第百七話 閑話:これまでの訓練の成果を確認しよう
「これからの状況が厳しくなりそうだからな。今のアーリィの実力。見せて貰うぞ」
「私も結構頑張ってるんだからね。思った以上にやれるかもよ?」
「がんば~」
ということで、街トースアースの広場一角を借りて、ルシード相手に鍛錬の成果を見てみようという事になった。
観客はベクト。茹で野菜をモグモグしながら、ブルーシートを敷いてだらけている。
私の想定される実力を鑑みて、ルシードは木の棒。私はキョウスティンで貰った刃の無い剣で勝負だ。
文句を言いたい気もあるが、流石に実力差は歴然としてるからね。
「よし、来い!」
「行くよ!」
間合いを開けて対峙。その距離を開けたまま、私は剣を振りかぶり……その態勢のまま、ルシードの傍らに急速接近。
「でやっ!」と振り下ろすが、ルシードは私の剣を難なく受けている。
「良い振り下ろしだ」
「どうよ!」
移動はスキルを使用している。
昔はスキルに振り回されて体が泳いでいたものだけど、今はしっかりと体がついてきて、移動先で剣をちゃんと振る事が出来るようになったのだ。
ま、ルシードにはあっさり受け止められたけどね。
スキルで剣を操作し、少し距離を取り、飛びつく様に突く!
が、これも剣を上から抑えられ、突きが止められる。
「攻撃単品はいい感じだな。だが、その次が無いのは駄目だ」
言われてみれば、私はこれまでの戦いで、常に一撃で決めようとしていた。状況的にそれで良かったのだけど、これからはそこからを考えろという事だろう。
「こういう感じだ!」
「わっ、わっ」
ルシードの掬い上げる様な切り上げから、切り下ろし。ここまではなんとか受ける事が出来たが、続く切り払いには反応出来ず、脇腹をぺしっと叩かれた。
「理想を言えば、一振り一振りが必殺。仮に防がれても相手を追い詰め、最後はこのように作った隙を突く、というものだな」
「そんなこと、動きながら良く考えられるね」
「そこは慣れだな。後は体の反応に頼るというものある。その辺りはアーリィも今、積み重ねているじゃないか」
これまで色々な人に教えを受けてきたが、確かに反復して練習するように言われてきた。つまりは、ルシードの言うように、反射的に動けるようにするためでもあったのだろう。
私がこの世界に来た時から比べて、私は様々な経験や練習を積み重ねてきた。相手がルシードとか高レベルの相手だからイマイチ実感が持てないけど、私もちゃんと強くはなってるんだよね?
「少しは動けているし、アーリィの現在のレベルも判ってきた。じゃ、もうちょっとやろうか」
「ま、まじ?」
「ああ、マジだ。そらいくぞ!」
という訳でルシードの手加減されまくった木の棒で、体のあちこちをぺちぺちされ続けた。
頑張って反撃しているんだけど、余裕で受けられている。ちょっと自信無くすなあ。
「アーリィ、お疲れ様。はい、これ」
「ありがとう、ベクト」
打ち合いが終わり、疲れからへたり込んだ私に、ベクトがタオルと水筒を差し出してくれた。
ひ~疲れたぁ。
「また時間があればこうやって稽古が出来れば良いんだけどな」
「お手柔らかにお願いします」
「じゃあ次、ベクト。やろうか」
「ん。次も私が勝つから」
引き続いてルシードとベクトが、激しい組打ちを行い始めた。
これ見ると、私の時はどれだけルシードが手を抜いていたか判るな。
空を仰ぎ見る。もう暫くすれば夜が訪れるのだろう。
夕食の後でトースアース、キョウスティン、ヒョーベイの今後の動きが詰められることになっている。
私とルシードとベクトはこのままトースアースに留まって、アストラロードで起きた反乱への対処に同行するつもりだ。
そこには、ガリアちゃんが絡んでいるかもしれないからね。
どうなるかは、行って確かめる他無いのだ。