9話 勇者だけど…仲間に嫉妬してしまう。
僕たちのパーティーは山頂の神殿に到着した。
神殿内は強力な結界が張られていて、モンスターは近づけない。神殿内には神官たちと、護衛のための戦士が数名いる。
神殿は僕たちを歓迎してくれた。
数日、旅の疲れを癒やし明日には出発する。
モンスターと戦闘せずに下山ができるルートがあるとのことである。結界の関係で山を降りるときにしか使えないらしいが、とても助かる。
「全員あつまってくれ。」
リーダーが言った。パーティーメンバーが全員神殿の広場に集まった。
「この度は皆の頑張りにより、ここまでたどりつくことができた。だが本当の目的はこれからだ。承知の通り、レッドドラゴン討伐が今回の最終目的だ。そのためのアイテムと武器をこの神殿から借りることができた。」
いよいよ、最後の戦いだ。
みなの表情も引き締まる。
「まずは、炎耐性の護符だ、全員分用意してある。ドラゴンの炎攻撃のダメージを大きく減らすことができる。今から配るので、各自で管理してくれ。」
リーダーがそういうとジョニーが皆に護符を配る。なんでこいつが配るんだ、お前関係ないだろう、でしゃばるなよ。
ジョニーとは目をあわせないようにして青い布でできた護符を受け取った。護符はひんやりしていた。
「それから、レッドドラゴン特攻の剣をお借りできることになった。ドラゴンキラーとアイスソードだ。どちらも大変貴重なものだ。ちなみにドラゴンキラーは私が使用させてもらう。」
まあそうだろうな、なんたかんだ一番強いし。アイスソードは…モンスター討伐の実力から言ったら、もしかして僕かな……
「それから、アイスソードは、ジョニーに使ってもらうことにする。
他のみんなには特殊武器は用意できなかったが、おのおのの武器で戦ってほしい。
以上だ。解散。」
集会は終了、ジョニーは仲のいいメンバーと得意げに話あっている。
アイスソードといえばレジェンド級の武器だ、ドラゴンと戦うならそれぐらいの準備は必要だろう。しかし……
え !ジョニー?なんであいつなんだ。別に僕が使いたい訳じゃないんだけど、よりによってあいつかよ。
何とも言えない嫌な気分になった
僕は炎耐性の護符を片手にふらふらと、集まりから離れていった。
一瞬リーダーと目があったが特に言葉はなかった。
ジョニーのやつが、あいつが実質ナンバー2なのか。僕がなりたい訳じゃないんだ、そんな役目、柄でもないし、面倒なことはしたくないし。このパーティーだっていずれ辞めてやろうと思っているんだから。でも、ジョニーはないだろう。リーダーと仲が良いからだろうか、他に理由は考えられない。厳しい戦闘中でもいつも中途半端な位置で戦って、自分で先頭にはたたないし、剣の実力だって僕やマーカスさんの方が上だと思う。
(ちなみにマーカスさんは僕と同じ戦士の方である。)
なんだか納得いかない、いや決してうらやましいとか、そんなことではなくて…
「いよいよ最終決戦だね。何か一人ごとを言っていたけど、心配ごと?」
ケンジさんだった。相変わらず爽やかな声だ。
「ああケンジさん。いや別になんでもないんです。」
「いいから、話してみてよ。」
「はい。」
僕はさっきまで考えていたことを話した、多少カッコつけて。
「…だから僕は、チームのためを考えると、ジョニーがアイスソードを使うのはあまり賛成できないっていうか。」
「そうか、納得できないんだね。
それじゃあ、賢者の道に意見をきいてようか?」
そういうとケンジさんは、なめらかな平たい板を取り出す。
いとつもの通り、表面をなでたり、指先でたたいたりしている。
「カイトはそうは言わないけど、嫉妬しているんじゃないかな?」
「違いますよ!そんなんじゃないですって。」
「人間なんだから嫉妬ぐらいするよ。私だってしょっちゅうしているし。」
「だから違いますよ、僕は、別に羨ましいとかないですから。そういうことを考える性格じゃないんですよ。」
「賢者の道のお導きによると、嫉妬の感情っていうのは、必ずしも悪いものではないようだよ。」
「はあ、でもそんなわけでは。」
そう、ジョニーなんかに嫉妬なんかするもんか。全然うらやましくなんかないんだ。
「まあまあ、ちょっと聞いてみてよ。」
まあ、聞くだけなら
「前も話したけど一般的に悪いと言われている感情でも、全て悪い訳ではないんだよ。捉え方次第でいいものに変える事ができる。嫉妬もおなじなんだ。」
「そうですか、ねえ。」
「嫉妬の感情は自分が必要としているものを教えてくれる。その感情を受け入れて、足りないものを手に入れる努力をするんだ。」
「僕がアイスソードを使いたかったってことですか。」
「それは表面的なことで。実際はたとえば、日頃の頑張りや、自分の実力を認めてほしかったとか。」
そんなことは…ないかな…
まあ多少は。
「欲望なんて誰にでもあるものさ。そういうものと割り切って、良い行動の動機にするのがいいんじゃあないかな。」
「はあ、なるほど。」
「なぜそう感じたのか、どこにそう感じたのかを書き出すのもいいね。客観的に見られる。」
認めたくないが、嫉妬しているのだろうか。
ジョニーなんかに僕が?
「それと重要なことだけど、嫉妬の対象を叩くと自分にもダメージがある。自分が本当に求めているものを無価値にしてしまう行為になるからね。それに成功した人を祝えないと、周りが成功できない人ばかりになってしまうよ。」
「それは、まあ、嫌ですね。」
「そうだろう、感情を素直に受け入れた上で、足りないものを手に入れる努力をしよう。」
「そうですね、嫉妬しているのかなあ。
あまり認めたくはないですが、しかたないですね…」
僕がそう言うと、ケンジさんは少し笑った。
一人で少し考えてみる。
生意気でバカで、お調子もので、嫌な奴だけど、あいつだってここまで、命がけで戦ってきたんたよなあ。それが認められたってことだ。まあいいさ。悔しいけど…今回はおめでとうジョニー…
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