Lupo in pelle di pecora. 羊の皮を被った狼 I
村人たちが屋敷に滞在して三日目。
朝食の準備ができ、屋敷内にいる者たちはそれぞれに食堂広間に集まった。
食器を運んできたリーザが、銘々の場所にいる者たちを見回す。
「あれ? フィコは?」
見かけたかどうかを思い出そうとしたのか、レダが首をかしげる。
「あいつだけ部屋一人だがら、ゆうべ帰ってきたかどうかだれも分がんねえな」
ガシャ、と音を立てリーザは長テーブルに雑に食器を置いた。
「ゆうべはアベーレ旦那さまの司令で、みんな部屋に集まっだあとすぐ寝ちまったし」
「司令というほどのものでは」
暖炉まえの席でアベーレは眉をよせた。
「帰ってきだけど人狼に喰われたとかか?」
ミネストローネの鍋を運んできたルイーザが、そう言いながら鍋を置く。
煮こんだ野菜の香りがただよった。
「窓のすぐそばに人狼いだんだもんなあ……」
リーザが怯えた表情をした。
「人狼がいちばん出るのは、教会のあたりだと思ってだんだけどな。変なわめき声が聞こえるときあるしな」
「わめき声?」
テーブルナプキンを広げながらアベーレは尋ねた。
「礼拝堂とはべつの棟のほうだ。近く通ると、ときどき」
リーザが教会の方角を見る。
アベーレは、礼拝堂からつづく廊下を横切っていった人狼の姿を思い浮かべた。
「教職の居住棟のほうか?」
「そっちではねえです。貯蔵庫とかあるほうだ」
同意を求めるように、リーザがほかの村人たちの顔を一人ずつ見る。
「たしかに、あのへんで人狼見だって人も何人かいだな」
ルイーザが言う。
今日はまだマリアーノ副助祭は来ていなかったが、この場にもしいたら、何を言っただろうか。
不意にヨランダがうしろをふり返った。食堂広間の出入口を見る。
玄関の扉のドアノッカーをたたく音がしていた。
「だれか来たようだな。副助祭どのかな」
アベーレはそちらを見た。
行儀よく落ちついた叩き方だ。たぶん間違いないだろう。
村人たちがいっせいに玄関ホールの方向を見る。耳をすましているのか、しんと静まりかえった。
「よく聞こえるな、アベーレ旦那さま」
すましている耳につられてか、リーザが目まで大きく見開く。
「お二人ともお耳いいんですね」
そうレダが言った。
「お屋敷広いから、だれか来られてもほんと分かんねえな。こういうところに住み慣れでると、耳よくなるんかな」
いまだ何も聞こえないらしく、リーザは顔をしかめた。
「いや……申し訳ないが、だれか出迎えてくれるか」
「そだ。家のことやる約束でここに避難さしてもらってんのに、出迎えもしねえでなに耳すましてんだ」
ルイーザがすたすたと出入口に向かった。




