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招かれた僕ら  作者: 蓮水 碧
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ラピュアス


「・・・王政が管理していたイニシアの中に、幻能に関する、ありとあらゆる能力を分け与える為の道具があるの」


 さっき空の上で少しだけ話したけど、イニシアというのは古代幻能者の間で使われていた、呪文の類いの言葉で「形持つ者」を意味するという。生物以外の物体に幻能が宿り、本来とは異なる形で力を発揮させることができる。それがイニシアだ。


僕も、まだはっきりとイメージが掴めた訳ではないけれど、それを使うことによって、一時的に“幻能を持つ者”と同じ部類の力が手に入る。そんな類いだろう。


「管理していたって・・・どうして過去形?」

「旧王から現在の新王に王政が引き継がれる時、従属の裏切りによって、一度その体制が崩れかけた時があったの。その隙を狙って、法の抜け道を突いたギリギリのルートで、イニシアが各町に散っていった」

「王は予期せぬところでイニシアを失ったってことか・・・」

「ええ。・・・こっちへ来て」


 部屋の中に僕を案内して、ミノンは卓上でトランクを開いた。


「それで、これがその内の一つ」

「・・・・・・え?」


 ミノンは荷物を詰めたトランクの底から、あの黄色い塊を取り出した。酒屋でやけに慎重に扱っていたものだ。

銀色の円盤が何本もそれに巻き付いていて、ミノンがトランクから取り出すなり、円盤は大きく膨張して回り始めたのだった。


「ラピュアスよ」


 その言葉と同時に、最外の円盤から鋭い棘が上下に向かって突き出した。その姿はまるで地球儀のようだ。ラピュアスと呼ばれたそれは、誰の手に触れることもなく、宙に浮いたままこの部屋の中でゆっくりと回り続けていたのだった。

あまりの神秘さに、僕がようやく「これ・・・なに?」と声を出せたのは、自然と息を止めて苦しくなった頃だった。


「・・・・・・だから、ラピュアス」


 ミノンは再度その名を呼ぶ。


「国の外も含めて、世界にたった五つしか存在していないの。王政がイニシアを管理していた時代にも、ラピュアスだけは二つしか集まっていなかったわ」

「そんな、希少で貴重なもの・・・どうしてミノンが持ってるの?」

「わからない。父が私に、最期に残したのがこれだったの。父はどう入手したのか。王政に無かった三つのラピュアスの一つがこれなのか、将又これは王政と絡むラピュアスなのか、何も分からない。ラピュアス自体についても、人の手によって作られたのか、この世界と共に生まれたのか、色々と不明だわ」

「それで・・・・・・」


 次の言葉が出てこなかった。何もかもが僕のいた世界と違いすぎて、身も心も追いついていない。


アルタさんに、もう少し説明した上で戸を開けてくれても良かったのに、なんて思っている自分もいる。

あの世界じゃ、「人助け」って言葉からは、怪我人の手助けだったり、誰かの代わりに労働力になったり、そういった事までしか想像できないから。


けど、きっとこの展開を知った上でも、あの時僕は扉をノックしていた。とにかく僕は、皆が知る僕から抜け出したかったのだから。


「ごめんなさいマコト。急にこんなの見せられて、戸惑うわよね・・・」

「まぁ、少し驚いてるけど」


実際は少しどころではなかった。


「でも良い。全然良いよ。これを見てワクワクしないなんて事は無いよ」

「なら、もっとワクワクする事を伝えるわ」


 ミノンとぱっちり視線が合った。


「私ね、このラピュアスを起動させたいの」


この時、僕は悟ったのだ。僕の見ていた世界より、ミノンが見ていた世界の方がずっと広くて、それが時に自分が見えなくなるくらいの広さなんだってことを。


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