第百二十九話 これからどうしようか?
私は考え続けていた。
あれこれ思いを巡らせるうちに、周りの状況をほとんど把握できていなかった。
……どうやら、後続の騎士たちが上がってきていたらしい。
騎士達は、まずオズボーンやその配下を捕らえ、次に生き残った騎士や私達の保護に当たった。
そして、最上階のこの部屋と塔屋上の確保に移行したようだ。
皇帝の衝撃的な宣言を聞いたはずなのに、それでも冷静に動けるなんて。
流石訓練した騎士、ってところだね。
私が落ち着いたのは、トースアースの一室。
折れてしまったサテラ君を抱えながら、ベクトに膝枕して貰っていた時だった。
あれだけいろんなことが起きたのに、案外平気な顔をしていたのは、きっと余裕がなかったから。
一つ一つをじっくり考える暇もないくらい、怒涛のように出来事が押し寄せていた。
サテラ君は折れてしまったが、それでもスキルで操作出来たのだ。
これはサテラ君がまだ死んでいない事を意味していると思っている。
だけど、以前の姿を取り戻すには、どうすれば良いだろうか?
レオさんとルイサさんが亡くなってしまったことも悔やまれる。
あの二人は、今から起ころうとする戦いできっと必要になるはずなのに。
二人が守っていた街は大丈夫なのだろうか?
そして……ガリアちゃんが、世界を侵略しようとしている帝国にがっつりと深く関わっていたこと。
私達はいわばこの世界の異物だ。なのに、どうして彼女は、この世界を脅かす側にいるの?
どういう意図なのだろうか?
「この世界の為、根本から変える」
それが世界侵略と、どう繋がるというのか。
そしてルシードを思わせるような、ガリアちゃんの傍にいた謎の男。
どことなく、私とルシードの関係に似ている気がする。
あれは、一体なんだたんだろう?
答えは何処にあるのだろうか?
正解は何なのだろうか?
色々と思い浮かぶのに、上手く考えが纏まらない。
「ベクト。アーリィは落ち着いたか?」
「ええ。まだ色々と考えてはいるようだけど、時間が解決してくれると思う」
ルシードとベクトが話している。
二人とも、落ち着いていた。
こういった状況でも、悩まず動けるというのは凄いと思う。
改めて思うが、頼れる仲間だ。ありがたいことだ。
お陰で私はこうやって思う存分、ダラダラと考えることが出来きる。
……こう考える事が出来る辺り、結構自分も余裕があるのかもしれない。
「失礼。少し話を聞かせて貰いたいのだが、今良いですかな?」
部屋に入ってきたのは、レン代表だった。
ルシードがそれに対応してくれる。
レオさんとルイサさんの死の経緯を説明し、残念ながら守れなかった事。
帝国の横槍でオズボーンを捕らえる事が出来た事。
ガリアちゃんの事は言わないでくれた。もし話してしまえば、ガリアちゃんを帝国から逃がすことが難しくなるかもしれないから。
今は、言わない方が良いと思う。
「あの場で起こった事の概略は理解しました。これから何度か、詳しく事情を聴くことになると思いますが、その際は宜しくお願いします。それほど長く引き止めるつもりはありませんよ。貴方達も、なるべく早くヒョーベイに戻る必要があるでしょう?」
「お気遣い、感謝します。ああ、ついでに相談したいのですが」
「なんでしょう?」
「アーリィの剣が、あの時に折られてしまいまして。どうにか直せないでしょうか?」
「あの剣が折られるとは……」
レン代表が、驚いたように目を細める。
「あの剣が折れるという事は、魔獣カオス・ダンプティを倒せる可能性がある事を意味します。そういった意味でオズボーンに聞くべきことが増えましたね。で、折れた剣の修復ですが……正直、難しい」
「難しい、とは?」
「魔獣にダメージが与えられないのと同様に、その剣に加工を施すことが出来ないのですよ。完全に修復するとなれば、それこそ、その剣を用意した神の使いという方にお願いするしか無いでしょうね」
「そうですか……」
「再び一つに直すことはできませんが、代わりに別の形とする方法が考えられます。暫く私に預けてみませんか?」
「……アーリィにはもう少し休息が必要です。後で、お返事してもいいですか?」
「分かりました。アーリィさんは、これからの戦いで必要な人材です。悪いようにはしません。それだけは、お伝えください」
「わかりました。後ほど、お願いします」
レン代表が部屋を去ったようだ。
いつまでも怠けているのは流石に悪いので、そろそろ起きよう。
ずっとゴロゴロしてたし、さすがに動かないと。
体を伸ばしながら、ゆっくりと上半身を起こす。
今、時間はどのぐらいだろうか?
アストラロードでの戦いでお昼ご飯を食べてから、結構な時間が経ったはず。夕方か夕飯時と言った所かな?
……お腹、すいた。
気持ちはどうあれ、食欲には影響ないらしい。
「アーリィ。もう大丈夫か?」
「うん。気分はまだスッキリしないけど、とりあえずは」
「なら、良かった」
「ベクトも、膝貸してくれて有難うね」
「気にしない」
さて……これから、私はどうしようか?
二ヶ月後には帝国による侵略が始まる。
それまでにやるべきことは色々あるだろうが、それは街の運営の話。
私はギルドに所属しているため、仕事が依頼されるかもしれないが、基本自由にしていいはずだ。
だったら……
今から直接帝国に乗り込んで、ガリアちゃんを連れ去るというのも手だろう。
そうすれば、世間は戦争で大変かもしれないが、とりあえずガリアちゃんの安全は確保できる。事情だって聴けるだろう。
「ベクト。私達はどう動けば良いと思う?」
「……ガリアの事?」
「そう。ガリアちゃんがどう関わっているか分からないけど、私は、助けたいと思ってる」
「少し、考えさせて」
……この件の落としどころは、どこだろう?
少なくとも私が納得できる結末を探したいのだ。