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人狼村の偽りの月  作者: 路明(ロア)
Età della luna 2 厨房の新鮮な生肉
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Carne cruda fresca in cucina. 厨房の新鮮な生肉 I

 ヨランダの作ったミネストローネを口にする。

 厨房で見つけた野菜の葉と例のイノシシらしき肉を、ともかく煮こんだとのことだ。

 一日ぶりの湯気の立つ料理をアベーレはありがたく思った。

 この状況でもし一人であったら、伯父がもどるまえに餓死していたかもしれない。

 ヨランダの存在が、今まで以上にありがたい。

 厨房にも入れない身でなぜどうにかなるつもりでいたのか。

 いまにして思うと、あさはかすぎる。

 教会から帰ったあと、昼のうちにロウソクをさがした。火打ち石もあればよかったが、こちらは見つからない。

 周辺は森がおおく(まき)には困らないだろうから、厨房の炉辺に火を燃やしつづけておけばいいとヨランダが提案した。

 当分はもう、ヨランダに任せることにした。

 長年あこがれた女性と念願の二人きりという状況で、まず克服しなければならないのが厨房に入ることというのが情けない。


「野菜は……どこで手に入れるものなのでしょうね。市場など近くにあるんでしょうか」


 焼いて塩を振りかけたイノシシらしき肉を切り分け口にする。

 料理につかうために数日分は取っておいたが、あとはサルシッチャかプロシュートにするとヨランダが言っていた。

 時間のかかる作業なのではとアベーレはざっくりとイメージしたが、ヨランダはとうぜん一人でやるつもりだ。

 これほどたくましく頼りになる方とは。

 たった一日でヨランダの印象がかなり変わった。

「市場はあるのかどうか分からないけれど、村の農家の方から買えばいいのではないかしら」

 ハンカチで品良く口を拭きながら、ヨランダが答える。

「そういう形で……野菜を購入したことがありますか、姉上」

「修道院にいたとき山岳地帯の農家にヤギの乳を買いに行ったことがあるわ」

「は……」

 アベーレにとってはなかなか衝撃的なエピソードだ。

 軽く目眩(めまい)がした。 

 修道女というものは、きれいなステンドグラスのまえで美しく祈りをささげて一日をすごしているのだと思っていた。

「ヤギの乳ですか……」

「このあたりはヤギを飼っている家はあるのかしら。牛でもいいけれど」

 ヨランダが窓の外をながめる。

 屋敷の窓から見える景色は森ばかりだ。

 農家の家は村内に何件あるのか。

「動物の声は聞こえてこない気がしますが……」

 そういえば、到着してからいちども家畜らしき鳴き声を聞いていない。

「 “人狼” に警戒していたら、家畜など外には出さないのかもしれないですね」

 「そうね」とヨランダが返事をする。

「伯父さま、ゆうべもお帰りにならなかったわね」

 肉を切り分けながらヨランダが切りだす。

「ええ」

「なにかあったわけではないといいけれど」

 「ええ」ともういちどアベーレは返事をした。

「新鮮な肉が厨房にあったということは、少なくともそれを運びこんだ前後には、伯父上はここにいらっしゃったのでは」

 少し頭のなかを整理しようとアベーレは思った。

「たぶん使用人か何かが、厨房に肉をはこんで調理しようとした……」

 アベーレはつぶやいた。

「そのあとで伯父上がいないことに気づいてさがしに行ったか、伯父上についていっしょに出かけたか」

「さがしに出かけたのなら、いったんもどっても良さそうなものだけど」

 ヨランダがもういちど窓の外をながめる。

「そうですね」

 アベーレはスプーンを持つ手をいったん止めた。

「いっしょに出かけたということか。伯父上の用事が長引いているということかな」

「どちらに行かれたのかしらね……」

 ヨランダはミネストローネを口にした。




 

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