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招かれた僕ら  作者: 蓮水 碧
17/46

起動 2

「・・・・・・ミノン?」


しばらくして、ミノンは体を震わせながらどうにか声を絞り出した。


「・・・・・・鍵が、外れたのよ・・・今ので・・・」


 そうか、今のが「ラピュアスの起動」だったんだ。

 言葉にして、ミノンは改めて現状を自覚したように、眉をしかめた。


鎖骨からは、また血が滴る。間違いない。あの瞬間にラピュアスが解放されたのだとしたら、その要因は彼女の血にある。


「ミノンの血が・・・?どうして・・・?」

「・・・わからない。何もわからない。何が起こったのかも、何で私だったのかも」


 ミノンは早口になって頭を抱えた。


「マコト・・・」


 ミノンが震える声で僕を呼んだ。

「私、勘違いしていたのかも知れない。ラピュアスは『莫大な力を動かすものだ』っていう父の言葉に、何も疑問を抱いてこなかった。でもこんな・・・こんな、光を奪っていくなんて」

「違う・・・ミノン」


 この時僕は気が付いていた。さっきまでいたはずの、蛇の影まで消えてしまっていたことに。

 ベランダからは僅かに星明かりが差し込んでいる。影を出すことは、今もまだできるはずなのだ。

でも――


「――ラピュアスは光を奪ったんじゃない。この街を覆ってた力を奪ったんだ。・・・ミノン、言ってただろ、この国は元々夜の地にあるって。魔法が解けた剥き出しの空がこれだよ。だから蛇の影も消えたんだ」

「・・・それじゃあ私、この街の幻能を全て・・・」


 そこまで言って、ミノンははっとしてその名を呼んだ。


「シヴァ!!」


 すると、床に薄らと広がるミノンの、()()()()からシヴァが現れて、部屋全体を包むように羽を広げた。その姿はいつもに増して黒く、彼女の戸惑いが現れたように激しく揺らいでいた。


 ミノンはシヴァが何事も無く現れたことに、驚いたみたいだ。


「・・・・・・どうして私だけ?」

「わからない。けど空を・・・空を戻さないと!」

「えぇ・・・・・・戻さないと。戻す・・・。でも、ラピュアスは消えてしまったわ。それに戻したところで私・・・きっと命だけじゃ償いきれない大罪よ・・・・・・」


 ミノンが涙をこぼして、それまでの彼女からは考えられぬ弱々しい泣き声で、肩を上下させたのだった。


 今、ミノンの中で彼女は独りだった。これまでもずっと、多分父親を亡くしてからずっと。シヴァさえ今は見えなくなっているみたいだった。

溜め込んでも、目を逸らしてきた苦悩が一気に溢れ出て、彼女の視界を奪ったんだ。

何も見えなくなって泣くミノンに、僕の心が重なって見えた気がした。


「ミノン!・・・・・・ミノン!」


 二回目でようやくミノンは気が付いた。


「忘れないで!ミノンには僕もシヴァもいる!その為にここに来たんだ。僕だけは何があっても味方でいるから・・・だから――」


 言い終える前に、ミノンはまた号泣した。さっきよりも大きな声を上げて。

けれど、今度はシヴァがはっきりと部屋を包み、揺らぐことはなかった。


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