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招かれた僕ら  作者: 蓮水 碧
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「今なら開くかもしれない・・・」


 僕も、鍵ではないが鍵になるようなヒントなら貰っていたんだ。


「・・・先に言っとくけど、戸が開いても俺は帰らないからな」

「え・・・?」


 腑抜けた声が出てしまった。


「こっちに来て、もう一年以上経ってるのに、今更戻ったらそれこそ人生が狂ってるだろ。あの頃以上に。なら、こっちでやり直す方が何倍もいい」

「一年近く?さすがに長すぎない?僕でもまだ、一ヶ月経っていないくらいなのに」

「ん、ああ。大学受験は成功したか?俺が消えて、少しは進路を主張し易くなって――」

「――なってないよ!僕がこっちに来たのは、ヒロトがいなくなった翌日だぞ!」


 それにはヒロトも想定外だったらしく、今度はヒロトが「は?」と腑抜けた声を上げた。けど、さすがはヒロトだ。話の理解が早い。


「・・・もし仮に、時間の進みがどうのこうのっていう話があったとしてもだ。俺はあんな、自分を殺し続けるような場所に戻るつもりはない」

「それは結局、ヒロトが選択した結果だろ」

「俺がどうにかすれば良かったって?・・・仕方ないだろ。あんな場所に閉じ込められて、毎日プレッシャーに押しつぶされそうで、味方なんていなかった!見えるものも見えなくなって、もうどうしようもなくて・・・本当に死んでやろうかって何度も思った。どうせあそこでの俺はとっくに殺されて――」


これには最後まで待っていられなかった。


「死のうって・・・何でお前が言うんだよ!頭の良さもピカイチで、運動もできるから部活もずっとレギュラー入で、ピアノだって僕と一緒似始めたのに気付いたらやっぱりお前の方が優遇されてた」


 ああ、勢い余ってヒロトへとの羨望が全て漏れ出てしまう。


「周囲の関心も、親の関心も全部、お前だろ!僕はヒロトが羨ましいよ・・・。そのヒロトに、今更何が変えられないって言うんだよ!」


 違う、言いたいのはこんなことじゃないんだ。僕が羨ましかったそれが、度を超してヒロトに襲いかかり、ヒロトが苦しくて苦しくて、辛かったのは知っているんだ。ずっと、見て見ぬふりをしてきたから。


「・・・羨ましかったのは俺の方だ。あんなの、客観視すれば全体的に異常だった。進学校だとか偏差値だとかどうでもいい!俺がしたいのもマコトと同じ・・・俺だって、絵が描きたいだけなのに」


 それは、僕にとって衝撃の告白だった。何でもできるヒロトだけど、その道に進みたい素振りは一切無かったから。


「そうだったんだ・・・」

「それで、進路変えたいって話をあいつにしたら、ぶたれて頭冷やしてこいって家追い出されて今に至る」

「あぁ、親父やりそう・・・」


 でも、ヒロトは本当に今の状況に満足しているのだろうか。


「影無し」としてここに来たわけだから、きっと僕よりずっと苦労してきたはずだ。名前も変え、影まで入手して、それなりの地位もあってやっぱりさすがだとは思うけど、同時に今の運命を余儀なくされているようにも見えた。


「ねえヒロト、本当にこのままでいいの?」

「・・・お前のお陰で俺の立ち位置が危ういから、そこは挽回しないとな」

「そうじゃなくてさ・・・こっちに来てまで誰かに従いっぱなしで良いのかよって・・・」


 ヒロトは無言のまま、むしゃくしゃ絡まった心を振り払うように影に向かって大きく剣を振った。


「ねえ!僕たち二人で帰ろうよ!帰って、お互いまた別々に、とかじゃなくてさ、僕らの邪魔してる壁壊して、二人でもう一回やりなおす協力をしてほしいんだよ!」


 そこでふと、ミノンの姿が頭に浮かんだ。


「僕も、もともと、一人の人を助けたくて。でも気が付いたらこんな大事だ。でも後悔もないし、不思議ともう止めてやろうとか思わなかった。だからってことにはならないかもだけど、ヒロト、僕なら大丈夫だよ。何があっても絶対に味方で居続ける」

「・・・・・・見事に言い切ったな」


 ヒロトの返事はそれだけだった。その先を聞くより先に、青い戸の前に着いてしまったのだ。


青い戸を挟んで向かい側、シヴァが針山のようになってしまった背を重たそうに持ち上げながら、僕に視線を送ってくる。


「おい!早く!鎧が来る!」


 わかっているさ。鎧だけじゃない。


周囲ではまた銃声がなり出したし、アギさんも動ける状態じゃない。他の兵士も、あの人数にはそろそろ限界が来ているはずだ。加えてファロイの予測不可能な攻撃。何もかもが窮地に立たされた僕らだったんだ。


 冷たいドアノブを手の平一杯に握り込む。


「・・・・・・動いた!」


 その言葉を、シヴァはずっと待ち望んでいたのだ。一声鳴いて、僕らの方へと大きくジャンプをした。興奮で湧き上がったのか、煙のような薄い影がその体から流れてくる。


戸の前で一瞬立ち止まって、シヴァは鎧へと加速しだした。


「最初からこうすりゃ良かったのに」


 ヒロトがそう言うけれど、それじゃあ意味が無いんだ。ここまで戦いを引き延ばして、わざわざ犠牲を出したのが、ただの力不足のはずがない。


「・・・ってマコトこの人!」

「分かってる!ヒロト、宜しく頼んだ!」

「はぁ!?」


 僕の手が温かい熱に包まれる。握られ、その熱が離れていくのを合図に、僕はシヴァに続いてスタートを切った。


 背後でガチャリとドアノブが回される。


 シヴァと鎧が激しくぶつかる。


 地面を蹴る。足を伸ばす。傷口から腿に、腿から全身にビリッと痛みが広がる。


 その光景はまさに、最強同士の激戦の始まりに相応しかった。けれど、そんな熱い戦いは期待していない。もう良いんだ。


ここで決着を付ける材料は、今まで着々と集めてきた。だからだ。取っ組み合った二体の影の勝敗は、一瞬にして着いたのだった。


 シヴァが吠えるように声を上げ、大口を開く。翼をがっちりと閉じて、鎧を掴んで離さない。シヴァの声は、色となり、形となり、可視化して放出された。あの時の炎を、再び吹き出したのだ。


 黒い幻能が、鎧の胴体中心を突き抜けて進み続ける。熱風が辺り一帯に広がり吹き流れた。

鎧の体に、でかでかと貫通した穴が開く。


 シヴァが再び鎧に勝ったんだ。だが、僕の役目はまだ終わっていない。


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