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人狼村の偽りの月  作者: 路明(ロア)
Età della luna 4 何の肉ですか?

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11/51

Il prete tornerà tra una settimana. 司祭が戻るのは一週間後です。 II

「司祭さまは街に行っていらっしゃるとのことですけれど、いつお帰りですの?」

 ヨランダが紅茶を淹れながら問う。

 紅茶の葉も厨房にあったと言っていた。

 以前の屋敷で飲んでいたのとそう変わらない、高級な茶葉の香りがただよう。


「一週間ほどはかかりますかね。助祭もついて行っておりますので、つぎの礼拝も私が代行いたしますが」

「一週間……」


 アベーレは眉をよせた。

「まあ田舎の教会には、ままあることで」

 マリアーノが紅茶を口にする。

「腰を痛めたばかりなのに、大丈夫か」

「すっかり大丈夫そうでしたが、そのために助祭がついて行ったのですから」

 マリアーノがしずかに紅茶を皿の上に置く。

 マナーがきちんとしているところは、良家の出身者にまず間違いなさそうだ。

「ときに」

 マリアーノが落ち着いた口調で切り出す。

「伯父君から何かご連絡は」

「いや……」

 アベーレは答えた。

「いまだまったく」

 そろそろ心配ではあるが。

 自身らがここにつく直前まで屋敷内にいたのだとしても、もう四日だ。

「そろそろ貼り紙をお願いしたほうがよいかな」

 アベーレは眉をよせた。

「独自に手がかりを集める段取りを進めていらっしゃるのかと思っていました」

 そうマリアーノが言う。

 何のことだとアベーレはヨランダと目を合わせた。


「村の方々から、“ 屋敷の旦那さまのお取り調べがあるらしい ” と相談されましたので」


 ヨランダが宙をながめる。ややしてから何かに思いあたったような顔をした。

「野菜を買った家のお婆さんから、なにか聞いたのかしら」

「あれか」

 アベーレはつぶやいた。

「人狼のことについて少々聞いたら、農家の御婦人がおおげさな解釈をしてしまって」

「ああ、なるほど」

 マリアーノがうなずく。

「そういうことでしたか。なら間違ったことを言い含めてしまったか」

 マリアーノが言う。

「何と言ったんです」

「気さくでおやさしい御方だから、知っていることがあるなら怖がらずにつつしんでお取り調べをお受けしなさいと」

副助祭(ふくじょさい)どの……」

 アベーレは顔をしかめた。

 本人の知らないうちに、どんな印象に仕立て上げる気だろうか。

「ちょうどよいではないですか。伯父君を目撃した方がいるかもしれない」

「それはそうですが、取り調べなどとおおげさな」

「田舎は娯楽が少ないですからね。内心はみなさん、貴族のお屋敷のなかが見られるとワクワクしているんだと思いますよ」

 マリアーノが窓の外の村の景色をながめる。 

「……娯楽なんですか」

「ふつうの村人は、絵画すら教会以外で見る機会はないですからね」

 アベーレは、食堂広間に飾られた数枚の宗教画を見た。

 自身は生まれたおりから日常的に見ているものだが、そんなところが違うのかと内心おどろく。

「まあ……いくらでも見にきたらよろしいが」

 そう答えて紅茶を口にする。


「そういえば、人狼ですが」


 マリアーノが話を変える。

「満月のときにだけ狼になるというのは、間違った言い伝えだそうですね。満月でなくても本性が出るという話がいくらでもあるそうで」

「そう……なんですか」

 アベーレは紅茶のカップを口から離し、ぎこちない動きで皿の上に置いた。

「満月の日に姿が変わるというのは、創作上の話だそうです。新月の日に変わるという話もあれば、聖夜とかロウソクの日とかという話も」

 教会の礼拝堂まえの廊下で見た、頭部だけがやたら大きく狼の顔をした男性をアベーレは思い浮かべた。

 逆光ではあったが、仕立てのよい服を身につけていたのと、年配男性と思われる恰幅(かっぷく)のよい体型は、見間違いではないと思う。

「副助祭どのは人狼を見たことは」

 アベーレは紅茶を口にしながら尋ねた。

「私はありませんが」

 マリアーノがにっこりと笑う。

 あの廊下を横切って行った人狼の男性について、ほんとうに気づいていなかったのか。

 何か理由があって隠しているなどということはあるのだろうかとアベーレは思った。

「司祭どのが戻られるのは、一週間後だったか」

 アベーレは確認した。

「ええ」

「一週間後にはやっとお会いできるかな」

 アベーレは苦笑した。

「なにせ、司祭どのも助祭どのも、まだいちどもお会いしていないので」

「そうでしたか?」

 マリアーノがそう応じる。


「教職でお会いしたのは、いまだ副助祭どのだけですが」

「それはどうにもタイミングが悪かったですね」


 マリアーノが声を上げて笑う。

「あら」

 ヨランダが、窓の外を見て声を上げる。

「犬かしら」

 アベーレは、紅茶のカップを手にしたまま窓の外を見た。

 窓から見える庭の一角と、その先に見える森。見回したが、どこにも動物らしきものを見つけることはできなかった。

「尻尾のようなものが、いま窓枠のところに」

 狼の話をすると、狼の尻尾が見える。

 そんなことわざを何となくアベーレは思い出した。





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