第百三十二話 何も進展しないのに、妙なピリピリした雰囲気
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最近、街の雰囲気がピリピリしている。
それも当然だ。帝国が提示した二ヶ月が、ついに過ぎたのだから。
とはいえ、ヒョーベイにはまだ帝国軍が侵攻して来ていない。
だからなのか、緊張感が高まりつつも、いつもと変わらない活気が通りにはあった。
ただ、郵便配達の量が増えている気がする。
きっと、みんな何かをしていないと、不安で仕方ないのかもしれない。
状況を知ろうと、ジゼルさんに会いに行ったけど……
「申し訳ありません、アーリィ様。ジゼル様は今、手が離せない状況なのです」
「あらまあ。そうですか……」
会えないのである。
怖い事が起ころうとしているというのは知っているのに、何が起きているのか状況が把握できないというのは、なんとも、もどかしいものだ。
「アーリィ。ちょっと行ってくる」
「また? ジゼルさんに宜しくね」
ベクトが困ったような顔をしながら、扉を開ける。
手を振って見送った。
ベクトのスキルが反乱鎮圧に役に立ったという話をジゼルさんが、「是非とも助言が欲しい!」と迫られた結果、こうやって時々ベクトがジゼルさんのもとへ出向くようになった。
普段は家でゴロゴロしているのに、居ないとなるとなんだか寂しい。
この世界の現状の人達は、殆ど戦争というものを経験していない。まぁ、私も経験なんてしてないんだけどね。
物語に近い程度の知識しかなかった為、今回の帝国侵攻の話には、凄く運営や貴族たちは相当焦ったそうだ。
ベクトの助言のお陰で、形だけはそれなりになりつつある。
……門外に陣を張る程度しか出来てないけど、本当に大丈夫なんだろうか?
「今日は昼番だ。だから、今日はギルドに居ないからな。用があるなら夜か明日に頼む」
「ルシードも大変だねぇ。気を付けて、いってらっしゃい」
ルシードは力仕事はしていないはずだけど、少し疲れた表情をしていた。
仕事以外では、大抵ギルドに居るのに、最近はなかなか顔を見られない。
有能な男は、引く手数多、ってことね。
今、ギルドには街の治安維持の補助依頼が来ている。
騎士たちは帝国侵攻の準備で手が回らないから、代わりにギルドメンバーが24時間体制でパトロールをしているのだ。
本来は騎士の仕事だけど、騎士は侵攻への備えで忙しく、そこまで手が回っていない。
そこで、ギルドへの依頼だ。ギルドメンバーと言う戦力を街中に留め、遊ばせないという意味もある。
とはいえ、ギルドメンバー全員が治安維持に向く性格とは言わない。だから、適性がある人だけが選ばれて駆り出されていた。
まあ、これは余り心配はしていない。
ヒョーベイの住人は、気質が穏やかな人が多いしね。
二人がお仕事で会えないが、私も暇な訳じゃない。
今日も、お手紙を届ける仕事が割り振られているのだ。
この仕事をしていると、街のあちこちの人と顔を合わせる機会が多い。
最近は特に、不安を感じている人が多いのか、私を見るとホッとした表情を浮かべる人もいる。
だからだろうか。
たまに、お話し相手として引き留められてしまう。
気持ちは分かるけど、ごめんなさい!
私、次の配達があるのよ!
そんな中で、気になる話を耳にした。
「もう、帝国軍が街の近くにまで来たらしいよ」
とうとう、この街にも戦火が及んできたのだ。
道理で、見かける騎士の慌ただしいわけだ。
宣言通りであれば、帝国からの宣戦の使者がジゼルさんの所に来るはず。
その後、どうなるのだろう?
ここまで帝国が来たという事は、その間にある街や集落はもう落ちてしまったという事だ。
キョウスティンやトースアースが、今どうなっているか……
情報を得る手段はあるはずなのに、私はあくまで一般人の身。
外の情報がほとんど入ってこないのがもどかしい。
配達が全て終わり、今日のお仕事は終わりかな? と、ギルドに居ると、マシロちゃんが手紙の束を持って声を掛けてきた。
「アーリィさん。ちょっとゴメンなんですけど~」
「ん?」
ツインテールを揺らしながら、マシロちゃんが申し訳なさそうに頭を下げる。
「この手紙が漏れていたのです。すみませんが、これを今から届けてくれませんか?」
「良いけど……どこ宛て?」
「門外の陣です。外で頑張っている騎士様への手紙なんですよ」
ふむ。タイミング的には、帝国軍と睨み合っている最中かな?
ちょっと怖いけど、外の様子を知るにはちょうどいい機会かもしれない。
「わかったわ。他の手紙は配り終えた所だし、これぐらいお安い御用よ」