第百五十話 解放されつつある魔獣
レン代表と、これから何をすべきかを話し合った。
……とはいえ、やれることなんて限られてる。何せ、世界中がとんでもないことになってるんだから。
「街々への救助は、能力よりも人手です。此方に任せてください」
この世界で、自衛できて、他所にも手を差し伸べられる街って、すごく少ない。
トースアース、キョウスティン、ヒョーベイ……後、何ヶ所かの街が避難所みたいになってる様子。
とはいっても、避難の途中で魔物の群れに襲われる事が頻発しており、避難がうまくいっていないのが現実。
しかも、受け入れた避難者の中に盗賊とかが混じってて、街の中で問題を起こすケースもあるらしい。
警備がピリピリしてた理由の一つって、きっとそれだ。
それでも、できるだけ多くの人を助ける為に、受け入れを続けている。
……この街の人たち、やっぱりすごいと思う。
「この街は大丈夫なんですか?」
「今のところは。ただ、人手が圧倒的に足りていません。それで、提案なのですが……」
レン代表の提案は、有力な街同士の連携……つまり合流だった。
合流して、人手の確保が目的である。
道中で魔物に襲われる対策として、警備のロボットを配置したという。これなら魔獣を引き寄せてしまう事もない。絶対安全というわけでもないが……
「わかりました。ヒョーベイに戻ったら、直ぐ運営に提案してみます」
「お願いします」
「それと、今回の事態についてですが……」
私はアノンの事、カオスゼロなる所がある事を伝える。
騒動の要因となった帝国の侵攻は、事実上終わっているのだ。
結果的にとはいえ、帝国の侵攻は魔獣魔物を防ぐ力を削いでしまっている。
もし、帝国の侵攻が無ければ、元々街や集落が備えていた防衛力があっただろう。帝国側でも守ろうとしているのだろうが、まだ侵攻中のつもりの人もいる。タイミングが悪い。
っと、ちょっと話が逸れたね。
「カオスゼロ……そういえば、遥か遠くの森の中に見慣れない歪みが観測された事があります。観測者はそれを直視した後、原因不明の不調に陥り、長期間動けなくなってしまいました。それが、そうなのかもしれませんね」
「他に当ても無いし、そこに賭けるしかないかも。詳しい場所を教えて貰えませんか?」
カオスゼロは、世界に駆け巡る呪いの中継地点、または源流となっていた所らしい。
アノンはそこで呪いを解き放ったのだから、もしかすると、そこで再び呪いを掛けることが出来るかもしれない。
方法は……ベクトに任せよう。
「レン代表、ありがとうございました。私達はこの後ヒョーベイに帰って、それからカオスゼロを目指します」
「場所は森の中です。当然魔獣も居るでしょうから、十分に注意してください。生き残る事を優先してください」
「はい!」
こうして私達はトースアースを発ち、ヒョーベイへの帰路に戻った。
時間が経つごとに、無くなる命が増えている。滅ぶ街や集落が増えている。
そんな事実が、私を急かした。
「かなり飛ばすよ! しっかり掴まっていてね!」
「仕方ないな……」
風を割いて、私達は空を飛ぶ。
「もうちょっとでヒョーベイだわ・・・・・」
「流石に疲れた……」
ベクトが珍しく、ちょっとぐったりしてた。
私もこの速度で長時間飛び続けたのは初めてだった。流石に疲れで、サテラ君を掴む手が緩んでしまう。
少し速度を落とそう。ここで落っこちてしまったら意味がない。
そう思って速度を緩めた時だった。
「何!?」
一条の光が、私達の傍を掠めて通り過ぎた。
方向は、森の中から。
視線を向けると、そこには魔獣。
魔獣が、こちらを見ていたのだ。
「もしかして……遠距離攻撃が出来るぐらいに、呪いが解除されている!?」
フェーディングで見た映像の中で、魔獣は破壊光線を吐いていた。
現在の魔獣はそんな光線を吐いていることは無かった。それは呪いの影響だったのかもしれない。
それが消えて、再び放てるようになった!?
「このままヒョーベイに帰ったら、あの魔獣を街に引き寄せてしまうかもしれない。少しルートを変えよう!」
ルシードが提案してくれた内容に、私も頷いた。
「らじゃ!」
幸い、光線を放てるようになったのは、あの魔獣だけみたい。
他の魔獣も見えるけど、同じように光線を放つ様子がなかった。
「ベクト。どう思う?」
「原因はわからないけど、あの魔獣は、他より呪いが早く解けてきたのだと思う。……今はあの一匹だけだけど、その内増えてくるかもしれない」
魔獣の脅威……これまでは直接攻撃だけだったけど、広範囲を脅威にさらすあの遠距離攻撃も出てくるとなると……いよいよ、街の防衛も危ない。
そして私も、空を飛んでいるから安全という訳にはいかなくなるという事だ。
さっきの攻撃も、たまたま速度を緩めたタイミングで撃たれたから外れただけで、もし当たっていたとなると、どんなダメージを受けたか。いや、死んでいたかもしれないのだ。
「こりゃ、カオスゼロまで一っ飛びという訳にも行かないかもね」
暗く沈みそうな先が、見えた気がした。
ようやくヒョーベイに到着したのだ。みんな無事でありますように。