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第十五話 帰還中の雨の中で

  集落メイストーンに到着したのは、夕方に差し掛かる時間。つまりは予定通り何の問題も無く到着してしまったのである。

 いや、道中にはちゃんと盗賊も出てきたんだよ。


「アーリィは馬車で待機。側面後方を警戒して、何かあれば声を上げるんだよ」

「あいさー。警戒するです」


  道を塞ぐように現れた十人程度の盗賊に対して、トムさんが一人で接敵。ヒャッハー系盗賊で判別の必要は無さそうだったけど、一応敵味方判別の呼びかけを実施。呼びかけに対してナイフを投げてきたので殲滅開始だ。

 トムさんは所謂回避盾らしく、複数に囲まれているにも関わらず、ひらりひらりと攻撃を躱していた。それだけでなく、私達に向かおうとする盗賊を斬り付けて、容易に敵を放さない。トムさんが敵を一手に引き受けてくれるお陰で商隊は安全だし、私も楽ちんだ。

 クレウス姉さんは、トムさんの死角に居る盗賊を優先して弓を射かけている。情け容赦なく首や頭を射抜いているので、捕まえるとかは全く考えていないようだ。

 私? 私はちゃんと言われた通り、正面以外の周囲を警戒してたよ。後、クレウス姉さんの弓筒を渡したりとかね。

 とにかく、二人の活躍であっという間に盗賊は殲滅完了。盗賊の身に着けていたもので使えるものは剥ぎ取って、遺体は穴に埋め埋めした。


  商隊はお薬を集落のお医者さんに渡して、集落の長に何やら話している。

 集落メイストーンは、二百世帯程度との事。この集落も街と同じように高い壁で囲っているのは、防衛の為と魔獣への恐怖なのだろう。


「それにしても、こんな世界じゃお薬も高いだろうに、お金って結構持ってるのね」

「そんなことは無い」


  ぽつりと言った私の感想に反応したのはトムさんだった。


「この集落である程度は貯蓄しているだろうが、それでも今回提供した金額には届かないだろう」

「なら、渡しているお薬の料金ってどこから?」

「表向きは集落の借金という事になっているが、実際の所はヒョーベイが無償で渡しているのさ。貴族は自分の街の為にしか動かないものだが、だからと言って、集落等の他を見捨てたいわけじゃない。表立って無償とすると難癖付けてくる奴もいるから、こういう判り難い方法を使っているんだな」


  政治の世界は、ゲーム世界でもややこしいのねぇ。とはいえ、ヒョーベイの貴族にもちょっと興味が出てくる話だった。

 今日の所は集落内の適当な所で野宿。天気が怪しかったけど何とか雨降らずで助かったよ。夜襲警戒の必要は無いんだけど、盗みを警戒する必要はあるので、商隊から一人、ギルド組から一人で夜の見回りとなりました。う~む、折角なんだからクレウス姉さんと恋バナでもしながら眠りたかったなあ。

 私も夜半近くで交代して警戒に当たったよ。トラブルは何も無かったけど、感動を覚える程の夜空が見えた。果て無く煌めく星々を眺めていると、世界に比べて如何に私が小さいかを思い知らされる。けど、悪い気分にはならない。小さい身ならばこそ、果て無き世界を思う存分巡れるのだ。

 まぁ、そう言いつつ、ゲーム世界がどれだけ反映されているかにも拠るんだけどね。




  次の日。集落の人に感謝されながら帰路に着いた。今日の天気はかなり怪しい。黒い雲が遠くに見えるんだよね。雨具は結局用意しなかったのよね。他の人にも聞いてみたけど、この世界では、街の外で活動する人は雨具を使用しないのがデフォらしい。使っても合羽。傘は使えないらしい。……家の傘は街歩き専用ということで。

 急ぎ足でお帰りなんだけど、途中で森の中にコンクリートマンションの残骸らしき物が見えた。


「あれは魔獣カオス・ダンプティが出現した時代の建物の残骸だよ」


  と、クレウス姉さんの談。失われた技術や貴重な資源が山とある筈と言われているが、持ち出して帰ってきた人は居ないらしい。原因? 勿論、例外無く魔獣に襲われたそうな。う~ん。けどなんか惜しいなぁ。何時か行ける機会が無いか考えておきましょ。こう言った所に、地球に帰る手がかりがあるのはお約束だしね。

 お天気は帰るまで持たなかった。かなりヒョーベイに近づいていると思うところで、ザーッと振り出す。止む気配は無く暫く続きそうだ。護衛のお仕事的に荷馬車に潜り込むわけには行かない。

 髪が濡れるのを気にしていた所、トムさんが警戒の声を上げた。 


「クレウス、アーリィ。魔物だ」

「何が出てきたの?」

「ゴブリンとウルフ。左右挟み込まれているな。数が多いかもしれん」

「普通に戦えば負けはしないけど、商隊に被害が出ちゃうかもしれない。商隊は突破して貰って、私らで足止めしましょ」

「そうだな。アーリィ」


  おっと、お役目だね。


「はい。私は何したら良いです?」

「商隊にこのことを伝えて、ヒョーベイへ駆け向けて貰ってくれ。アーリィは商隊に同行するように」

「トムさん、クレウス姉さんの二人だけで大丈夫なんですか? なんなら私も……」

「お前はまだ未熟だ。魔物の数が多い今回は、俺たちのカバーもしきれない可能性がある。なに、俺たち二人なら心配するな。さ、早く伝えに行け」


  確かに二人は強いと思う。盗賊相手も圧倒していたしね。仕方なし。この場は言う通りにするとしよう。


「お気をつけて。怪我もしちゃ駄目ですよ」

「ああ」

「伝言宜しくね」


  頑張って駆け足! 商隊が素早く離脱出来れば、二人も心置きなく戦えるでしょ。被害が出て報酬が減ることも無いだろうしね。

 商隊の隊長さんに状況を伝えた時には、既に魔物が森から出てきていた。今はまだ問題無いけど、続々増えているので、長く留まれば被害が出る事は予測できる。商隊は急速に離脱を開始。私はその商隊の最後尾に着く。

 後に残るのはクレウス姉さんとトムさんの二人。魔物の数は明らかに多く、二人を取り囲みつつあった

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