表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

ネットの時代

作者: ます

おれは、この社会に嫌気がさしてきた。といっても、戦争に駆り出されようとしているわけではないし、給料が安く、生活が苦しいわけでもない。そういった命を脅かす危機に瀕しているわけではない。平和な世界である。しかし、おれが注目されないのだ。おれだって、少年時代は夢を持ち、いずれはテレビスターにでもなってやろうと思っていた。ところが今のおれは、30を過ぎたというのに、ただの会社の歯車である。いや、無能なおれは歯車ですらもないかもしれない。もし宇宙人が地球に来たとしても、日本にいる1億を超える人の中の、平凡な1人としか見られない。SNSに渾身のギャグなんかをアップしても、反応はいいとこ十件くらいだ。おれがこんなに無視されていていいはずがない。いくら素晴らしい世の中であろうと、人生はおれ視点なのだから、これはとてもつまらない。


そこで、おれはある計画を考えた。近所に、大きな神社がある。夜、そこに忍び込み、柱に落書きでもしてやろう。そして写真を撮り、SNSにアップロードしてやる。きっとネットは盛り上がり、大炎上を起こすだろう。仮に警察に捕まるとしても、おれの名を社会に知らしめるためには、1番手っ取り早い方法だと思う。卑怯かもしれないが、炎上商法という言葉もあるくらいだ。この世の中、知名度が高い者が偉いのだ。


翌日、夕方から神社に行き、境内に隠れていたおれは、営業時間が過ぎたあと、無事に柱に落書きをすることができた。スマートフォンで撮影したので、あとはSNSにアップロードすれば計画は完了だ。本名を晒しているアカウントなので、一気に有名人になれるだろう。おれは「神社に落書きしたったww」との文を書き、先ほどの写真と共に投稿した。


翌朝。やけにスマートフォンが騒がしい。これはもしかして炎上しているのではないか。期待しながらスマートフォンを開くと、案の定というべきか、おれのアカウントは炎上していた。

「流石に死んだ方がいい」「社会のクズ」などの誹謗中傷が飛び交う。

おれは、ここですぐにアカウントを消して逃げ出すような馬鹿ではない。狙って起こした炎上だ。むしろ、燃料を投下してやろう。おれは「なんか燃えてて草」とだけ書き込み、またスマートフォンを閉じた。


3日後。おれの落書きに対し、神社が被害届を提出したというニュースが流れた。


そして数日後。インターフォンが鳴った。モニターを見れば、黒い服を着た男が数人立っている。警察だ。ここでおれは捕まるのだろう。しかし、あの投稿はものすごい炎上をみせ、おれのアカウントは凍結された。十分計画は成功と言える。仮に神がいて、地獄に落とされたとしても、「おれはあの有名な神社に落書きをした男だぞ」と威張れるのだから、いいじゃないか。


彼は、そんなことを言って逮捕された。その頃、SNSは、すでにその話題も終わり、ある芸能人の不倫についての議論が飛び交っていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ