第百二十四話 世界に告げる宣言
ガリア・サース。
少し幼い私の容姿をした娘。
初めて会ったあの時より、ゴスロリ度が上がっているような気がする。
「これはガリア様。もう察知されるとは、流石ですね」
アノンの言葉に対して魔法で答えるガリアちゃん。本気で怒っているようだ。
「怒れる心を纏い 幾重の凶鳥よ 舞い降りよ!」
夥しい数の火の粉がアノンに向けて降り注ぐ。
アノンだけでなくオズボーン達にも火の粉は及び、雑に打倒された。いや、オズボーンだけは残ったか。障壁かな?
アノンも障壁を張ったようだが、降り注ぐ火の粉に耐え切れず突破される。
頬と肩に大きな火傷を負いつつも、転がるようにして逃げ切ったようだ。
しかしガリアちゃん、ムツミよりも魔法強くない?
「実験の成功も見ることが出来ましたし、お暇させていただきましょう……」
アノンは懐から水晶球を取り出す。
この場から脱出するためのアイテムだろうか?
「ア、アノン殿! 私も!」
「反乱の責任者として、ガリア様を足止めしてくださいね。では、失礼」
オズボーンが縋るが、構わずに水晶球を床に叩きつけて割る。
瞬く間に魔方陣が床に描かれ、アノンの姿は消えた。
一時の静寂が流れる。
ガリアちゃんが周囲を鋭く見渡し、状況を把握しようとしていた。
「ちっ、逃がした! まったく、腹立たしいったらありゃしない。アイツのせいで、色々と前倒しするしかなくなっちゃったじゃない」
「お~い、ガリアちゃん」
少しだけ怒気が晴れたガリアちゃんに話しかける。
「ん?」
こちらに気づき、じっと見つめる。
「よく見たらアーリィじゃない。それにベクトも。お久~! 生身で会うのは初めてかな?」
「そうかもね。元気してたようで何より」
「……や」
ベクトも会話に加わる。
キョウスティンでガリアちゃんのスキルで邂逅してから、もうそれなりの時間が経っていた。
そして今、ようやく三人が直接対面したのだ。
結局、私達は何なのだろうか?
三人が出会ったら、こうバーンと衝撃的な事でも起こるかと思ったけど、何も起こる様子は無いのだ。
BGMも流れないし、残念。
「で、ガリアちゃん。今何してるの?」
「知りたいの~? 今はね、帝国エインドレスの皇帝様直属の特別顧問をやってるんだ! すごいでしょ~? ねぇ、羨ましいよね~?」
「……なんか、あの時より生意気になった気がする」
あの時「敵になる」「世界征服する」と言ったことを、本当にやっちゃってるんだ。
少し、ガリアちゃんの表情が柔らかくなる。
「アーリィやベクトは今、何してるの? 何でこんな所に居るのよ?」
「私は冒険者になってるのよ。異世界でのお約束だし、やってみれば結構楽しいよ?」
「へぇ?」
「今回はガリアちゃんが居るかもってことで、顔突っ込んでいる所。ベクトも似たようなものよ。今は一緒に住んでるわ」
「……そう。良かったら、帝国に来る? 今なら知り合いのよしみで、世話してあげるわよ?」
「遠慮しておくわ。今でも十分に楽しく生活できているし」
「すぐに分かると思うけど……世界全体が危険な状態になるよ?」
「何かあるのね?」
ガリアちゃんはじっとこちらを見つめる。
「けど、大丈夫。ルシードもベクトも居る。私も、それなりに強くなった。危ない事には、これまでもたくさん巻き込まれてきたしね。これからも、ちゃんと対処できると思う」
「……後悔しないといいけど」
少し、残念そうな表情を浮かべた気がした。それは、気のせいだろうか?
とその時、あらぬ方向から突然、魔力の矢がガリアちゃんを襲い、魔力の煙を弾けさせる。
「な? 誰!」
魔法を放ったのは、今回の反乱の首謀者でありラスボスのはずのオズボーンだ。
焦りと残虐を混ぜたような複雑な笑みを浮かべている。
「ははは! この私を甘く見るからだ! この私こそ、現世界最高峰の魔術師なのだから!」
「……ったく。あんたの命を取った所で、もう何も変わらないから放ってあげてたのに」
ガリアちゃんは無傷であった。
一瞬見えた魔法障壁。一つや二つでない、まるで曼荼羅のように、複雑で幾重にも重なった魔法障壁。
魔法障壁は、一つ突破するのに苦労する。ムツミの二重障壁は、あれだけ厄介だったんだから。
つまり、ガリアちゃんに攻撃を通すというのは、ほぼ不可能ってことだ。
「あんたはもう要らない。じゃあねぇ~」
ガリアちゃんが、再び火の粉をただ一つ作り出し、高速で撃ち出した。
それはオズボーンの胸を撃ち弾け、壁にビターンと叩きつけられ、そのまま崩れ落ちた。
あ、一応生きてるや。
「さて」
ガリアちゃんが、ふぅ、と息を吐く。
「アノンは逃げちゃったし、オズボーンにはケジメ付けさせたし……」
そう呟くと、彼女は何かに向かって話しかけた。
『此方は終わりました。それでは皇帝ハインリヒ・ヴェル・エインドレス様、準備は宜しいでしょうか? では始めます』
ガリアちゃんが何かに話しかけていたが、それが誰かすぐに分かった。
私の目の前に突然、玉座に座った少年が現れた。
権威に満ちた服と杖。
強い意志を感じるその瞳。
見えているのは私だけでなく、ルシードもベクトも騎士達にも、それぞれ別の場所で同じ姿を見ているようだった。
「初めまして諸君。私は帝国エインドレス皇帝、ハインリヒ・ヴェル・エインドレスである。今見えている私の姿はスキルによるもので、諸君らの前に私がいる訳ではない。私の姿は今世界全ての者が見ている事になる……さて、今回非常に重要な事を伝えよう」
その少年は、静かに言葉を紡いだ。
「我が帝国エインドレスは、全世界に対して、今より宣戦布告を宣言する!」
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