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招かれた僕ら  作者: 蓮水 碧
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《第三章 別れ》 逃飛行


 翌日、僕たちはラピュアスの鍵が開いてしまった理由と、奪われた幻能を取り戻す術を探しに、この廃村をあとにした。やっぱり、いくら待っても幻能で作られていた朝は戻ってこなかった。

そして後に、僕らは結果として八つの街から全ての幻能が奪われていたことを知ったのだ。


朝は消え、影も消え、幻石の中にも幻能は残されていなかった。だが、不思議なことに人々の命は守られたままだった。奪われた幻能は、影の分だけだったのだ。この異常事態に、王政の方が動かぬはずがなかった。あの廃村を中心に、国境までの海と二つの大都市を含む八つの街から幻能が奪われたのだから。


幻能が奪われた街は、あっという間に冷え切ってしまった。元はもう何百年と光が当たっていない地域だ。この星の仕組みや物理法則なんかは知らないけど、きっと生命が宿るような環境ではない。

人々の命が、一気に窮地へと追い込まれていく。


その事実は瞬く間に広がり、翌日には誰にとっても看過できぬ問題となっていた。


「――やっぱり、どの街も調査に来た衛兵で埋め尽くされているわ」


シヴァの脚に吊した洗濯物を回収しながらミノンは言った。今は空の上に避難中だ。

空も、時々飛行艇が通過するから完全に安全ってわけではないけど、街に比べれば何倍も安全だ。けれど、一日中シヴァを出しているからか、ミノンの体力の消耗は激しい。


それに、着込んでも着込んでも、寒いの何の。そろそろ地上へ降りなければ。僕らの限界も近かった。


「僕も訊かれたよ。ラピュアスに似た絵を突きつけられて、『こいつを目にしなかったか』って。町中の人に所構わず訊き回ってた」


 写真を見せられる事が無かったのは、それくらい――写真に収める事ができぬほど昔から、ラピュアスが行方不明となっていたからなのだろう。


「・・・つまり国王は、これがラピュアスが起動された結果だってわかったのね」

「うん。向こうは起動されたら何が起こるか知った上で、エリクシーって集団に探させてたんだ。どこまで知ってたか分かんないけど、もしかしたら解錠条件とか、力を元に戻す方法とかも隠してるかもしれない」

「・・・・・・もし国王が、私が起こしたような事態を防ぐために先立ってラピュアスの回収に励んでいたなら、それこそ私は重大な――」

「――いや、それはどうかな。僕が知る限りだと、こういうときは大抵何か裏がある。だって、ほんとにこの事態を防ぎたかったなら、予めある程度の情報は国民にも伝えておくでしょ?」

「・・・それもそうね・・・」


 今は、ミノンにこれ以上思い詰めてほしくなかった。感情に左右されるのが一番危険だって僕は身をもって知っている。それが時に、事態を悪化させて更に自分を責めるきっかけを作るときがある。でも、絶対に都合の良い嘘を言うつもりもない。


「・・・あ、マコト。見えてきた」


 ミノンが向いた空には、光があった。幻能の境目――朝と夜の境界線に、突入しようとしていたのだ。

境目がここまで後退するほど、幻能は無くなった。


 青と黒の空に、シヴァに乗ったミノンの金髪が揺らいだ。――綺麗だった。空に映えるコントラストも、彼女自身も。ミノンの背には、勇敢さと、真っ直ぐ見るべきものを見る強さがある。

 そんなミノンは、遠目で空を見て僕に言った。


「・・・・・・マコト、やっぱり・・・」


「うん」と答える。僕らの目指す先には小型飛行機が湧いている。どこまで幻能が残っているのか、監視も兼ねて調査されているのだ。


「シヴァ、高度を落として着地をお願い」


 高い声で鳴いてシヴァは地上に身体を傾けた。


「でも、きっと下も衛兵で埋め尽くされてるよ」

「そうね・・・だから夜を狙って行動するわ。幻能の境界線が曖昧になるし、衛兵達の影の動きも昼に比べて鈍くなるから」


 僕らがあの境界線を越えるのは、広い地への逃亡を図ると共に、鍵が開かれた真相を探る為でもあった。


 ミノンは、彼女の父が生前に関わってきた人々の元を、再び訪れようとしていた。父――フォールがラピュアスを握っていたと同様に、彼らも、きっと何かを知っている。


「・・・一つの光が五つの分岐点へと伸び、それがまた広がって世界は出来ている」


 ミノンは突然、そんなことを話し始めた。


「もし行く先に迷ったのなら、君は“クロイモノ”とともに歩める道を選びなさい。どんな結果になろうと、それが君にとっての正解になる」

「・・・それなに?」

「うーん、正直私もよくわからないんだけど、父がしつこくこれを聞かせてくるから、私も復唱してた。それで・・・いつの間にか覚えちゃったの」


 何か、言い伝え的なものなのだろうか。


「でも私、『クロイモノ』っていうのがシヴァのことを指してるみたいって思ってて、これを唱えると、シヴァとならどんな結末になろうと生きていける気がするの」


 なんだか、羨ましい。背中合わせにお互い寄りかかっても、絶対にどちらも倒れることがないって確信できる関係が、羨ましいんだ。


 空を横目に、僕も彼女の言葉を復唱した。


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