第百二十話 ムツミ猛攻
「行使するは魔術エナジーボール。自己を対象。発動!」「発動!」
ムツミに二重の魔法障壁が展開される。
やばいな……かなり強力な障壁。破れないことはないけど、二重で展開されているのでどうしても手間取ってしまう。
サテラ君で突破するか? と考えている内に、次の魔法が解き放たれた。
「世界を描く元素達よ 隣人の力を汝は奪い 赤となり舞い踊れ!」「世界を遊たう粒子達よ 隣人へ汝の力を押し付け 青となり沈み眠れ!」
『炎氷魔法、エリス=ブレス!』
手を絡ませて差し伸べた二人のムツミが、同時に腕を差し伸べ手を向ける。
そこから放たれたのは、猛火と吹雪が混ざり合う混合の嵐。
普通に考えれば炎と氷が影響しそうなものだが、それらは混じらず。
むしろ、お互いを高め合うように勢いを増し、その息吹がこちらを覆いにかかる。
「浴びたら、多分ヤバい!」
慌ててサテラ君を呼び戻し、魔法の前に突き立てる。
サテラ君を基点に魔法が弾かれ飛び散り、至る所に焼け跡と凍結が走った。
そのあり得ない光景は流石魔法だ。
危ない危ない。もしこの魔法に当たったら燃えながら凍りついていた、かもしれない。
「おや、古代魔法を止めるとは」「やるね」
「そりゃどーも」
古代魔法、か。
そういえば詠唱の仕方が大分異なるようね。
ま、魔法を使えない私からすれば、危ない事には変わりないのだけど。
そして、この隙を見逃さないのが二人だ。
「ふ!」
気合二閃!
近接を果たしたルシードが、ムツミの魔法障壁に気合を乗せた剛剣と高周波ブレードを同時に叩きこむ。
派手な火花と甲高い衝撃音。二本の剣と障壁が拮抗する。
「ルシード、そのまま!」
ルシードの後ろから、ベクトが一気に駆け込む。
軽く飛び上がり、剣の背を蹴ると、流石に耐えきれなかった魔法障壁の一枚を突破、消失する。
「おお、こっちも凄いが」「残念」
障壁は二重だ。まだ一枚残っている。
「そこでサテラ君ですよ!」
まだ刀身に氷を残したまま、障壁にサテラ君が突撃する。
あっさりと残りの一枚も消失した。
それを見越して、ルシードとベクトがムツミに迫る。
「衝波!」「衝波!」
だけど、ムツミは驚くよりも先に、次の手を繰り出していた。
二人の全身から衝撃波が広がり、ルシードとベクトを吹き飛ばす。
それだけでなく私にもその衝撃が及び、後ろに転がってしまった。
あの魔法……威力自体はたいしたことないけど、兎に角強烈な衝撃で、ムツミとの距離を開けられる。
私の傍にルシードとベクトも揃う。
「やり難い相手だな」
「直ぐに手を変えてくるから、私のスキルもあまり有効に働かない」
二人が言葉を漏らす。
っと、再び衝撃波。
ムツミに向かって投げられた武器と爆発が、弾き逸らされた。
「いい加減、頭に来たぜ」
「もう、終わりにしますわよ」
レオさんとルイサさんが復帰した。
服は大分ボロボロだけど、動けないほどの傷は負って無い様だ。
二人が復帰し、私とルシードとベクトが居る。
今回の臨時チームが完全に揃ったのだ。
「待ってたよ! じゃ、人数差で雑に力押しと行きますか」
「ち、仕方ないが、力を合わせてやる」
「ま、偶には良いでしょ」
「まだ上が残ってる訳だしな」
「……多分、勝てる」
相手がどれほどの天才で、多彩な魔法を使おうと、このメンバーが揃って、勝てない相手は居ないのだよキミぃ。
二人のムツミは、再び二重の魔法障壁を張り、此方を見据えた。
「私の魔術の前に、人数差なんて関係無いよ。さあ、ぐうの音も言えない程、けちょんけちょんに倒してあげる!」
「サモン、ステフソフト!」
倒したはずのゴーレムが空間を超えて呼び出される。
一、二……十体も!?
「ちょ、呼びすぎでしょ!」
「後ろの騎士さん達を入れば、まだそっちの方が多いじゃない」「ああ、こんな不利な状況でも……私は天才だから!」
ええい、もう!
まずはサテラ君をぶつけて、一番近いゴーレムを吹き飛ばす。
このゴーレムが最初のと同じであれば、稼働時間は極端に短いはずだ。
「騎士の人達、ゴーレムをお願いします! 倒そうとはせずに、気を引いて避けるだけに注力してくれればいいですから!」
私の声に、騎士の皆さんが応えてくれた。
であれば、私達は中央突破を図る。
狙うはムツミの撃破だ。
ゴーレムが柔軟さを活かし、広く腕を振り回してくる。
でも、もう当たらない。
最初は驚いていたが、慣れてくれば単純な動きなのだから。
まずはルシードが抜け、ベクトのサポートを受けてレオさんが続く。
ルイサさんは、サテラ君を呼び戻しなんとか掴んで貰って一緒に抜けた。
ゴーレムはもう無視だ。狙うは、目の前のムツミのみ!