今の所、傷はベクトの肩だけでそれも浅い。しかし疲労の方が溜まってきたのだ。

 疲労は攻撃の頻度を落とし、反撃の回避を難しくする。


「ははは、どうした? 段々良い顔になってきたじゃねえか」

「くそ~。そのスキル反則だよ!」


  ヴェタリーは、ゆったりとした足取りで、じわじわ迫ってくる。

 私たちを逃す気がないのは、目を見ればわかる。油断なんて、まったくしてない。


「ベクト、どう? 突破口何かない?」

「……今のところ、無い。できるのは、逃げること」

「そんなぁ」


  じりじりと近づいてくるヴェタリー。

 持つ剣をいつでも振れるよう、構えている。

 ……逃げるしかない?

 そう思っていた所に、意外な乱入!


「ヴェタリィぃ!」


  レン代表を追ったはずのソウルさんが戻ってきたのだ。

 キメラ種の体はスタぼろで、あちこちから体液を流して、まさに満身創痍。

 恐らく、レン代表と科学者軍団の返り討ちに遭ったのだろう。


「ソウル?」

「ごのままじゃ、がだぎウでなぃぃ!」


  ヴェタリーは、そんなソウルさんを一瞥しただけで、またこっちに剣を向けてくる。


「俺は忙しいんだ! 死んでも向こうを押さえてろ!」


  ヴェタリーはソウルさんのピンチを意に介さず、私達に剣を向けた。

 それに反応したのが、何故かソウルさん。


「ぉぉぉ! ぞれ、俺のがだぎぃぃ!」

「ちっ、何しやがる!?」


  ソウルさんは、ヴェタリーに覆いかぶさるように突進してきた。

 しかし、ヴェタリーには通用しない。

 するりと、ソウルさんの体を通り抜け、離脱しようとした。


「だめ! おでのぉぉ!」

「ぅ、てめえ!」


  次の瞬間、ソウルさんの体から、毒液が撒き散らされた。


「アーリィ、ルシード、離れて! あれに近づいたら危険!」


  虹色の輝きを放つその液体は、壮絶な煙を発生させている。

 その煙に巻き込まれたヴェタリーは、明らかな苦痛の表情を浮かべていた。

 あの毒液はきっと、ヴェタリーのスキルの限界を突破しているのだろう。


「ここまで見てやった恩を忘れやがって……この復讐狂いがぁ!」


  ヴェタリーが、ソウルさんの顔面に剣を突き刺す。

 壮絶な断末魔を上げるソウルさんは、更に毒液と竜頭からの炎を、まるで自分が浴びるかのように放ち続ける。


「ぉぉぉ!」


  ヴェタリーの服が溶け、皮膚が爛れていく。

 剣も手放して、必死にソウルさんから離れようともがいてる。


「こんな形で悪いけど!」


 私はサテラ君を、ヴェタリーとソウルさんに向けて撃ち出した。

 ソウルさんはまともに受けて吹き飛ぶ。続く断末魔も徐々に弱くなっていった。

 そしてヴェタリーも、今まで攻撃を透過していたが、毒液火炎まみれではそれも叶わず、サテラ君に大きく吹き飛ばされ、地面に転がった。


  辺りは、酷い有様だ。

 まだ残る毒の煙を吸い込まないように、注意が必要だ。

 毒で溶解した地面に足を取られないように注意する必要もある。




「……まだ生きていたか」

「……時間の問題だ、馬鹿が……」


  ヴェタリーは、地面に伏していた。

 体の一部が溶解している。まだ生きているのが奇跡なぐらいだ。

 ルシードが近づき、問いかける。


「お前のスキル。結局、何だったんだ?」

「……『フィージョン・セパレイション』。あらゆるものと融合・分離が行えるスキルだ」


  融合と分離のスキル。

 透過していたのではなく、融合していたのね。

 ソウルさんの毒液を受け、融合の許容量を超えていた。超えたその時、毒の影響をまともに受けてしまったと……

 ヴェタリーは、わずかに首を動かして、私を見上げてきた。

 その目は、澄んでいた。……不思議なくらいに。


「世界が終わって……お前らを殺して……それから好きにしようと思ってたんだよ……」

「なんで、そんなことを?」

「はっ! 理由なんてねえよ……強いて言うなら、生まれついての……サガだ」


  そう言って、ヴェタリーはカオスゼロの方へ顔を向ける。


「あいつと俺は……違う……が……良いか……」


  口元を歪めたまま、世界最大の殺人狂――ヴェタリー・シェイドは、静かに息を引き取った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ