第百三十五話 ピンチ!(いろいろな意味で)
あの後の事は、余り思い出したくない。
尋問と言う名の暴力が、イチイチ飛んできたのだ。
そもそも私は、大した情報は持ってない。
なので話しようが無いのだが、向こうは私を騎士か兵だと思い込んでいるのか、知っている前提で話を進めてくる。
当然、答えられるはずもなく……難儀した。
最後になって、ようやく私が本当に何も知らないと悟ったのか、尋問は適当な所で打ち切られた。
幸いと言うべきか、尋問してきた男たちはプロだったようだ。
痛いが、後にあまり残らない殴り方をしていた。お陰で、後々まで残るような怪我はしていない。数日も経てば治るだろう。
とは言ってもね……
帝国兵に引き連れら、再び牢屋へと戻ってきた。
「大丈夫ですか! 民間人になんてひどい事を……」
一緒に囚われている人達が、心配して声を掛けてくれた。
この人達だって、同じような尋問を受けたはずなのに。
それなのに、私の心配をしてくれるなんて。
胸を借りて落ち着いてから……少しだけ泣いた。
どれぐらいの時間が経ったの分からない。
この牢屋には外が見える所がないので、今が昼なのか夜なのか、把握できないのだ。
「夕飯だ」
牢の番をしている帝国兵から、粗末なパンと水が用意された。
味付けも何もないパンは、ボソボソだし、とても満足できる量じゃない。
でも、顎を動かしたことで、なんとか空腹は誤魔化せた。
お手洗いについては……うん、女の子の秘密なので、突っ込まないように。
そして夕食という事は、今は夜なのだろう。
明日の私達はどうなるのだろうか?
少しの時が経ち、眠気が催してきたころ、帝国兵が牢屋の前までやって来た。
「お前達は明日、帝国領まで移送される!」
ええ!?
「そこで帝国への従順を誓うなら、名誉ある帝国市民へとなる機会が与えられるだろう。そうでないなら……奴隷として、厳しい結末を迎える事になる。身の振り方をよーく考えておくんだな!」
なんてこと!
明日には、ここから移送される?
そんな状況になったら、きっと逃げるのがもっと難しくなる。
つまりは、今晩中に、脱出する算段を立てないといけなくなった訳だ。
帝国兵が去った直後、別の牢屋から声が上がった。
「おい、そっちは今、大丈夫か?」
話しかけてきたのは、別の牢屋に囚われている男性のようだ。
私の牢からは、女騎士らしき人が、それに答えている。
「今は大丈夫です。どうしますか?」
「この状態で、この牢屋から脱出するのは難しそうだが……ちょっと話し合おう」
声だけの、ひそひそ話での相談が続けられる。
とはいえ、この牢屋は見た目新しい。どこか崩れている場所がある可能性は低い。
それに、時間がないのも問題だ。
ここではなく、移送中や帝国領に着いてから、というのはどうだろうか?
でも、そういったタイミングで囚人が逃げ出そうとする可能性なんて、帝国側も想定済みだろう。
どこか隙はないかな……
あーでもない、こーでもないと悩み続けるが、良い案は浮かばない。
帝国兵の宣告から、しばらく経ったころ。
再び牢の前に影が現れた。
なんだろう? まだ何かあるの?
ニヤニヤと、嫌な笑みを浮かべた帝国兵たち。
「よう、お前ら。お先真っ暗らしいじゃねぇか」
何を言い出すかと思えば……
「最後に、いい思いをさせてやるよ」
背筋が凍る。
帝国兵たちは、剣をちらつかせながら、私のいる牢屋へ入ってきた。
武器もない、護るものもない私たちに、ゆっくりと近づいてくる。
「な、なに?」
「騒いでくれるなよ……騒ぐなら、抵抗したって事で、殺してしまっても構わないんだからな。俺達はそれでも構わないんだぜ……へへ」
やばい! こいつら、私達に手を出すつもりだ!
男たちは、牢内の女性たちの顔を覗き込み、、一人を選び出す。
そして、その内の一人が私に目を付けてきた!
その顔には、嫌悪感を催すほどの下劣な笑みが浮かんでいる。
「よ、よし、お前! ついて来い!」
「い、嫌!」
男が私の手を引く。
触れられるだけで、ぞわりと嫌悪感が広がる。
全身の毛が逆立ち、心臓が早鐘を打つ。
精一杯、抵抗するけど……いや、結構抵抗できた。
これでも色々な冒険をやってきたからね。
男が中々私を引っ張れず、男はイラついたように舌打ちする。
そこに、私を見てくれた女兵士さんが庇ってくれた。
「その人は民間人よ!」
「そんなの、俺には関係ねえ! おら、抵抗するな! 斬られたいのか!」
男が抜身の剣を、私の目の前に突き出してきた。
女兵士さんが私を庇おうと割り込むが、別の帝国兵がすかさず剣を振るった。
「きゃ!」
「ああ、なんてこと!」
女兵士さんの腕に赤い筋が走る。早く手当てしないと!
駆け寄ろうとする私を、別の男が遮った。
「何してんだよお前。今日だけなんだ。おら、連れてくぞ」
「お、おう。済まねえな」
私の両腕が、がっちりと掴まれる。
ダメだ!
このまま連れ出されたら……!