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招かれた僕ら  作者: 蓮水 碧
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赤い影の主


 次から次へと鋭いものがこちらへと打ち込まれていく。


「シヴァ、これ本当にまずいって!」


 僕らに降りかかるはずの物を、シヴァが全部受け止めるから、シヴァの胸には既に大量の棘が刺さっていた。あの時のように、シヴァはそれを全て吸収した。


だが、問題は地面に残った大量の弓矢だ。それは寄合わさって鎧となった。その鎧にどんどんと矢が打ち込まれ、シヴァが崖から飛び立った時には普通の人間ほどの大きさとなった。


まだ、半分以上も影の大群が残っているにもかかわらずだ。


 影にもきっと、特性がある。

シヴァは、これ以上姿を増やすのに長けていない。だが、赤い影は、何十、何百という数に分散するのが得意なんだ。

けれど、亀裂を越すのにわざわざこんなやり方をするのは、シヴァや、パライレのように飛行体に変化するのが不可能だから。大軍を作る羽虫か、同等の大きさのものでないと、宙に浮けないのだろう。


「シヴァ!より高く飛ぶんだ!」


 急上昇に耳が詰まった。かと思えば今度は急降下だ。


「シヴァ!?どうして――」


 急降下したシヴァの翼が横目に移り、僕は言葉を失った。シヴァの羽に、目を疑うほど大きな穴が開いていたのだ。唖然として振り替えれば、そこには弓矢を構えた鎧の姿があった。


矢を放ったんだ。ただ一本、狙って撃つためだけに鎧は降り立ち、そして見事に命中した。けど、今まで何事も無く攻撃を吸収してきたシヴァに、今になってこれほどでかい穴が開くはずがない。これまでと違う、別の何かがシヴァに損傷を与えたのだ。


 立て直そうとしたシヴァだった。けれど、次の攻撃は立て続けに容赦なく、僕らに襲いかかったのだった。


今度は赤の影ではない。それは爆音が鳴ってから瞬く間にシヴァの頭へと到達した。

それは黄色の――


「――大砲!?」


 嘘だろ。これも影だって言うのか。何がどうなっているんだ。


 考える間も無く、衝撃にやられたシヴァが亀裂に落ちる寸前の所で、地面に不時着した。


 シヴァに巻き込まれて、僕らは数メートル先までゴロゴロと転げ回った。シヴァに巻き込まれたが、シヴァがいなかったら、僕ら、あっという間に木っ端みじんだった。


・・・ああ、意識が遠のいていく。ここで寝ちゃ駄目なのは分かってる。誰かが僕とミノンに近づいてくるんだ。けど、今の衝撃で起き上がるのにはもう少し時間が掛かりそうだった。


 シヴァが消える。同時に、僕の視界にぼんやりと、ミノンに触れる人物の姿が映った。その人物は、ミノンに意識が無いことを確認すると、僕へと歩み寄ってきたのだった。


「よく彼女の元に戻ってこられたな、少年」


 それは想像よりもずっと高い声で、重い瞼を開くきっかけになった。


 あれだけたくましい鎧を動かしていたのだ。その主は図体がでかく、如何にも兵隊らしい男性なのだと勝手に想像していた。けれど実際、僕の前に現れたのは、槍を構えて冷たい眼で僕を見下ろす、すらりとした女性だった。


 高い位置で結わかれた真っ直ぐな赤毛が、風になびいている。黒と赤の兵服を身に纏い、矢筒を背負っている。そして、冷めきった目で僕の首下に槍先を添えたのだった。


「私の名はファロイ。赤い影の主だ。青い影の持ち主は君か?」

「・・・・・・いいえ」


彼女は「期待外れだ」という目で視線を逸らす。

悪かったな。あの時も、今も、僕が幻能すら無いただの人間で。


「そうか。奴はまた、ひとりでに消えてしまったのか」


 ここからどうやって逃げようか。寝そべって地面の冷たさを感じながら、空を見上げた。空には影の大群が充満しているし、影の主である彼女の後ろにも、ぎっしりと兵隊が並んでいるのが見える。それも、影でない、人で構成された隊だ。


「私は名乗った。次は君らの番だ」


わざわざ「影無しです」など、答えるものか。


「私は国王に仕える身だ。我々は、国王直属の兵だ。王を守り、王の命令には従順に従う。だが、今回の命令には少し手こずっていてな」


この先彼女が言いたいことは、もう察しがつく。


「こちらの要件を簡潔に言おう。君が持つあれの在処はどこだ?教えて頂きたい」

「在処・・・?そんなの、僕が知ってるわけ・・・」


 丁寧にお願いしているつもりだろうか。最初から従わせる気しかないだろうに。


 首に向けられた槍に体重を掛けて、僕は重い腰を上げた。これ、今すぐに走れと言われたら無理なやつだ。立ち上がっただけなのに、既に足に激痛が走った。


「おかしいな。まだ君が持っているはずだと睨んだのだが。素直に言えば、あの少女と共に保護下に置いてやろう」


 何も答えるつもりはなかった。僕が黙っていると、ファロイは続けた。


「これに逆らえば、君らは国王の命令に背いたことにもなるん――」


 ファロイの声が突然途切れたかと思うと、彼女の右横に、影の大群が瞬時にして盾をつくった。赤い壁が出来上がる。


疾風のごとく過ぎ去る出来事に、理解が追いつかなかった。


その盾に、何かが投げ込まれたのだ。一瞬見えたそれは、僕もよく知る典型的な爆弾の形をしていた。

黄色い影だ。さっきは大砲だった。次は爆弾か。


 凄まじい爆発音が鳴って、赤い影の大群が散々した。目の前で、影の力による爆発が起こったのだ。直に当たっていたら、例え影の爆発だろうと、ファロイは即死だっただろう。だから盾を作ったのだ。


慣れた動きで受け身を取り、ファロイは立ち上がった。


「・・・面倒だな。あちらも、今ので自分にも契約を結ぶ機会があることがわかったか」


 そうか。奴等の狙いも、恐らくミノンと同じなのだ。僕とミノンが手にしてきた情報を、向こうがどれほど知り得ているか定かじゃないけど、皆ミノンと同じ、誰のものでもなくなったラピュアスと、契約を結びたいのだ。


ファロイは王の命令で動いているが、そうして集めたラピュアスの行く先は同じ。誰かと契約を結ばされるだろう。その契約は、再び国民に幻能を授けるものなのか、自分の影に一層力を与えるものなのか、或いはまったく別のことが起きるのかは分からない。


でも、前者ならそのまま僕らに事を任せてくれたって良いじゃないか。


「・・・どうして、いつまでも僕らを追いかけてくるんだ。それに保護下って・・・」

「君らもラピュアスを欲しているんだろ」


 ファロイが槍を掲げて、兵に指示を出した。黄色い影から、次の爆弾が飛んできたんだ。それを、影を従えた大勢の兵隊が跳ね返しに掛かった。普通の黒い影が何十・・・いや、もしかしたら何百と飛び掛かって、黄色い影の断片に牙を向ける。


 ファロイはその様子を見届けてから、また僕へと言った。


「ならば敵と見なすまでだ。それに、いいのか。あの子は指名手配者・・・それも王政管理のだ。ここで逃げ出せば、それこそ追われる身になるぞ」


 空で次から次へと爆発音が響く。ファロイもそれを防ぐのに必死だった。兵士達も、じりじりと後退し始めている。


――動き出すなら今か。


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