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人狼村の偽りの月  作者: 路明(ロア)
Età della luna 10 羊の皮を被った狼

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29/51

Lupo in pelle di pecora. 羊の皮を被った狼 I

 村人たちが屋敷に滞在して三日目。

 朝食の準備ができ、屋敷内にいる者たちはそれぞれに食堂広間に集まった。

 食器を運んできたリーザが、銘々の場所にいる者たちを見回す。


「あれ? フィコは?」


 見かけたかどうかを思い出そうとしたのか、レダが首をかしげる。

「あいつだけ部屋一人だがら、ゆうべ帰ってきたかどうかだれも分がんねえな」

 ガシャ、と音を立てリーザは長テーブルに雑に食器を置いた。

「ゆうべはアベーレ旦那さまの司令で、みんな部屋に集まっだあとすぐ寝ちまったし」

「司令というほどのものでは」

 暖炉(だんろ)まえの席でアベーレは眉をよせた。

「帰ってきだけど人狼に喰われたとかか?」

 ミネストローネの(なべ)を運んできたルイーザが、そう言いながら鍋を置く。

 煮こんだ野菜の香りがただよった。

「窓のすぐそばに人狼いだんだもんなあ……」

 リーザが怯えた表情をした。

「人狼がいちばん出るのは、教会のあたりだと思ってだんだけどな。変なわめき声が聞こえるときあるしな」

「わめき声?」

 テーブルナプキンを広げながらアベーレは尋ねた。

「礼拝堂とはべつの棟のほうだ。近く通ると、ときどき」

 リーザが教会の方角を見る。

 アベーレは、礼拝堂からつづく廊下を横切っていった人狼の姿を思い浮かべた。

「教職の居住棟のほうか?」

「そっちではねえです。貯蔵庫とかあるほうだ」

 同意を求めるように、リーザがほかの村人たちの顔を一人ずつ見る。

「たしかに、あのへんで人狼見だって人も何人かいだな」

 ルイーザが言う。

 今日はまだマリアーノ副助祭(ふくじょさい)は来ていなかったが、この場にもしいたら、何を言っただろうか。

 不意にヨランダがうしろをふり返った。食堂広間の出入口を見る。

 玄関の扉のドアノッカーをたたく音がしていた。

「だれか来たようだな。副助祭どのかな」

 アベーレはそちらを見た。

 行儀よく落ちついた叩き方だ。たぶん間違いないだろう。

 村人たちがいっせいに玄関ホールの方向を見る。耳をすましているのか、しんと静まりかえった。


「よく聞こえるな、アベーレ旦那さま」


 すましている耳につられてか、リーザが目まで大きく見開く。

「お二人ともお耳いいんですね」

 そうレダが言った。

「お屋敷広いから、だれか来られてもほんと分かんねえな。こういうところに住み慣れでると、耳よくなるんかな」

 いまだ何も聞こえないらしく、リーザは顔をしかめた。

「いや……申し訳ないが、だれか出迎えてくれるか」

「そだ。家のことやる約束でここに避難さしてもらってんのに、出迎えもしねえでなに耳すましてんだ」

 ルイーザがすたすたと出入口に向かった。





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