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武道家フェイ

 ――鍛冶区画で決闘が開始されたと聞いたのはそんなある日のことだった。


  エステルの方に連絡して、すぐに現場へと向かう。


  何故に今更決闘騒ぎか? レンリがよそ者だから良く思われていないのだろうか?


 魔剣鍛冶士レンリは、薬やメルフィのみごとなアッパーカットで失神後、魔王城にとらわれるも、腕を認められて、メルティーナの配下へと加わる。


 公式の筋書きで派そんな感じである。

 だが、急な女王陛下の気まぐれをよく思わない者は多い。

 その上だだの薬やに一撃でノックダウンされたとあっては、その実力を疑問視する声も多かった。


 彼の実力を試そうとする者、あるいはメルティーナの配下へ下った彼をよく思わない者はそれなりの数がいる。


 Aランクの実力を持つ彼がそれらの輩に後れを取ることは正直言ってないだろう?

 だが、あまり城下町で暴れられると困ってしまうという都合もあるのだった。


 そうして、鍛冶区画へ行くと――既に戦いはレンリ本人の要望で中央区画へと移ったのだと知って、また急ぎ戻る。

 鍛冶区画では、数人がダウンしていたものの、周りへの被害はなく、しびれを切らせた。

 挑戦者達が、こぞって集まってしまったために、広い中央区画へと移ったのだとか?


 良くない経済状態が長く続いたことは半端な腕自慢が多いこの町ではひとたび騒ぎが起きると野次馬のごとく挑戦者が現れるという。


 城下町中央区画につく頃には挑戦者の3分の一が既に倒された後だった。

 

 ひときわ目立つ人だかりに混ざると、そこでは確かにレンリが戦っている。


 既に挑戦者側は劣勢なようで、大部分が青い顔をして後ずさっている。

 ただの薬やにノックダウンされたからには弱いと当て込んで挑戦した側の多くは、彼が一流の戦士だとわかるや大半がただの野次馬と化していた。


「まずいな、これでは勝てない。 用心棒だ、先生を呼べ――!」


 エルフの鋭い聴覚には野次馬の中でも、そんな声を見逃さなかった。

 まず間違いなく、魔王軍残党派の男が、やきもきしながら、勝負の行く末を見守っていた。


 しびれを切らした彼はついにカードを切ったらしく、用心棒とか物騒な単語が聞こえてくる。

 この町はよそ者には閉鎖的ではあっても、諸外国から訪れる旅人も多く、その中には歴戦の強者もいるのかもしれない? だが、基本的にこのあたりにいる冒険者等は良くてBランクそこらであり、レンリの優勢は動かない――はずだった。


 現れた人物に声を失ったのは私の方だった――


 私の知る限り現役の勇者パーティのメンバーである。

武道家――フェイがそこには佇んでいた。


 そこでひときわに隠蔽魔力を強くして、姿を隠す。 彼は野生の勘が鋭いタイプだ。

顔見知りだというのもある。

 今の変わり果てている私を見て、英智の魔女メルフィだと、

 わかるはずもないのだが、ここは用心に越したことはないだろう。


「先生ここはお一つ手合わせお願いします」


「ふん、歴戦の強者が相手だと言うから、どの程度の者かと思えば鍛治士崩れとな」


 魔剣鍛冶士レンリの知名度はそれなりではある。が、相手は勇者PTの一員である。

知名度で言えばレンリは遙かにマイナーなのだった。


 むしろ鍛冶師としてのと名が売れているレンリには、正式な戦闘要員としてのイメージは薄いのだろう。


 私も実際に会うまでAランクだとは知らなかったぐらいなので、魔眼の能力がない武道家フェイには目の前にいる鍛治氏は強くてもBランク程度のものだと思っているに違いない?


 だが、フェイにはリディアと同じタイプの野生の勘スキルがあるために、早くも表情が変わった。


「むっ、強いな…… ここまでの者とは知らなかったぞ、何故勇者PTに志願しなかった?」


「はっ、勇者PTだって? 知ったことじゃないね。 俺は俺のためだけに強くなっただけだ。

 世の中を変えたいとかそう言った大望は持ち合わせてないね。幸い鍛冶技能で食うには困らなかったからな。 だいたい世界中を旅する勇者様達とどこで出会えたって言うんだ!?」


「勇者PTはすばらしいところだぞ、名声、財宝は思いのままに手に入る。

 腕だって磨ける。 貴様見たところ呪い付きだな。何に付かれている!?

 そういった呪いだって、伝説のアーティファクトが手に入れば、直せる可能性があるんだぞ!」


「信じられないね。 俺の呪いは特別製でな。切っても切れない縁ってやつだ。

 毒にも薬のもなるタイプの変わり種でな。 魔剣鍛冶師の通り名伊達じゃねえぜ。

 この呪いがあるから、俺は魔剣を作れる」


「ふむ、呪い使いか、ならば何も言うまい、そういった輩はいつかは自ら身を滅ぼす……

 ならば、遅かれ速かれ、ここで倒れたとしても文句は言うまい?」



「そういうアンタは何故ここにいる。 勇者PT随一の武道家アタッカー、魔獣殺しのフェイといえば、アンタのことだな? 今、流行りの追放ってヤツのでもあったか?」


「むう、そういうわけではないのだが、こちらにも事情があってな。 ここで話すことではない。 今は自身の心配をするが良い。 私は手加減はせぬぞ! 負ければ勇者PTの名折れ――引くことも、倒れることも我が拳にはない――!」


 瞬間膨れ上がる力は間違いなく本物で、互いにAランクの実力者、どっちが勝ってもおかしくはない勝負に思えた。


えーっと、次回ラストバトルとか書いたけど、結構ここから長いです。

 一話庭で終わる感じじゃないので、まあ、覚悟だけでもお願いです。

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