001冒険の幕開け
「アランー!!」
友達に呼ばれ、僕は椅子から飛び上がった。机には「サグリニア王家の系図と教皇陛下のご関係」と題された本があった。古びた本である。両親はザルハルッアン大陸を追われた時でもこの本を護ったらしい。僕にはわからなかった。なぜこんな本を護るのか。古くなってコーヒーの染みた様な紙で、妙に臭い。古紙とは違った、何か変わった匂いのする本の読破を、両親は急に迫ってきた。
「おーい!!リザインー!ヘルマー!!」
僕は窓から大きな声で答えた。下には木の枝に白い布の切れ端を括り付けた簡素な旗を振る二人がいた。
「ちょっと待っててー!!」
僕はそう答えると、急いで肩掛けの鞄と手元にあったナイフを持ってヘアを飛び出した。
「あら、どこに行くの?」
母が訪ねた。
「リザ達と遊んで来る~」
乗り気に答える僕を、母は止めなかった。
「そうなのね、気を付けていってくるのよ~。それと、帰りに市場で卵を買って来て頂戴」
僕に2ルフォン*¹を渡しながら言った。
「はーい」
僕は流れる様に答え、ルフォン硬貨を受け取ると、素早く階段を下り、扉を開けた。
「おそいー!!」
リザ(アランがリザインを呼ぶときの愛称)達はふざけながらそういうと、アランを連れて島の中央に向かった。
この島は最近発見された島だ。僕の父が12年前にサザルカの町にいる時見つけたらしい。この話をする時父はいつも得意げに語る。何やらサグリニアの伯爵から援助してもらっただとか、あの名高いサルーザニア航海調査団の特任団長だったとか...。でも僕に関係あるのは、僕たちが名誉市民として税の納付が免除されていることぐらいしかない。
「アランの父ちゃんも適当だよな~」ヘル(アランがヘルマーを呼ぶ時の愛称)が僕に言う
「だってさ~、せっかく探検したなら森の奥も見ろよな~」
この島はまだ未開拓の部分が多い、今向かっている森もその一つだ。
「まぁなぁ~でもしょうがなくね?この島も最近できたばっかなんだろ?(笑)」
アランは微笑みながらヘルに答えた。
「あの噂~、あれホントだと思ってるの?(笑)」
ヘルはニヤニヤしながら僕に言う。
この島は12年前突如として現れた。以前はこの島があったところを貿易船が行きかっていたそうだ。でも僕たちが生まれたころにはもう在った島だし、物心ついたのもこの島だからどうしても信じる事の出来ない噂であった。
「一応本当なんじゃないの~?」
アランはそんな話をしながら、森の奥へ進んでいった。
ピカッ
急に光が彼らを包み込んだ。「太陽の光か...?」
いや、それにしては少し違う...
あれは何だ??
そんな疑問が刹那のうちに彼らの脳裏に浮かんでは消えてを繰り返す。
不思議なことに、彼らは自分の考えていない疑問を感じ、答えの出ていない疑問の答えが脳裏に浮かんだ。まるで、三人の脳みそが合体したかの様に。各々が、いつもと違う頭の巡りを感じていた。
???「あれ!?どうなってるんだ???」
???「どうなってるの???」
見知らぬ声が脳裏に響いた。頭が割れる様に痛い。リザやヘルを見れば、その痛みを感じているのが僕だけでないことは明らかだった。そして、脳裏に響くその声とは別の考えが伝わる。
「アランは大丈夫かな?」「僕は大丈夫だよ」「みんなは?」「大丈夫そう」
言葉として発してもいないのに相手に伝えて、納得してもらえたあとの様な安心感がする。そして、自分のことを理解してくれているような安心感もあった。
???「ダイ・エスティプ・ターテム・ナーバム」
これが脳裏に響いた後、僕たちは気を失った。
「大丈夫??」
心配そうに声をかけるヘルが僕を揺さぶっていた。
「うん...大丈夫そう...。」
僕は答えた。
リザは興奮気味に言う。
「アラン!ヘル!!さっき俺たち同じこと考えてたよな??ってか考えてることが言わずとも伝わりあってたよな!??」
ヘル・アラン「そうだよな!?!?」真剣そうだが、すこし楽し気に言う。
リザ「まだシンクロしてるのかよ!?」冗談交じりにリザが言う。
ヘル・アラン・リザ「んなわけねーよな!!」全員がこれ以上ないような笑い声をあげ、興奮気味に言い合った。
「ところで、ダイ・エスティプ・ターテム・ナーバム」って何だったんだろな?アランがふと言った。
すると思いがけない言葉が返ってきた
ヘル・リザ「何言ってんの??」