第百十六話 知名度が無いというのは手間のかかる事だ。
レオさんとルイサさんの手当てを終えて、水を飲みながら一時の休息としていた。
塔の前だから反乱軍が襲撃してくる可能性が高いと警戒はしていたのだけど、何故か襲撃は無かった。ま、楽で良かったけど。
「アーリィ。連合軍のご到着だ」
「おや?」
広場に到着したのは、トースアースのロボットを先頭に各街の騎士団だ。
ロボットはかなり壊れているものの、まだ動きそう。騎士団の負傷者は少ない様だ。トースアースの軍が頑張ったようね。
ま、あの魔法が撃ち込まれる心配があったから、もし撃ち込まれても被害の少ないロボットが前線で頑張って貰うというのは正しい判断だったけどね。
「貴様! 投降しろ!」
「え? ああ、私は反乱軍じゃないですよ」
近付いてきた騎士の一人が、私にとんでもない事を言ってきた。
連合軍の上層部とは作戦会議で顔を合わせたけれど、下の方には情報が行き届いていないのかもしれない。それは仕方ないか。
「言い訳は後で聞く! 今すぐ武器を捨てて投降しない場合は、反乱軍と見なし斬る!」
「ちょ! 本当だって! えっと……私は証拠持ってないけど、作戦会議に出ていた人の誰かに確認して貰えれば……」
私の言い分が聞き入れられず、騎士達は包囲を狭めてくる。彼らの手には剣が握られ、一発触発の構えだ。
状況を察したルシードが前に出て庇ってくれる。敵対心を出さないために剣は抜いていない。
そんな時、陣の安全な位置で休息していたレオさんが顔を出してきた。
「やっと連合軍が追い付いてきたのか……って、何やってるんだ?」
レオさんは状況を把握していないようで、無防備に連合軍の前に出てくる。
そのレオさんに反応したのは、連合軍の中の騎士の一人だ。
「レ、レオ様! 既に街中へ突入されたと聞いていましたが、ご無事でしたか!」
「ああ、お前は俺様の街の騎士か。ちょっとばかり傷を負ったが問題無い。で、ここに来たのはお前たちだけか?」
「直ぐに後続が来ます。レオ様がその者と一緒に居るという事は……その者は?」
「ああ仲間だ。今回、一時的に俺様とチームを組んでいる」
どうやらレオさんの知り合いか、同じ街の騎士が居たようだ。これなら誤解が解けそう。
誤解が解けて、連合軍はこの広場の確保に動いた。そして、程なく後続が到着し、この広場は騎士で溢れかえることになる。
「塔はデカいが全員が突入のは危険だ。俺様のチームと、ある程度の人数で行くぞ! 俺達が階を制圧したら、後のことは後続に任せるからな」
「は! 承知しました。制圧を宜しくお願いします!」
レオさんは守り人なのでもっと大切にされると思ったら、そんな様子はない。ただ、軽んじられているのではなく、、その実力を認められているからなのだろう。
確かにレオさんやルイサさんは強かった。苦手となる状況でなければ、大抵の戦いは突破できるはず。私達で苦手となる所をフォローしてあげれば、敵なしに違いない。
「突撃!」
レオさんのスキルで塔の門をぶち破る。
レオさんを先頭にして塔の内部へと進む。続いてルイサさん。ルシードと私とベクトと続き、後方は騎士が固める。
塔の中は思った以上に広々としたロビーになっていた。横に受付らしきカウンターがあるが、そこには誰も居ない。記帳がそのまま置かれている所を見ると、反乱の混乱から片付けもされていないのであろう。
「ようこそ! 連合軍の皆さん。思ったより少数でのご来場ですね」
「何者だ!」
上階へと続く階段に何者かの影が見える。
「私が現在、この街の代表。いずれ世界を纏める偉大な魔術師、オズボーン・ボールティンその人だ」
「本当だな?」
「世界を支配する者が、偽りの像なぞ使わんよ」
「そうか」
階段に居た影に槍が撃ち込まれ、続いて爆発する。レオさんとルイサさんの攻撃だ。
問答無用の先制攻撃とは過激だねぇ。
だが、変わらず声が響く。
「おやおや、最近の守り人というのは乱暴者だな」
「反乱を起こすような悪人に人権は無い。即刻、死ね」
「怖い怖い。では、悪人の私は魔物を君達にけしかけてあげよう。いけ! ワイルドクーガー!」
何か、黒く大きい塊が上階から降りてくる。着地した床がベキっと陥没した所を見ると、かなりの大物だ。
実物は見たこと無いけど、その姿は黒いピューマだ。四つ足歩行なのに、その高さが2m以上ある。しなやかな足運びに鋭い眼光。グルルと猛獣を連想させる唸り声。
魔物ワイルドクーガーが眼光を残しながら、私達に襲い掛かってくる!