第百四十九話 破滅的な現状
ヒョーベイから帰る途中、トースアースの男の人を助けて、そのまま進路を修正。
私たちは一路、トースアースに寄り道することにした。
森の中では、ときおり魔物の群れが姿を見せる。
「やっぱり、魔物も大量発生している……」
「原因は……やはり、あの男でしょうね」
狂気の男、アノン。
彼はこの世界の滅亡を望み、カオス・ゼロなる場所で呪いを解放。
魔獣からその呪いを解き放ったそうだが、これも彼の仕業なんだと思う。又はその副産物?
彼を倒し、この事態を収拾することは出来るのだろうか?
いや、やるしかないのだろう。
出来なければ、あの男の望み通り、この世界が破壊されるだけなのだから。
程なくして、トースアースに到着。
このような状況になっても、いや、このような状況だからこそ、飛空移動というのは安全便利なのだ。
いつもなら街の外で降りるのだけど、状況が状況なので、空から街の中に入らせて貰うことにした。
「この街は……まだ大丈夫なようね」
空から見下ろす街は、なんだか静かだった。
平和に見えたけど……不自然なくらい静かで、通りには人の気配がない。
その代わり、街を囲む壁の上には、いつも以上の警備する人が並んでいた。
帝国の侵攻に対するものだったかもしれないけど、それ以外の異常にも気が付いているのかもしれないね。
「お邪魔しま~す!」
以前実験やら台の移動やらを行った広場に到着。すぐに、警備の人たちが取り囲んできた。
「何者だ!」
「あ、私です! 第三実務部の!」
連れてきた男の人が、さっと名乗り出てくれた。
この街で私の顔はそれなりに知れ渡っているのは確かだけど、それはあくまでなりゆきで顔が知れているという程度。
なので、ちゃんとしたこの街の住人が居たのは、助かったね。
「……帝国の件もある。念のため、取り調べを受けてもらう!」
「え、ちょっと!? 私達、あんまり時間をムダに出来ないんで、それを受けている時間は!」
何という事だ。住人の執り成しがあってもこれというのは……想像以上にピり付いている様子。
え~っと困ったな。
「レン代表に取り次いでくれませんか! あの人と私達、顔見知りなんです!」
「駄目だ! 大人しく詰め所まで来てもらう!」
こりゃ駄目だ。男の人も私をフォローしてくれているが、それでも態度を変えない。
情報を得るために来たけど、こうなったら、とんずらするしか……
「アーリィ。ちょっと借りる」
「ベクト?」
ベクトがやおら、私の財布に手を突っ込んできた。
ちょっと、まさかこの人達を買収するの? 逆に怪しまれるのが落ちのような気がするけど……
でも、ベクトが取り出したのは……一枚のプレートだ。
ああ、そういえば……この街に初めて入った時に作った身分証もプレート。
そういえば、そんなの作ってたっけ。
「これを」
ベクトがそのプレートを警備の人に差し出す。
最初は怪訝な顔をしていたけど、プレートを読み取るような機械を当てると……たちまち態度が軟化した。
「これは失礼しました!」
「は、はぁ」
あまりの態度の代わり様に呆気にとられる。
私の情報って、この街ではどういう扱いになってるんだか。
「伝えたい情報がある。レン代表に取り次いでくれないか?」
ルシードが前に出てくれた。
最近は私でもこなせるようになってきたけど、はやりルシードは頼りになる。
「承知しました! では、恐縮ですが中央管理塔までご同行を!」
「宜しく頼む。アーリィ、ベクト、行こう」
「ありがとね、ルシード」
男の人とはここでお別れ。
所属部署にこれまでのことを報告しに行くんだって。
感謝の言葉を残して、去っていった。
さあ、私たちは中央管理塔――レン代表の執務室を目指して、Go!
中央管理塔。この街に来た時も、ここに来たね。
あれから、色々と変わったもんだ。本当に、色々と。
ソファーで暫く寛いでいると、やって来たのはレン代表。
あまり寝てないのか、疲れた表情が見て取れる。
「アーリィさん、ベクトさん、ルシードさん。ご無事で何よりです」
「レン代表も。お疲れのようですが大丈夫ですか?」
レン代表は軽く目元を指で押さえて、疲れを誤魔化すような仕草をした。
「状況がかなり緊迫しています。他の街に集落を助ける余裕がある所は少ないですからね。正直、あまり眠れていません」
「……あまり無理しないでください。倒れたら、もっと大変になりますから」
「気を使って貰ってありがとう。それで、今回来たのはどういう話を?」
「ちょっと、色々あって。出来れば、内密に話したいのですが」
レン代表は快く応じてくれて、また執務室に通してくれた。
そこで私達の経験を話す。
帝国に乗り込んだこと、元帝国の人間で裏切ったアノンという男が皇帝を暗殺した事、そして魔獣の呪いが解放されたことを伝えた。
レン代表は、私達の話を黙って聞いてくれていた。
魔獣が呪いから解放されたという所には、流石に眉が動いたが。
「……状況、理解しました。実は、こちらにもいくつか報告が届いていたんです。それが原因だったか……これは非常に危険ですね」
そう言って、レン代表は深くため息をついた。
そこから、世界で起きている破滅的な現実を聞かされた。
各地に魔獣が入り込み、破壊と殺戮を繰り返していること。
無数の魔物の群れが、次々と集落を飲み込んでいっていること。
この世界、人間の世界が……
一刻一刻と、終わりに近づいていた。
いつも読んでください、有難うございます。
書き貯めが進み、ラストまで書き終えることが出来ました!
なので、明日のお昼の投稿以降は、毎日朝7時10分の予約投稿に切り替えたいと思います。
164話から最後三話は、時間を置いての連続投稿する予定。
拙い所が多々ありますが、どうか寛容なお気持ちで、宜しくお願いします。