エピローグ
「いやあ、久々にあいつらに会えて、なんか肩の力抜けたわ」
「カナメの練習が充実してそうで何より」
「充実はしてるけどさぁ、かなりきっついぜ」
高校卒業後、元クラスメイトで集まる機会がなかなか作れなくて、夏、大学もちょうど夏休みに突入した頃に、僕らはまた皆で顔を合わせた。
懐かしい教室を借りて、ちょっとだけ恥ずかしい高校時代の映像を映して。
元クラスメイトが持ってきてくれた手作りのケーキを、皆で頬張った。
教室を出て、皆が昇降口へと階段を下りていく中、すぐには帰らなかった。
カナメと二人、生徒のいない美術室へと立ち寄らせて貰ったのだ。部活のないこの日は、寒いくらいに冷房が効いていたあの頃とは違って、生温く居心地が悪かった。
筆が止まっていたあの時の感覚を、少しだけ思い出して、昔の自分へか、僕は笑い掛けていた。
結局、学校を出るのは僕らが最後になってしまった。
カナメと二人の帰り道が、卒業からそれほど経っていない今でさえ、懐かしくて懐かしくて・・・。
自然と口角が上がるのだった。
「そっちは?どうなの?」
「ん、いい感じ。一人暮らし大変だけど、結構いいよ」
「そっかあー、良かった!正直俺さ、あん時はめちゃめちゃ聞きづらかったんだよ。急に目つきが変ったから、何かあったんじゃないかと思って」
「あははっ、まあ、あったっちゃあったかな・・・」
そう言って、ふと目に留まったのは、去年の夏、ゲリラ豪雨に走って、近道だからと入り込んだ私道だった。
もう何ヶ月と意識していなかったけれど、何故だか目が惹かれて、離せなかったんだ。
「マコト・・・?」
背後から呼ばれて振り返る。
「・・・ヒロト!?」
何でここにいるのだとか、聞くべきことは他にもあったのだろうけど、お互い、この時頭にあったのは、あのことだけだった。
「・・・もしかしてお前も?」
ヒロトの言葉に、僕はそっと頷く。
「カナメ!ちょっと待ってて!」
「え、あ、おう!」
ヒロトと一緒に、小道を走り出した。久々にここを通ったから、珍しく明かりが付いていなければ、危うく通り過ぎるところだった。
そう、あの喫茶店に明かりが付いていたのだ。
店の中に客の姿が無い。けれど、ドアには「Open」の看板が下がっている。
そっと、ドアノブに手を掛けた。固く閉ざされていた戸は、すんなりと開いたのだ。
喫茶店には、やっぱり珈琲のニオイが充満している。けれどもう、息が詰まるような思いはしなかった。
ここへ迷い込んだ僕らに、また、懐かしいあの声が問いかけたのだった。
「――いらっしゃい。久し振りだね」




