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人狼村の偽りの月  作者: 路明(ロア)
Età della luna 12 女にもワインにも毒がある

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38/51

Chi dice donna dice danno. 女にもワインにも毒がある

 伯父が狼の顔をゆがめる。

「それは……ラウラがフィコを(かくま)うかもしれないということか」

 アベーレは問うた。

「結婚しようという仲だったそうですから可能性はあるでしょう」

「もしそうなら、完全にお構いなしというわけにはいかんのだが」

 伯父が腕組みをする。

 ギッと音を立て、背もたれに背をあずけた。


「処刑と決まったさいには、こちらも最後の言葉を聞いたり教会の敷地外の埋葬の手配りをしたりと、いつもとは違う手間がかかるもので」

「……きみの問題はそこか」


 マリアーノが真顔でワインを飲み下す。

「なぜ屋敷内で消えたのかは気になりませんか?」

 マリアーノが問う。

「たまたまではないのか?」

「あんな広いお屋敷で使用人もいないとなったら、どこかにひそむのは簡単でしょうね」

 アベーレは目を見開いた。

 たしかに村人たちが滞在するまえは、それを警戒していたが。


「……ラウラが屋敷内にいるとでも?」


「ヨランダ殿が何かに気づいていらっしゃったようなそぶりは」

従姉(あね)が?」

 アベーレはマリアーノの顔を見た。

「他意はありません。女性のほうがそういうのには敏感なのではないかと」

 不安がっている気配はあっただろうか。アベーレはグラスを置いて記憶をたどった。

 か弱くてたおやかで、男性が支えてやらなければ一人で立っていることすらできない淑女だ。

 ひそんでいる侵入者などに気づいていたら、一日中不安でふるえているものなのでは。

「ヨランダ殿は、あなたよりも(きも)が座っていらっしゃるようなので、あなたには何も知らせず対処していたのかもしれませんが」

 アベーレは目を丸くした。


「……どなたの話だ」

「ヨランダ殿の話です」


 マリアーノはそう返答する。

「ずいぶんと従姉(あね)を誤解しているような」

「正しい評価だと思いますが?」

 マリアーノが残りのワインを口にする。

 ふいにグラスを置き、顔をしかめる。


「あなたのような間抜けな男性がいらっしゃるから、女性は男性がみんなバカだと評するんです」


「は……?」

 ぶほっと大きな音を立て伯父が吹きだした。

 狼の裂けた口で吐いた息なので、かなり大きな音になる。

 眉をよせてそちらを見たアベーレに、伯父は手を差しだした。

「いやいい。話をつづけて」

 ククク、と肩をゆらす。

 何なのだとアベーレは思ったが、できうることならさっさと話をすませて屋敷に帰りたい。

 ヨランダが心配だ。

 この村に着いたときからの記憶を順番にたどることにした。

「そういえば……使用人部屋から物音がしてなかを覗いたことが」

 アベーレは言った。到着したつぎの日だったか。

 ヨランダも物音を聞きつけ駆けつけていた。大きな肉切り包丁をもち、何か過激なことをおっしゃったような。


「だがあれはラウラがいなくなるまえか……」

「お二方が到着したつぎの日のことでしたら、わたくしで」


 執事が右手を挙げる。

「所用でお屋敷にもどったのですが、お二方の容姿を聞いておりませんでしたので、素性不明の侵入者がいるととりあえず鉢合(はちあ)わせをさけて外にでたもので」

「そうでしたか」

 アベーレは返答した。

 ヨランダに伝えれば、少しは安心していただけるか。

「あとは……何かあったかな」

 宙を見上げて記憶をたどる。しばらくして妙なことを思い出した。


「村の女性たちが……女の幽霊を見たと言ってきたことが」


 マリアーノが目を見開きこちらを見る。

「どこでです!」

「客室の廊下の付近だと思うが、幽霊話がある屋敷なのかと聞かれて」

 マリアーノが立ち上がり、屋敷の方角を見た。テーブルに両手をつき、こんどは伯父のほうを見る。


「あるのですか!」

「ない」


 伯父がきっぱりと答える。

「なぜそれを早く言わないんです!」

「関係するのか!」

 アベーレは声を上げた。

「それがラウラだという可能性は充分あるでしょう!」

 伯父と執事が、それぞれ同意したようにうなずく。

 あのときの出来事を、アベーレは懸命に思い起こした。

 玄関ホールで、レダに言いよられていたときだったはず。あとから村の女性たちがきて、幽霊が走って行ったと。

 そのあとでヨランダが、客室のほうへと急ぎ足で行くのを怪訝(けげん)に思いながら見送った。

「たしか……あのとき姉上は、帳簿をもっていらして」

 アベーレはそうつぶやいた。





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