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仮定のアーリィは今日も異世界の空を飛ぶ  作者: 田園風景
呪いの中心カオスゼロ
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第百四十六話 カオスゼロ

「ガリア……ごめん……後を頼む……」


  その言葉を残し、エインドレス皇帝ハインリヒ・ヴェル・エインドレスは息を引き取った。

 この世界を戦争の渦中とした人物。でも、その意図は決して暗いものではなかった。

 それなのに、こんな形で……まるで暗殺みたいな最期を迎えるなんて。


「ハイン……! ああ、なんてこと……」


  ガリアちゃんが、悲しみを堪えきれず声を上げる。その頬に、一筋の涙が伝っていた。

 その表情はすぐに怒りへと染まっていく。


「アノン……直ぐに、そこを退きなさい!」


  ガリアちゃんが何かつぶやくと、その手に赤い光が生まれ、それを振るう。

 赤い光から生まれた、赤い線のような津波が、アノンとキメラ種に襲い掛かった。


「ぎゃぉぅぉぅ!!」


  キメラ種が赤い線に貫かれ、苦痛の叫び声を上げながら吹き飛ばされる。

 そのまま地面に崩れ、もはやピクリとも動かなかった。

 アノンは、素早く回避していた。

 以前よりも明らかに身体能力が上がっている。一体、何があったの?


  ガリアちゃんは、傷ついたエインを魔法で浮かせると、その手を取り、皇帝のもとへと駆け寄った。


「キメラ種が相手にもならないとは、流石ですね。では……」

「やらせん!」


  アノンが何かをしようとした、その瞬間。

 ルシード、ベクト、そしてリーオンが一斉に突撃した。


「何っ!」

「くっ!」

「てめぇ!」


  最初に会った時のアノンは、ルシードやベクトに及ばない力量だったと思う。

 しかし、今の彼は……三人を吹き飛ばしていた。

 そして見えた。彼の手が異形と化しているのを。

 その手はルシードの剣速に、ベクトの巧みな打撃に、リーオンの怪力に打ち勝っていた。


「ふぅ。この力にはまだ慣れていないものでしてね。これ以上のお付き合いは勘弁させて頂きましょうか」


  まるで、何でもないことのように微笑むアノン。


「あんた! 何考えてるのよ!」


  激昂のガリアちゃん。皇帝の亡骸を抱えてキッとアノンを睨んでいる。

 その周りには、目に見えるほど分厚い魔法障壁が展開され、魔力の滞留が起きていた。

 今にも爆発しそうな気配を放っている。

 そんな彼女とは対照的に、アノンは冷ややかに言い放つ。


「これから、この世界が壊れますが、直接ではないとしてもお世話になりました皇帝様に一つお礼を、自身の手でしたかったのですよ」

「貴様!」

「貴方方全員を相手にしても、今の私であれば……なんとか勝てるとは思いますがね。そんな苦労をしたくはありませんので、代わりを用意しました」

「代わり?」


  アノンが空に手を掲げると、次の瞬間……


 轟音。


 壁も、天井も、爆発的な力で吹き飛んだ。

 その向こうには……


 炎に包まれる帝国の街並みが、広がっていた。

 至る所から、悲鳴と破壊の音。世界に広げた戦争の悲劇を、一身に受けたかのような光景が広がっている。


「魔獣がいる? なんでだ?」


  ルシードの声に、起こった火に映る影を良く見た。

 闇夜で分かり辛いが、多分あれは魔獣。


「なんで魔獣が街の中に居るの!? 呪いのせいで入ってこれないはずなのに……」


  魔獣カオス・ダンプティは、フィーディングの人達が文字通り命を犠牲にして、その身に呪いを植え込まれている。

 呪いは永い年月を重ねて、魔獣の能力を著しく抑え、活動する範囲を狭められているはず。

 その範囲外で、この世界の人類は生き延びてきたのだ。


「魔獣に掛けられた呪いは私が解除させて貰いました」


  アノンが朗々たる声で述べる。


「今、活動する範囲の制限が徐々に解かれています。その内に能力の制限もいずれ無くなるでしょう。さて、魔獣に対して人々はいつまで生き延びる事が出来るでしょうか? 楽しみです」


  今まで内に秘めていた狂気を、今は隠そうともしていない。

 みんな、余りの事態に呆然としている。

 私も、大変な事態となっていると何となくわかるが、それ以上の理解が出来ないでいた。いや、拒んでいるのかもしれない。

 ……でも、確かにわかる。

 世界が、滅びへ向かって転がり落ちているってことだけは。


「何をしたのよ、アノン! やったこと、全て吐いて貰うわよ! 魔法:シールドフレア!」


  ガリアちゃんが纏っていた魔法障壁が急速に展開される。

 魔法障壁の圧は、アノンだけでなく、私やルシード達にも襲い掛かった。


「うわわ!?」


  転がって避ける。

 どうやら、私達には眼中無いようで、迫りくる壁が少なかったので助かった。

 だけど、アノンは違う。

 何層にも重なった魔法の壁が、まるで檻のようにアノンを包み、潰そうとしている。


「魔法障壁による圧殺ですか……ですが!」


  アノンが拳を振るった瞬間、あらゆる障壁が砕け散った。


 ベクトのスキルによる解析でもなく、魔力操作でもなく。

 ただの力で、すべてを壊した。


 やっぱり……アノンは危険すぎる。


「一部とはいえ、魔獣をこの身に同化させた甲斐がありました」

「なっ!?」

「そんなの、不可能よ!」


  皆、驚愕する。

 魔獣は、言うなればこの世界全ての天敵で相容れないものだ。相対するだけで、この世界の住人は死を覚悟しなければならない程の存在。

 それをどうやって?


「カオスゼロ。魔獣を縛る呪いの中枢……その場所を、偶然にも見つけましてね。いやぁ、実に素敵な場所でしたよ」


 アノンの声が、どこまでも不気味に響いた。

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