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ひねもす亭は本日ものたり  作者: 所 花紅
賭場:夜明けの鳥

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149/194

本日、豪華二本立て!!

「うー、さぶ……」


 火鉢があちこちに置かれているとはいえ、神無月の終わりに褌一丁は寒い。

 二の腕を抱きしめるように擦りながら、丞幻は壁際にある横長の卓に腰かけた。

 傍に大きめの火鉢があり、空気はほんわりと温かいが懐は寒い。


「程々で止めるべきだったわー……帰り、矢凪のどてら一枚貰おうかしらん」


 賭け事は好きでも嫌いでもないが、一度始めると、どんどんのめり込んで、止まらなくなってしまう。それこそ有り金が尽きても、だ。

 それを十分に理解しているから、なるべく賭場に寄らないようにしていたのに。

 いや、だが今回は仕方ない。普通の丁半や花札ならともかく、見た事の無い珍しい賭け事――るーれっと、と言うらしい――だったのだから、ついつい手が出てしまうのは自然なことだ。そして手を出したなら、一回くらいは勝ちたいと思うのも自然なことだ。


「って、こーいう所が駄目なのよねー。……分かってんの、分かってたんだけどねえ」


 しかし我に返った時には、金は無くなっていたし着物も矢立も取られていた。なんとか褌とネタ帳は阻止したが。


「あーそうだ。いっそ真白ちゃんに送ってってもらおうかしら。瓢箪なら一瞬だし、寒くないし。まー、笑われるだろうけど」


 それも、思いっきり。腹を抱えて大爆笑だろう。

 ぼやきながら、通りかかった女中に酒を頼むと、すぐに運ばれてきた。代金は矢凪につけてもらった。

 熱燗を喉に流し込むと、すぐに身体が温まってくる。


「くそう……あそこで八の札がくりゃあなあ……」「ああ、分かる分かる。俺はよう、黒の七に張ってたんだが、隣に入っちまってなあー……」「相変わらず、空音(そらね)は良い声をしてるよなあ。おいらぁ、あの声に惚れこんじまってよう」「よせ、よせ。空音は大将に惚れてるってぇ話だ。お前みてな河豚面(ふぐづら)、相手にしてもらえるもんかい」「そういやあよ、白寿教(はくじゅきょう)ってえのが最近流行ってるらしいやね」「そりゃアタシも聞いた事があるよ、なんでも金を払えば、そいつの寿命を見てくれるって話しらしいね」


 長卓には何人かが腰かけ、思い思いにくつろぎながら話に花を咲かせている。

 同じくすってんてんになったのか、褌一丁で飲んでいた男が、丞幻に話しかけてきた。


「よお兄ちゃん、兄ちゃんはここの常連かい」

「いやあ、ワシは初めてよ。お宅さんは?」

「俺も初めてさあ。たまにゃあ、いつもの賭場じゃなく変わった所にしようと思ってよ? 有名な虎の大将の賭場ってなあ、どんなもんかと来てみたのよ」

「似たようなもんよ。ワシ、るーれっと、っていうのやったんだけど」

(おり)ゃ、()()()()、って奴だ。花札みてえな札によ、数字と模様が書いてあって、それで役を作るんだわ。これがまた面白くてよお」

「あー、そっちも面白そうだわね」


 ぽーかーにすれば良かっただろうか。花札に似てるならそこそこ勝てる。気がする。

 男が不意に長卓に置かれた小物を一つ、ひょいとつまんでけらけら笑った。


「なあなあ、兄ちゃん。大将も存外、不用心だよなあ。こんな高そうなモン、あちこちに置いてあんだぜ。盗まれたらどうすんだろうなあ」


 武骨な指には親指程の大きさの、小さな硝子細工がつままれていた。青みを帯びた硝子が象っているのは、(さめ)だ。

 うねる身体といい大きく開けた口といい、本物に勝るとも劣らない。この小ささで、この精巧さ。かなり値が張るものだろう。

 男の前には丸い金魚鉢が置かれ、そこから硝子の鮫を取り出したようだった。透明な鉢の中には他にも、硝子で作られた砂利や水草が配置されている。

 他にも、螺鈿(らでん)細工の盆に鮫が描かれているもの、鮫を咥えた熊の土人形、壁にかけられた鮫の手拭、壁の(くぼ)みに置かれた硝子筒の中で光る色とりどりの鉱石、壁に貼られた西極の言葉と絵が描かれた包み紙、色々な形をした鮫の人形。

 そういう小物達が客の邪魔にならず、目にうるさくない程度に店のあちこちに置かれている。


 ――しっかし、随分と鮫が多いわねー。夜明けの『()』じゃなくて、夜明けの『()』にした方がいいんじゃないの?


「なあ兄ちゃん、どうよ」

「なにがあ?」


 男は身体を丞幻に少し寄せ、酒臭い息と囁き声を吐いた。


「いやよ? こーんだけ色んなのがあんだ、ひとっつくれえ持って、売っぱらったってよ、ばれねえと思うんだわ。どうだい兄ちゃん、試してみねえか?」

「よした方がいいわよー。それで金ができても所詮は悪銭、身に付く前に消えちゃうし、余計な荷物だって背負う事になるわよ」

「なーに。身に付く前に、あぶくになって消えちまえばそれまでよ」

「そうなのか」


 役者ばりに艶のある声が、後ろからぶつかる。

 二人揃って振り返ると、きょとんとした顔の子虎が立っていた。男が「ぴぇっ」と妙な声を上げる。


「あっ、じ、じゃあ俺ぁこれで」


 やや乱暴に、金魚鉢の中に鮫を戻して、そそくさと男が立ち上がった。

 その背に、子虎が声をかける。


「あのな、あなた。明日、棒手振(ぼてふり)から茸を買わない方がいいぞ」


 そうしてへにょりと眉を下げ、


「ここにあるのは全部、俺の大事な宝物だから、差し上げるわけにはいかないんだ。さっきの鮫を売っているのは、辰児(たつじ)の不破町職人通りの、瑠璃花屋だから、欲しかったらそこに行ってみるといい。他にも動物や花なんかも作って売っているから。銀三枚くらいだったかな」


 と、続けた。


「へ、へへぇ」


 へどもどしながら、男が頭を下げ下げ込み合う人の中に逃げていく。

 それを見送った後、子虎は先ほどの男が腰かけていた椅子に座った。別の客達が、「よう大将」と声をかけるのに会釈を返している。

 丞幻は、ひそりと子虎に問いかけた。


「……さっきのお客、怒らなくていいんですか?」

「きらきらしているものを見て、魔が差す事なんて誰でもありますから。あの人も、本気で盗もうとは考えていないようでしたし。お酒が入って、ちょっと口が滑っただけですよ」


 柔らかい口調から、本気でそう思っている事が伝わってきた。

 人が好いのは結構なのだが、賭場を開くにはあまりにも人が好すぎないだろうか。誰も彼もが、行儀の良い客ばかりではないだろうに。

 矢凪の奴、一体どんな風に子育てしてたのかしらん。


「先生、見事にやられましたね」

「ええ。お宅のるーれっと、難しいですねえ。おかげで、ぜーんぶ剥ぎ取られちゃいましたよ。……ところで大将、矢凪を世話しているよしみで、ワシの着物を返してくれちゃったりとか、できないですかねえー?」

「できないです」


 ばっさり斬り捨てられた。

 丞幻は、がっくりと肩を落とす。


「そうなのー……できないのねー……まあしょうがないわよね……できれば単衣くらいは欲しいんだけどー……」

「あの、すみません。そうしたいのは山々なんですが。先生だけを贔屓してしまうと、他のお客様が泣いてしまうので。すみません」


 困ったように眉を下げつつ、やんわりと子虎は申し出を断った。

 泣き落としは失敗だわね、と丞幻は内心ぺろりと舌を出す。


「あの、そういえば先生、俺を取材したいんですか? さっき、ぱぱに聞きました」


 その言葉に、丞幻は矢凪の姿を人込みの中に探した。酒樽を六つほど積み上げ、酒をぐいぐい呷っている矢凪の姿を見つけた。周囲に酔い潰れた人々が倒れていた。

 見なかったことにして、丞幻は頷いた。


「ああそうそう、そうなんですよー。ちょっとだけお時間よろしいですか? いやもちろんね、大将が嫌がるようなことはお聞きしませんからね」

「はい、大丈夫ですよ」


 ネタ帳を開いて矢立が無いことに気づき、丞幻はしかめ面でネタ帳を閉じた。

 こほん、と咳払いを一つ。


「じゃあ早速。これ、一番聞きたかったんですが、矢凪とはどういうきっかけで親子になったんです?」

「ままが亡くなったので、ぱぱを頼ったんです」


 子虎は、事も無げに答えた。


「俺が生まれる前、色々と大変だったままを、たまたま助けてくれたのがぱぱなんだそうです。それで、もし自分に何かあったら、荒れ寺で飲んでるだろうぱぱを頼れ、とままに言われていました。五歳の時に、火事でままが亡くなって、それからは、ぱぱに育ててもらったんです」

「そうだったんですねえ。ちなみに、色々大変だった、というのはお聞きしても?」

「ええと、俺もその辺りは、ままからも、ぱぱからも、詳しく聞いていないので。……すみません」

「あっ、いいんですよ、別に! ワシもね、無理に答えてほしいなんて言いませんから。むしろ、言い辛いことを言わせてしまって申し訳ないです」


 しゅん、と項垂れる子虎に、丞幻は慌ててネタ帳をばたばた振った。

 湿っぽい話題から逃れるように、質問を変える。


「えーっと、うーん……矢凪と一緒に暮らしていて、一番大変だったことはあります?」


 むむむっ、と子虎が悪い夢を思いだすかのように、眉を寄せた。


「……酔っぱらったぱぱが、大嫌いなミツユビトビグモの子どもを口説き始めた時、ですね。それは、ぱぱの大嫌いな虫だと、何度言っても聞いてくれないし、口づけを交わそうとするし、酔いが覚めた後に発狂して自害しようとするのを止めるのが、とっても大変でした」

「ぶっふぉ」


 ミツユビトビグモの幼虫を見つめ、熱っぽく口説く矢凪を想像して、丞幻は噴き出した。卓に突っ伏し、ばんばんと手のひらで叩く。


「んっふふふふふふ! ミツユビトビグモくどっ、口説くって……! 口づけって……!! 小雪にばれたら殺されるわよあいつ……! んふふふふふふ!」

「とても大変でした」


 不機嫌そうに眉をぎゅうっと寄せて、子虎は大きく頷いた。

 丞幻は質問を重ねる。


「大将は、鮫がお好きなんですね」


 猫のような瞳がきらきらと輝いた。勢い込むように、何度も首が縦に振られる。


「はい、大好きです。本当はここも、鮫と名前を付けたかったんですが、『大将、大将、鮫って付けると完全に客を食う気満々で待ち構えてる感じで、客が敬遠するからやめよ? ね、ね?』って反対されたので止めました」

「ワシは鮫って名前でも良いと思うんですよねー。――大将はおいくつですか?」

「今年で二十一になります」


 思っていたより若い。二十五、六くらいかと予想していた。


「その若さで、馬走の顔って呼ばれて、賭場を開いているなんて凄いですねえ」


 心底感心してそう言うと、ううん、と子虎は少し顔をしかめた。


「あの、先生。俺の方が年下なので、そう丁寧にしなくても大丈夫ですよ。そう丁寧にされると、俺が偉くなったみたいで、なんだか恥ずかしいです」

「あー、分かったわあ。じゃあこんな感じで。でも実際、馬走の顔なんだから偉いんじゃなくて?」

「そんな事ないです」


 桃色がかった金色の髪を揺らして、子虎はふるりと首を横に振った。


「元々、馬走の顔と呼ばれていた人は別にいたんです。ただその人が、当時の勘定(かんじょう)組頭様と一緒になって、悪いことをしていたので、ちょっと話し合いをしたんです。それで、その人が罪を認めて捕まってから、俺が馬走の顔と呼ばれるようになりました」


 勘定組頭と馬走と聞いて、丞幻の頭に閃くものがあった。

 ずい、と身を乗り出して、子虎に迫る。


「確かそれってあれかしら、五年くらいにあった奴? もしかしなくても、泥桜事件? え、嘘でしょ、あの当事者だったの、大将」

「そうです、それです」


 子虎がうんうん頷く。

 五年前。当時の勘定組頭、桜田定五郎が馬走一の賭場主、篠草惣佐(しのくさそうざ)を抱き込み、『泥翡翠』を流していた事件があった。

『泥翡翠』は、表面は乾いた泥のような色だが、砕くと艶やかな緑が顔を出す鉱物だ。これをして泥翡翠と名付けられた。

 泥翡翠は普通の翡翠と違い、細かく砕いたものを火に入れれば、うっすらと緑に色づく煙が立ち上るのだ。これを吸うと頭がすっきりとし、得も言われぬ多幸感を感じる。

 それだけならいいのだが、泥翡翠を一度吸うと、またそれを嗅ぎたくて仕方無くなる。二度、三度と使う間に、その症状はどんどんひどくなり、吸っていない時は頭痛や幻覚、手足の震えに襲われるようになる。泥翡翠を求めるが為に、犯罪行為に手を染める者が後を絶たなかった。

 それが故に、百年も昔にお上によって所持も使用も禁止されたご禁制の物である。

 定五郎は惣佐と手を組み、その泥翡翠を高値で売り払っていた。惣佐は裏の世界にも顔が利く。彼を通じて泥翡翠を裏に流通させ、私腹をぶくぶくと肥やしていた。

 唐突に惣佐の賭場がぺしゃんこに潰れ、店の前で腰を抜かして怯え震えた惣佐と店の連中が、おっとり刀で駆けつけた同心達に罪を告白するまでは、そのような闇が馬走には巣食っていたのだ。

 首謀者である桜田定五郎は縄目を受け、厳しく罰せられた。

 この一連の事件を、泥翡翠の「泥」、定五郎の名字「桜田」から「桜」を取って「泥桜事件」と呼ぶのである。

 閑話休題。


「成程ねえ、大将は泥桜事件の当時者だったのねー。ふむふむ、馬走の顔と呼ばれていた篠草惣佐が悪事を働いていた事に大将は気づいて、それを止めようと話し合いを?」

「はい。その悪だくみに、俺の友の知り合いが巻き込まれてしまったんです。それで何とか、悪いことを止めてもらおうと思って、話し合いに行きました」

「いやいや、話し合いで何とかなるような連中じゃないでしょー。下手すりゃ、その場で始末されてもおかしくなかったってのに、よくまあ話し合いだけで済んで、しかも相手は罪を認めて」


 と、言いかけて丞幻はふと首を捻った。


「……そういえば、どうして店がぺしゃんこになったの?」


 ぎくり。

 そんな音が聞こえた気がするほど分かりやすく、子虎の表情が固まった。


「……ええ、と。あの……それは……うぅ…………」


 頬を冷や汗が流れて、金色の目が所在なさげにうろうろ彷徨う。

 もんの凄く動揺してるわ、と丞幻が思っていると、卓に座っている他の客が口を挟んで来た。


「そりゃあさァ、お(あに)いさん。大将の仕業さァ」

「あっ、しぃっ!」


 慌てた子虎が客に手を伸ばした。その手を鰻のようにぬるりと躱し、客は丞幻の傍に来ると、肩を組んで顔を近づける。


「俺ゃ、その時近場にいたから知ってんだ。大将はなァ、そりゃ最初は真面目に話し合いをしてたさァ。悪いことはどうぞ止めてください。その因果はいずれ自分に回ってきますってなァ。でもよ、お兄いさん。腹ン中どころか身体中真っ黒な連中に、そんなが通じるもんかい。案の定奴らァ、大将をちょいッと(ひね)ろうとしゃーがったのよ」


 男の舌は、油でも塗ったように滑らかだ。

 丞幻は、わくわくと続きを促した。


「そうよねそうよね。悪党なら普通は、自分の悪事を知ってるって言ってきた小僧一人、ちょいと始末しようとするわよねえ。それで?」

「そうさ。しかも当時大将は、馬走で困った時に助けてくれる親切な御仁だって、そこそこ目立っちゃいたがよ、所詮はそれだけの小僧っ子。住んでる所も荒れ寺で、後ろ盾があるわけじゃなし。無謀な正義感に駆られた、馬鹿な小僧だと思ったんだろうさね」

「ふんふん」

「だがよ、そこは俺らの大将よ。始末しようと後ろから襲ってきた奴らを、こう、座ったまンまで、のしちまってよ、『こういう乱暴な事は止めてください。俺は、あなたとお話に来たんです』と、まァこうよ。それでまァ、向こうさんも奥の手ェ出してきやがった」

「奥の手。いよいよ佳境に入ってきたわね」

「おうともさ。そこはホレ、向こうも馬走の顔と呼ばれるだけのことはあって、手下は大勢。しかも奴らァ、大将といつもつるんで回ってた連中を人質に取りやがったのさ。縄でぐるっぐるにした人質を大将の目の前に突き出してよ、匕首(あいくち)を首に押し当てて、凄んだ。『そっから一歩でも動いてみゃーがれ、こいつらの命は無ぇぞっ』ってなァ」


 子虎が顔色を青くしたり赤くしたりしながら、「あの」「その辺で」と男を止めようとする。


「大将大将、今は大将の武勇伝を聞いてんだから。大将はほれ、海ぜりいでも食って()()()にしといてくれや」「ほれ大将、金平糖だぞー、甘いぞー」


 だがその度に、周囲の客から次々と甘味を口に突っ込まれていた。

 男の語りはいよいよ熱を帯びる。


「そこで、大将の堪忍袋の緒が切れちまったのさ。言われた通りその場から動かねえままに、さっきのした奴の胸倉をこう、がしっと掴んで持ち上げてよ、そのまんま相手に向かってぶん投げやがった。しかも右手に一人、左手に一人ってェ寸法よ」

「はぁー、そら大した剛力ねえ」

「おう。そんで向こうが慌ててるうちに、人質に逃げられてな。そっからはもう、大将の独り舞台よ。襲い来る連中を、千切っては投げ千切っては投げ。最後にゃァ、(うずくま)って命乞いする親玉が背にした大黒柱を、蹴り崩しやがった。ぶっとい大黒柱が見事真っ二つになって、賭場はぺっちゃんこになっちまったわけだ。だが何が凄いってよォ、大将は誰一人として殺しちゃいねェのさ。賭場が崩れる前に親玉も外に蹴り転がし、千切っては投げられた連中も怪我はしたが、命に関わるモンじゃあなかった。――マ、そんな事があってからよ、大将が次の馬走の顔だってェ事になったのさ」


 身振り手振りも大仰に、噺家ばりに熱弁をふるった男が、話を結ぶ。丞幻はそれに思わず拍手をしながら、思った。

 最終的に暴力で解決しちゃう辺り、血は繋がってなくても、やっぱり矢凪の息子だわ。

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