Una persona è un lupo per una persona. 人は人にとって狼である III
角灯を手に教会に到着する。
男性の二人づれで拳銃を持参とはいえ、それでもあたりを警戒しながらの同行となった。
礼拝堂とは入口の違う倉庫のほうにマリアーノが先導する。
「ここか。例の罪人を捕らえている場所というのは」
アベーレはランタンをかかげて重厚な壁を見上げた。
「面会しますか? こちらはかまいませんが」
「人狼は」
アベーレはあたりを見回した。
「今日は来られないそうです。いまだお忙しいらしくて」
アベーレは副助祭を見た。
「何か」
「いや……会話が噛み合っていないかなと」
「そうですか?」
そう返しながら、マリアーノは鎖と鍵のついた厳重な鍵を開けはじめた。
「ふつうに噛み合っていると思いますが?」
「副助祭どの、何を知って……」
不意に食料倉庫から男性の叫び声が聞こえた。
マリアーノが鍵を外す手を速める。
「なかにだれか?」
アベーレは眉をひそめた。
マリアーノが珍しくあわてているように見える。
「そうそうなかに侵入などできないと思っていたのですが」
その言葉でアベーレは狼藉者の可能性を察した。
「撃つか?」
拳銃を鍵に向けてかまえる。
「いえ……なかに入ってからのほうが必要になる可能性が。連射は難しいのですから、貴重な弾を使わないでください」
ガチャガチャと鍵を外す音を聞きながら、アベーレはなかの音と匂いを伺った。
男性と思われる乱れた靴音が聞こえる。
マリアーノは、鍵を雑に外してようやく重々しい扉を開けた。
ギッと音がする。
ひんやりとした倉庫内に二人の影が伸びる。靴音は奥から聞こえているようだ。
アベーレは、銃の安全装置を一段階だけ上げた。
「うわあっ」と男性の叫び声がする。乱れた足どりで、若い男性が奥からこちらに向かって走ってきた。
マリアーノが、ランタンを顔のあたりに上げる。
見覚えがある人物だ。屋敷に避難していた男性の一人ではなかったか。
「フィコ」
マリアーノがそう呼びかける。
フィコを追うようにして、身形のよい男性が廊下を駆けてきた。
恰幅のよい年配らしき体型ながら、脚は非常に速い。
すさまじい速さでフィコの背後に駆けよると、彼の襟首に手を伸ばした。
顔は大きくまえに突きだし、口は耳元のほうまで裂けている。こめかみにあたるあたりから肩と首にかけてをおおう濃茶色の長い獣毛。
人狼だ。
「たっ、助けてください、アベーレ旦那さま!」
フィコはこちらの姿を認めると、必死の形相でそう叫んだ。肩を大きく揺らし人狼の手をふり払う。
「食料倉庫で何を?」
マリアーノが、落ちつきはらった様子で目を眇める。
「いや。えと、お野菜とかちょっともらおうかと。すんません!」
フィコが声を上げる。
「今回だけです、ほんとうです!」
人狼がふたたびフィコの服の襟をつかむ。
フィコは「ひっ」とひきつった声を上げた。
「食われる! 食われる助けて!」
人狼がガッと大きく口を開いた。眉間にしわをよせ、目をするどくつり上げて牙を剥いた、獣の怒りの表情だ。
「ひっ」
フィコは、たまたま手に当たった鍬を手にとった。
「ひいいいいい!」
引きつった声を上げながら鍬をふり回す。
「状況はいまいち呑みこめんが……」
アベーレは早口でつぶやいた。手にしていた銃を前方にかまえる。
「ご助勢する!」
アベーレは、フィコがふり回す鍬を撃った。
轟音がひびき、あたりが硝煙で白くかすむ。
「倉庫内で。少々危ないですねえ」
マリアーノが冷静にそう言う。
フィコがおたおたと身をひるがえして、開け放たれていた出入口から逃げだした。
「あっ……」
アベーレは、あわててあとを追おうとふり返る。
「まあいい」
大きく息をついて、そう言ったのは人狼だった。
「これではっきりと証拠がつかめた」
「ようやくお会いできました」
アベーレはフリントロック銃を前ポケットにしまった。
「ごぶさたしております」
そう続けて苦笑する。
「伯父上」
マリアーノが、何の驚きもない表情で腕を組んでいた。
やはり事情を知っていたかとアベーレは横目で確認する。
だいぶおくれて、例の髭の執事が駆けつけた。
「旦那さま、いくら何でも危のうござ……」
執事はマリアーノを見ると、軽く目を見開いた。
「伯父上」
こんどはマリアーノが言う。眉をきつくしぼり、不機嫌そうな顔をしていた。




