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第1話

「どう言う事だよっ!」

 冒険者組合の窓口に『カツユキ』の声が反響した。

「ですから、カツユキさんの登録を抹消させていただくと言っているのです」

 しかし、受付嬢の反応は冷ややかだった。

「納得が行かねぇ!説明しろよ!!」

 冒険者のカツユキにとって『登録抹消』は死活問題だった。

 声を荒げるのも当たり前だ。

「カツユキさんは組合を通さずに依頼を受けすぎです」

「仕方ねぇだろ!依頼の内容が途中で変わる事はあるんだ」

 冒険者のカツユキは組合で依頼を受注し、そこで仕事をこなす。

 そのほとんどは『モンスター退治』だ。

 現地で緊急の依頼が入る事だってある。

「しかし、それを勝手に受注されては組合として困ります」

「じゃあ何か?わざわざ組合まで案件を持って帰って指示を仰げって言うのか?」

 カツユキは緊急の依頼があった場合、その場で判断する。

 依頼を受けるか受けないかの判断を。

 緊急なのだから当然だ。

「そうです。他の冒険者の方はそれで納得しています」

「あのなぁお嬢ちゃん。状況って言うのは刻一刻と変わっていくものなんだ」

 緊急の依頼には人の命にかかわる内容だってある。

 それを組合まで持って帰っていたら間に合わなくなってしまう事だってある。

 それに、引き受ければ良い金になる。

「それでもです」

 だが、受付嬢は頑としてカツユキの主張を受け入れなかった。

 ダメなものはダメ。

 それが彼女の、と言うより組合の判断だった。

「もう良い!組合長を出せ!!」

 カツユキは怒って組合の代表者を呼ぶように言った。

 受付嬢にこれ以上言ってもらちが明かない。

 一番偉い人に言うのが効果的だ。

「少々お待ちください」

 受付嬢はそう言い残すと奥へと消えた。

 それから三十分ほどして、カツユキは奥の部屋へと通された。

 部屋には冒険者組合の組合長が座っていた。


「あんたが組合長か?」

 カツユキは太った大柄な男にそう言った。

 そして、そのままドカッと椅子に腰かけた。

 組合長はその様子を黙って見ていた。

「座って良いと言ったつもりはないんだが……まあ良い」

 組合長『シゲル』はカツユキを値踏みするような目で見ていた。

 カツユキもシゲルも横柄極まりない態度で相手を見ていた。

 部屋の中にはよどんだ空気が流れていた。

「単刀直入に訊こう」

 切り出したのはカツユキだった。

 カツユキは努めて平静を保った。

 感情的になっては交渉はまとまらない。

「俺が登録抹消とはどう言う事だ?」

「聞いての通りさ」

 シゲルはカツユキからにらまれても涼しい顔としていた。

 カツユキの事を全く恐れていなかった。

 野良犬ほども恐れていなかった。

「お前はもう要らん、だから出ていけ」

 そう言いながらシグルはカツユキに『シッシッ』と手でジェスチャーした。

 カツユキはその態度に少しムカッとした。

 だが怒りを抑えて交渉を続けることにした。

「なぜもう要らないと判断した」

「面倒臭い奴だなぁ……」

 シゲルは大きなため息を吐くとキセルに火をつけた。

 勢いよくキセルの煙を吸い込んだシゲルは

「お前が居ても金にならないって言ってるんだよ」

 カツユキを指さして言った。

 シゲルの鼻から出たキセルの煙はカツユキの方へと流れた。

「俺は今まで色んな依頼をこなして来た」

「だから?」

「組合の利益になっていない筈はないと思うが?」

「はっ」

 シゲルは笑った。

 完全にカツユキをバカにしていた。


「お前に依頼を回すより他の奴に回した方が金になるんだよ!」

「俺は『銀等級』の冒険者の筈だが?」

 銀等級の冒険者。

 それは冒険者のあこがれの存在だった。

 そうそうなれるものでは無い。

「それがどうした?」

「俺にしかこなせない依頼がある筈なんだがなぁ」

 カツユキはそう言うと天井を見た。

 天井ではシゲルが吐き出した煙が踊っていた。

「……お前、勘違いしてないか?」

「何?」

「銀等級だか何だか知らないが『お前の代わり何ていくらでも居る』って言ってるんだよ」

「銀等級の代わり……ねぇ……」

 カツユキはシゲルの言葉を『ただの脅し』だと思った。

 銀等級はその辺に居る冒険者とは訳が違う。

 くぐって来た修羅場の数が段違いなのだ。

 それの『代わり』なんて簡単には用意できない。

「どこに居るんだ?その代わりは」

 カツユキは平静を保ちながらシゲルに問いかけた。

 だが、内心勝ち誇っていた。

 しかし

「入って来い!」

 シゲルは部屋の奥へと声を掛けた。

 すると、奥から一人の青年が現れた。

「なっ!」

 カツユキはその青年の格好を見て驚いた。

 その青年の胸には銀等級を意味するバッジが光っていた。

「紹介するぜ。今度、新しく銀等級になった『タイト』だ」

 シゲルはタイトを隣に座らせると勝ち誇ったような笑みをカツユキに向けた。

「そんな……バカな……」

 カツユキは信じられなかった。

 こんな若い冒険者が銀等級になるなんて。

 自分の不動の地位がこんな簡単に脅かされるだなんて。

 カツユキにはどうする事も出来なかった。


「……畜生……」

 カツユキは冒険者組合に備えられている酒場で飲んでいた。

 ほんの少し前まで、自分は皆が憧れる銀等級の冒険者だった。

 だが、今はただの無職になってしまった。

「これからどうやって生活して行けって言うんだよ!」

 カツユキはそんな事を言いながらジョッキをあおった。

 だが、どんなに飲んでも気持ちが晴れる事は無かった。

 辛い現実をひと時でも忘れたかった。

「……ハァ」

 カツユキは空になったジョッキを置くと店を後にしようとした。

「(こんなところで腐っていても仕方ない。次の仕事を探そう)」

 そう考えていた。

 するとカツユキの目にある光景が入った。

「お願いです!これだけしか出せないんです!!」

「ですから、この金額では依頼を引き受ける事は出来ないと何度も……」

 冒険者組合の窓口で何やら口論になっているようだ。

 依頼主らしき少年が受付嬢にあしらわれている。

 カツユキはその様子を何となく見ていた。

「どうしてもダメですか?」

「申し訳ありません」

 間もなく、少年は窓口を後にした。

 どうやら依頼を断られたらしい。

 カツユキは『金の匂い』に誘われて少年の後を追った。


「……ハァ……」

 少年は公園のベンチでため息を吐いていた。

 手には皮の袋が大事そうに抱えられている。

 カツユキは少年に近づくと

「こんなところでため息何てついてどうしたんだ?」

 出来る限り気さくに話しかけた。

「……わっ!」

 少年は急に声を掛けられて小さな悲鳴をあげた。

 少年がとっさに皮の袋を隠したのをカツユキは見逃さなかった。

「(金の匂いは当りのようだな)」

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