第百三十四話 捕らわれの身
気が付くと、そこは薄暗い牢屋だった。
牢屋としか言いようのない牢屋。
私は粗末な毛布に寝かされていた。
埃っぽいけれど、不思議と汚れてはいない。
床も壁も新しい感じがする。出来立ての牢屋……と言う事かな?
囚われていたのは私だけでは無かった。周囲には何人かの女性が、うなだれる様にして座っている。
それと、見えない場所からも気配や話し声が聞こえてくる。
どうやら別の牢屋もあり、男女に分けて収容されているみたいだ。
とりあえず、服装チェックだ。
……大丈夫。来ている服は、捕まる前と変わっていない。変な感じもしないし、脱がされたとかはされていないと思う。
でも、腰に帯びていた剣や、持っていた荷物、財布等は全て無くなってた。念の入った事に、剣型の飾りまで剥ぎ取られている。
当然か。捕囚になった以上、武器になりそうな物を持たせてくれるわけないよね。
あの剣は、キョウスティンで貰った特別製なのに……無念。
「あ、気がつかれましたか?」
近くにいた女性が、心配そうなに私を覗き込んでくる。
「痛い所はありませんか? あなた、ここに連れてこられた時からずっと気を失っていたので、心配だったんですよ」
「うん、平気。えっと……ここは? どうなったんですか?」
「ここがどこかは分かりません。帝国の陣内……だとは思います」
話を聞くと、やはりあの時の奇襲で、たくさんの騎士や兵士が捕らわれ、ここに連れてこられたらしい。
ヒョーベイがどうなったかは分からないそうだ。
この人も、あの場にいた兵士さんで、医療の知識があるからと、私を見てくれていたそうな。
「ありがとう。助かりました」
お礼を言って、壁に背を預ける。
さて、これからどうしよう?
「っと言っても、武器も何もないんじゃ、どうしようもないか。ルシード、ベクト。助けてよ~」
思わず泣き言が零れるけど、状況は何も変わらない。
暫くすると、時々牢屋から一人が連れ出され、しばらくして戻ってくる。そしてまた、別の誰かが連れ出される。
話を聞くに、尋問を受けているそうだ。
こういうのって、呼び出されるまで無駄に緊張するよね。
「おい、そこのお前! 出てついて来い」
とうとう、私の番が来たらしい。
ここで逆らっても意味は無いので、大人しくしたがおう。
皇帝の宣言通りなら、大人しくしていれば殺されるなんてことないはず。
それを信じるしかない。
どうなるかと不安を抱えながら、帝国兵の後について行った。
牢屋の外に出る。ここは森の中を切り開いた陣地だった。
香の香りが私の鼻をくすぐる。
陣内に充満している? 何のためだろう?
それに、森の中なのになぜ魔獣は襲ってこないのだろうか?
そこで思い出したのが、アストラロードのオズボーンだ。
あいつは、私達に森の中からの奇襲を見せた。
どうしてか謎だが、この香に理由があるのではないだろうか?
この情報をヒョーベイに持ち帰りたいのだが、出来るかな?
案内され着いたのは、小さな部屋だった。
何の飾り気もない、殺風景な一室。
「連れてきました」
帝国兵がドアをノックすると、中から短く命令が返る。
「入れ」
端的で、神経質そうな声が帰ってきた。
部屋の中で待っていたのは、細身の男と、屈強な体つきの男が一人ずつ。
ああ、こっちは間違いなく力仕事担当だね。
「さて……とりあえずそこに腰掛けたまえ。牢屋の床は固かっただろう?」
細身の男が椅子を示す。
その目つきが、なんか嫌。陰湿そうで、冷たくて、品がない。
けど、私には選択肢がなかった。
不服ではあるが、とりあえず従って椅子に座った。
何気なく、筋肉質の男が私の後ろに移動した。なんか、嫌な予感がするなぁ……
「これから尋問を行う。大人しく尋問に答えれば、痛い思いをせずには済むし、私も楽でいいんだがな、お嬢さん」
徐々に、胸の奥がで何かがぐるぐると渦を巻く、気持ち悪い感じ。
人生初めて尋問なんて受ける事になるけど、こんな良くわからない気分になるんだね。
「さて、まずは自己紹介といこうか。名前と所属を」
「……」
「お前も黙秘か。忠誠心があるというのは結構なことだが、今は悪手だな。手間を掛けさせるな」
正直言えば、怖い。
でも、だからと言ってペラペラと喋るというのも違うと思う。
「まあいい。では君が知っている軍の情報を教えて貰おうか? ああ、黙秘は止めたほうが良い。痛い目を見たくは無いだろう?」
「……私はヒョーベイのギルドメンバーよ。軍の情報なんて知らない」
「ふむ……」
男は立ち上がり、窓の外を眺める。
――何を考えてるんだろう?
「? ……きゃっ!」
突然、頬に衝撃。
椅子ごと床に転がった。
「おやおや、椅子から転げ落ちて……どうしましたか?」
「この……!」
頬がジンジンする。
振り向くと、後ろの男が冷たい目で私を見下ろしていた。
恐怖の尋問は、まだ始まったばかりだった……