第百二十二話 消滅の光
恐らくの最上階へと昇る。
捕らえたムツミは後続の騎士に任せて、私達五人と騎士達数人で進んでいる。
人数的には心許ないが、実力的には連合軍のトップメンバーなのだ。
「ねえねえ。オズボーンってムツミより強いと思う?」
「さあ、どうだろうな?」
何となく、ルシードに聞いてみる。
「見た目的に、ムツミの方が強いんじゃないか? 代表が一番強くある必要は無いだろうし」
「そりゃそうか。でもメテオが使えるって事は、相当な魔法使いではあるんだよね。油断はしない方が良いと思う」
「そうだな」
そんな会話を交わしながら、ついに最上階にたどり着く。
所でこの塔は何のために作られたんだろうか?
どの階も広い中央ロビーに左右に小部屋が並んでいるという作りで、街の中央部にある施設としては、違和感あるんだよね。まぁ、魔法的な何かなのだろう。
という訳で、最後のドアオープンだ。
これまでの階と同じであれば、広い中央ロビーが広がっているはず。
「さあ、追い詰めたぞ!」
レオさんとルイサさんが勢いよく扉を開け、中に飛び込む。
私達もそれに続いた……が、見えたのは部屋の広さでは無く、
光。
煌めく光が、私達に向かって殺到する。
「な!?」
「え?」
驚きつつも反応したレオさんとルイサさんは、スキルを殺到する光に打ち込む。
しかし、光に触れたとたん、レオさんの生成した槍も、ルイサさんの爆発も、塵と化し、溶け消えていく。
この光どこかで……そうか! フィーディングで見た映像で魔法司長が放っていた魔法、ディス・インテ・グレート!
レオさんとルイサさんが、光に呑まれていく。
動くことも、声を上げることもなく、
そのまま、溶け去った。
「レオさん! ルイサさん!」
呼べど、返事は帰ってこない。
こんな……呆気なく?
そして光は、私にも迫る。逃げる間は無い。
自分が意識したかどうかは、よく判らない。
サテラ君が私を守る様に、目の前の床に突き刺さった。
光が止まる。
いや、光の奔流は少し停滞しただけで、サテラ君をも包み込んだ。
そして……半ば二つに砕けてしまった。
「サテラ君が!」
今まで一緒にこの世界を旅してきた親友。
それが折れてしまった。それは私の胸に衝撃と空白を与える。
立ちすくむ私を横から攫う腕があった。
ルシードとベクトだ。
「おい、しっかりしろ!」
「騎士の人達、直ぐに横へ飛んで!」
言葉に引き戻されて、私の心の時が動き出す。
私を抱えたまま、ルシードとベクトがひと固まりになって、床に転がる。
次の瞬間、分解消去の光が私達がいた場所を埋め尽くし、そのまま、背後に居た騎士達にも襲い掛かった。
二人が、光に呑まれ消えていく。
ベクトの警告に反応出来た騎士達は、なんとか身を投げ出すことで回避した。
光はそのまま、塔の外壁も貫き、外へと飛び去っていった。
「おお、厄介な守り人が消えてくれましたな!」
まだ鈍い思考のまま、聞こえてくる声。
この声はそう、街の外で聞いたあの声。反乱首謀者のオズボーンだ。
オズボーンは、秘術を使ったせいか肩で息していた。周りの部下に支えられている。
さらに、周囲にはそこそこの人数の魔法使いが控えていた。
これは恐らくメテオの時と同じだ。
秘術は一人の魔力で発動できず、複数人の魔力を使ってディス・インテ・グレートを発動させたのだろう。
「さて、残るは騎士数人と、良く知らない人たちですね。それにしても、貴方方、帝国エインドレスが提供してくれた秘術は素晴らしい!」
「お気に召してくれたようで、何よりですよ」
奥から、もう一人の声が響く。
どこかで聞いたことがある声。
この狂気をはらんだ声は……そう、街ヒルビンで突如と現れた、あの男だ!
「それより、約束の実験をして頂けるかな?」
「まあ待て。どうせなら、反応というものを見たいものでしょう。そこに転がっているので丁度良いですな」
オズボーンと男の視線が、こちらに向けられる。
私とベクトを見たその男は、意外な物を見たという表情を浮かべた。
「おやおや、意外な所でお会いしますな。ベクト様、アーリィ様」
「あんたが居るという事は、この反乱騒ぎは、やっぱりあれ関連という事なのね」
思えばこの騒動に私が首を突っ込んだのは、ガリアちゃんが絡んでいると思っていたからだ。
しかし絡んでいたのはこの男。いや、裏で繋がっているのかな?
「さて、どうでしょうね」
「で、またベクトを連れて行こうってつもり?」
「いえ、もうその必要は無くなりましたので」
意外な話だ。あれからそれなりに日は立っているが、私の知らない所で何か動きがあったのだろうか?
それとも単なるブラフ?
何にせよ、考えても判りそうには無い。
「アノン殿、お知り合いで?」
「……ええ。少し縁のある方でしてね。大丈夫。ちゃんと敵ですよ」
「であれば、そんな方々に見て貰った方が良いですな。連合軍の本陣が壊滅する所を!」