第十二話 怪奇! 巨剣を振るう怪力女
日は傾き夕闇が迫る頃、私の後ろでは帰ってきた街の冒険者達が、今日の戦果を確認しそれが上々であることと、お互いの無事を確認していた。
中には外から持ち込んできたのであろう、ビール的なお酒らしきものと美味しそうな料理が乗ったプレートを並べ、宴会を開いている者もいる。このギルド、お食事は提供してなかったけど、持ち込みはOKなのね。
そんな和気藹々としている人達と異なり、私の戦果を報告したカウンターは冷え切っていた。
「全然ダメです」
そんな凍える宣言を放つ受付嬢はフウラさん。ショートでキリっとした表情がカッコいい22歳だ。マシロちゃん、今日はもう帰ってしまったそうな。
「色々と持ち帰られましたが、半分以上がただの雑草ですね。摘み方にしても乱暴です。茎の所が潰れてしまって、薬用成分が落ち易くなっていますよ。次からはもう少し丁寧にお願いします」
「うぅ……」
マイハートは、フウラさんの言葉の乱打を受けて、もうボロボロだ。いや~これだけ駄目出しされたのって何時振りだろうか。私が小さい頃は結構ワンパクで、事故に遭わないかどうか心配したお母さんから何度も注意されてたね。中学生の頃は、お姉さんの年頃になったのだから女の子らしい振る舞いをしなさいと毎日小言があったなぁ。高校生になったら……あれ? いつも駄目出しされてるじゃん!
「まあ、規定量はありますし、今回は初めてということで、これでOKとしておきます」
「フウラさん……有難うございます」
フウラさんの手を取って、その瞳を見つめる。
「アーリィさん……今日の報酬はこれだけです」
ちぇ、落ちないかぁ。
軽い包みを受け取る。ヒガンちゃんから貰ったお金がまだあるので、当面は大丈夫だけど、早く収入を得る糸口を掴まないと、その内飢えちゃうかも。
お仕事始めとして、ちょっと美味しいものをと行きたい所だけど、出来る内から節制しないとね。パン屋に寄って安いパンと果物をお夕飯にしよう。あ、明日の朝ごはんもパンで良いか。
やや意気消沈しながら家路につく。日はもう殆ど落ちていて、程なくすれば辺りは暗くなるだろう。街灯なんてものは無い。ただ、地球より月明かりが強く、完全に道がわからなくなるなんてことは無さそうだ。これもゲーム的都合の影響なのかな?
辺りは住宅街で静けさが漂っている。月明かりが強いとは言っても路地なんかは完全に真っ暗だし、近寄らないほうが良いと思う。ただ、危ないと意識しちゃうと、出てくるのがお約束なんだよね。
「よう姉ちゃん」
「ほら。はぁ……」
「なんだよ、おい。声かけるなり溜息って」
出てきたのはチンピラ二人組だ。ちょっとお酒も入ってるなこりゃ。
悪人って訳じゃ無いけど、暇を持て余しているのとお酒の勢いで、偶々目の前を通った私に絡んできたといった所ね。適当にあしらうかな。
「ちょっと一緒に酒でも呑もうぜ」
「最近は酒も高くなってきてるんだぜ。こいつが奢ってやるからよ」
「俺の奢りかよ!?」
酔ってる人って、くだらないことで笑うよね。私は甘酒とかしか呑んだことが無いので、酔っている人の気持ちが解らないのだ。異世界に来たのだから日本の法律に縛られる必要は無いんだけど、なんとなく、呑まないかなって思う。
「付き合いません。遠慮します!」
「そう釣れない事言うなよ~」
「きっと楽しい夜になるぜ~」
う~、にじりにじりと近寄ってくる。こうなったら……逃げるのが一番だ。
家の方向と違うけど、この場から離れるのが先決。が、こんな時だけ妙に勘の良いチンピラAが逃げる方向に回り込んできた。その手には小さいナイフを持っている。
「楽しい内に乗った方が良いと思うよ~。俺ら、乱暴なのも嫌いじゃないしな」
「そ~そ~」
ああもう! じゃあ、ちょっと練習に付き合って貰いましょうかね。今日は駄目押しされた後なので、ちょっと短気な私なのだ!
食べ物が入った紙袋を地面に置いて、手を広げ掲げる。
「……おいで」
上空に浮かべている巨大な剣を、私の手に収まる様に落とす。この時間に大きな音を立てるのは、お巡りさんに怒られると、私は学習しているので、刃を地面に落とさない様にしてっと。
「は?」
空から突如、巨大な剣が降ってきて、か弱き乙女の細腕がそれを持っているという、状況にチンピラ二人は呆けるしか出来なかったようだ。
「近づくと危ないですよ!」
更に剣をぶんぶんと振り回す。まだ練習出来てないので、移動は無しね。それでも、見た目5mはあろうかという巨大な剣を、女の子が、片手で振り回しているという様子は、恐怖を覚えるだろう。
「ひぃ、ひえ! なんて怪力女だ」
「逃げるぞ、おい」
そうそう。逃げた方が良いですよ~って、誰が怪力女だ!