Abitanti dei villaggi evacuati. 避難してきた村人 III
食堂広間の長テーブルに置かれた燭台が、並べられた料理と両手を組んだ村人たちの顔を照らしだす。
シャンデリアのほうにも火を灯せばもっと明るくなるだろうが、ここにきてからはいちども使っていない。
テーブルの上には、ミネストローネの盛られた皿とパンとチーズとアンズのジャムの乗った皿、ワインの注がれたグラスが置かれている。
一気ににぎやかな食卓になったとアベーレは感じた。
暖炉まえの席に座り、アベーレはマリアーノ副助祭に目線を送った。
「父よ」
村人たちと同じように手を組み、マリアーノが静かに食前の祈りの言葉を口にする。
「ここに用意されたものを祝福し、私たちの心と身体を支える糧としてください。私たちの主によって」
「アーメン」とマリアーノがしずかに唱えた。
しばらくシンと沈黙したあと、ルイーザがテーブルに上体を乗りだす。
「アベーレ旦那さま、嫌いなものないですか? ヨランダ様に聞いだらとくにないっておっしゃってだけど」
「え……」
アベーレは、すぐ目のまえの席に座るヨランダを見た。
優雅なマナーでスプーンを手にし、ヨランダは何事もないかのようにすましている。
立ててくださったのだろうかとアベーレは思った。
たしかにここで、ピーマンが少々苦手だなどと子供のようなことを言われたくはないが。
「貴族さまも好き嫌いなんかあるんですか?」
レダがパンをちぎる。
「つか、庶民と同じお野菜なんか食わないと思っでだ。なんか特別な金のお野菜とか食っでんのかなとか」
リーザがパンを口にしながら言う。
「……ミダス王でもあるまいし」
アベーレは顔をしかめた。
「村の方々をお食事に同席させてくださり感謝します。本来なら別室でしょうが」
おだやかな口調でマリアーノが言う。
「まあ、あまり気にはしないが」
「皆さん、できる限りマナーなど気をつけるように」
下座までとどく声でマリアーノが声を張る。
村人たちが全員それぞれに姿勢を正した。
「滞在中の部屋割りは、けっきょくどうなったのかな」
アベーレは村人たちを見回した。
「あたしとレダと婆ちゃん二人がいっしょ」
リーザが小ぶりの手で一人一人を指差しながら説明する。
「全員同室という案は却下か」
「さすがに男女は分けていただかないと道徳的に」
マリアーノが行儀よくミネストローネを口にする。
「小さいときから知ってる人ばっかだし、気にしねえけどな」
「お年ごろなのですから気にしてください」
マリアーノが眉をよせる。
「女性が全員同室というわけではないのか」
「それでもよがったけど、子供らいるから。あたしはうちの人と子供らと」
ルイーザがそう言い、下座に並んで座る子供たちを指さす。
「子供は全員ルイーザ殿の子であったか」
「いえ。向かいの家の子と、となりの家の子と五軒となりの家の子ですよ」
アベーレは無言で顔をしかめた。
「お屋敷に避難させていただく話したら、子供もあずかってもらえんかなってみんな話してて」
ルイーザが、ミネストローネをスプーンですくう。
「あずかってもらえだら、遠ぐの仕事さへも行げますから」
「あー、リヴォルノの港の積み荷おろしの仕事、行ぎだいって言ってた人が何人かいたな」
リーザがパンをちぎる。
ここは養育院か。アベーレは眉をよせた。
「つまりきみだけは一人部屋ということか。……ええと」
アベーレは下座に座った若い男性を見た。
「フィコです」
愛想のよい笑顔で若い男性が名乗る。
ヘラッとした笑い顔がヨランダに向けられたもののような気がして、アベーレは眉間にしわをよせた。
「私の滞在部屋も用意していただけますか」
マリアーノがテーブルナプキンで口を拭きながら言う。
「……滞在するのか?」
「何か不都合でも」
マリアーノがテーブルナプキンを無造作に置く。
「教会の司祭館はここからすぐ近くでは」
「もちろんここで生活するわけではありません。非常時にそなえて宿泊するところを確保していただければ」
アベーレは眉をよせた。
「……それはつまり、教会に人狼が出るということか?」
「ひえ」とリーザが声を上げる。
「出るんですか? 副助祭さま」
「まさか」
マリアーノがにっこりと笑んだ。
ワインを口にしながら、アベーレはじっとマリアーノの表情を伺った。
教会の廊下を横切っていった人狼は、決して見違いではなかった。
あれは、あのときたまたまだったのか。
場合によっては、教会で匿っているのではとまでアベーレは推測していた。
何をかくしていて、何がしたいのか。




