第百十五話 敵陣制圧完了!
ここにきて、陣を敷いていた魔法使い達が一斉に動き出した。
ゴーレムたちが私達に迫り、後方からはゴーレムを巻き込んで魔法が飛んでくる。
ルシードとベクトが前方に立ち、囮となりながらゴーレムと魔法をさばいてくれた。
その隙に、私はレオさんとルイサさんの二人を手短な建物の陰に引っ張ってその身を隠す。力が付いてきたとはいえ二人同時にはとても無理だから、一人の前にサテラ君を突き立てて一時的な防壁とし、その間にもう一人を運んだわけだ。
「二人とも。大丈夫ですね?」
見た感じ、大怪我しているようには見えない。さすがに骨折とか内臓損傷とかまでは判らないけどね。
「……くっ! 油断した!」
「あの程度の雑魚相手に後れを取るなんて……忌々しい!」
めちゃくちゃ悔しがってる。
「二人が相手していた魔法使い達は片付きました。今、ルシードとベクトが塔の前の攻略をしていますので、暫く休んでてください。二人の力はまだ必要なんですから」
「くそ……少し休憩したら直ぐに出るからな!」
「目にもの見せてやりますわ!」
これだけ言えるようなら大丈夫そうだね。
さて、ルシードとベクトは大丈夫かな?……流石に多数を正面から相手しているだけあって、手を焼いているようだ。
まだ先はあるのだ。余計な負傷を負わないようにと立ち回っているせいだろう。
ルシードは主に小型のゴーレムと、陣から飛んでくる魔法を迎撃している。超振動ナイフと高周波ブレードでならロックゴーレムなら一撃二撃、仮にアイアンゴーレムとかが出てきても対処できるだろう。しかし内臓バッテリーに難があり、フル充電の状態で約10分程度しか連続発動できない。使わなければ直ぐに充電が開始されるので、暫くすればまた少しは使えるだろうが、余り当てにすることは出来ないだろう。
一方、ベクトはロックゴーレムの撃破を優先していた。
ベクトの場合、自身に向けられた魔法を躱すことは容易だが、私の方に飛んだ魔法を止めるというのが難しい。なので魔法を迎撃するのはルシードに任せて、ルシードが対応し難いロックゴーレムの撃破を優先しているようだ。
ロックゴーレムに近接し、手当たり次第に岩を抜いて行く。ベクトに近接されたロックゴーレムは数瞬の内に自重で崩壊していた。その崩壊に巻き込まれないよう、ベクトは飛び退いているが、その跳躍が不自然なまでに早い。恐らく、前に貰ったウエストポーチみたいな機械で自身に掛かる重力を軽くしているのだろう。
程なくして、陣前のゴーレム群は掃討された。
後は陣向こうに居る魔法使い達だけ。
「ルシード! 掴んで!」
サテラ君をルシードの傍に飛ばす。
ルシードがサテラ君を掴むと、そのままサテラ君を陣向こうの上に飛ばした。
「いくぞ!」
陣の内側に飛び降りたルシードが瞬く間に左側を制圧する。
右側は……と見た時に、ベクトがサテラ君に向かって跳躍。サテラ君を蹴って右側陣内に強烈な飛び降り蹴りを叩き込み、着地後はその勢いのまま、残りを片付けていく。
これで陣は制圧完了だ。
「ルシード、ベクト。お疲れ様。怪我はない?」
「ああ、俺は問題無い。ただ、思ったよりナイフとブレードを使ってしまった。残量が気になるな」
「私も大丈夫」
よしよし。ならここを確保して待機していれば、その内、友軍がここに来るだろうし、それまでは休憩としよう。
「じゃあ、外の人達がここに来るまで休憩にしよ。私、ちょっとレオさんとルイサさんの様子見てくる」
そう言って二人が隠れている道の陰に視線を移した、そのとき--
広場の周りにある、その高いマンションのような建物の一室、いや、複数の窓から、私めがけて魔法の集中砲火が降り注いだ。
「アーリィ、危ない!」
ルシードとベクトが反応し駆け出したが、魔法の方が早く、間に合わない!
私は思わずビクッと顔を伏せた……が、魔法は私に当たらなかった。
レオさんがとてつもなくデカい盾を瞬時生成し、私を覆うようにして魔法を全て防いでくれたのだ。
次の瞬間。
狙撃者が居た部屋が爆破され、その衝撃で建屋そのものが崩壊する。
ルイサさんのスキルだろう。
「……これで借りは返したぞ」
「貴方が倒れたら、帰り道は歩きになってしまいますもの」
「二人とも……ありがとうございます!」
やはりこの二人も強いね。
ちょっと自信過剰な所はあるけど、頼れる仲間だ。
「で、どうするんだ? 反乱軍の首謀者は、この塔に居ると思うが」
改めて、街の中心にそびえる管理塔を見上げる。
塔というか、とても広いマンションのようだ。お城に見えないこともない。
「この広場を確保して、休憩にしようと思います。外の友軍が街中に突入してくるのも、それ程時間掛からないと思いますので、合流してから一緒に塔へ突撃しようかな、と」
「分かった。俺様も少し疲れたしな」
「あ~服がボロボロ。ねえ、替えの服持ってない?」
ルシードとベクトも合流し、残った陣を利用して比較的安全なスペースを確保。みんな、思い思いに休憩に入った。
そのとき、門の方から騒がしい音が響いてきた。ついに、街中に友軍が突入したのだろう。
道中に反乱軍が残っているだろうから、少し手こずるかもしれないが時間の問題だ。
思ったより休憩は短くなるかもしれないね。