8話 勇者だけど…人と話すのが苦手なんです
僕たちのパーティーは険しい岩山を上っている。
伝説の武器と、聖なるアイテムを手に入れるため、山頂にある神殿を目指す。
「しっかし、なんでこんなアクセスの悪い所に、そんな大事なものを保管してるんすかね。」
魔法剣士のジョニーが誰にいうとでもなく話している。生意気でお調子もの。あまり好きなタイプではない。
僕はもちろん返事はしないが、
他の皆も疲れているのか誰も相手にしない。
「昔はここは聖なる山でモンスターは近づけなかったんだよ。魔物大戦でここの結界も破壊されてしまったんだ。」
ケンジさんが答えた、優しいなあ。
岩ばかりの山道。登山道はあるにはあるのだが整備されていないので、ところどころ途切れていて歩きにくい。それにモンスターとの遭遇が多すぎる。
モンスターを倒しながらの登山は正直しんどい。みんなヘトヘトだ。回復アイテムもこころもとないし、出直した方がいいとも思うが……
「よし、休憩にしよう。」
リーダーがそういうと、全員その場にへたりこんだ。
「一休みしたらキャンプの準備だ、モンスターが多いので強めの結界が必要だろう。マーナ頼んだぞ。」
「ふぁい、がんばります」
僧侶のマーナさん、優秀なのだが体力がない。
「おいカイトちょっと来てくれ。」
なんだろう、リーダーに呼ばれて良かったことなんて一度もない。
警戒しながらリーダーに近づく。
「思ったよりも厳しいな。山道は険しいし、モンスターも強力だ。」
「そうですね。」
「このまま山頂を目指すか、一旦引き返すか。カイトはどう思う?」
怒られるわけじゃないのか、めずらしい。
でもこういうの話すの苦手なんだよなあ。
正直くたくたで、引き返したい。けれども、はっきり言うのも気が引けるよなあ。どうしよう。
「かなりきついですが、その、全然だめではないですけど、えーと、やはり平地よりも強いモンスターが集まってるのかな、なんて感じですね、はい…」
「そうか、先の予定もあるし、出来ればこのまま進みたいんだがな。どうしたものか。」
「行けないことはないと思いますが、回復アイテムが心もとないです。思ったより敵が強くてその、ポーションなどかなり使用している状況です、はい…」
「そうだな、途中でアイテムがなくなったら目も当てられないよな。それはそうと…」
「そうですよね、僕も回復ポーションはほとんど残ってなくて、回復魔法でなんとかなればいいんですが。」
「エンカウントが多いからな。アイテムはギリギ持つかどうかだろう。」
「いや、このベースではまず持たないですよ。」
「うーん、そこは戦いかた次第じゃないか。遠距離攻撃をメインにして、ダメージを受けにくくするなど方法はあるだろう。」
「硬い敵が多いので、その戦い方は時間がかかってしまい、かえってダメージが増えるかもしれませんよ。」
「例えばの話しだよ。戦いかたをどうするか。カイトもだいぶ苦戦していたようだな。それで…」
「はい、すいません。いや、全力でやってはいるんですけども、ゴーレム系ですか、そのかなり硬い奴が混じっていて。やっぱり、そうですね、体力も高く防御力もその非常にたかいといいますか。それに魔法が効かない敵が多いので、補助魔法や回復魔法を多用してもらうか、でも弱体化は聞きそうですよね、それもためしてもらったほうがいいですかね。そうですね、あとはすこし考えたのがですね、その…」
「いや、それはこっちもわかっているからさ、それでだな…俺の考えでは…」
「はい、そうですよね。うまく噛み合っていないというか、いや回りが悪いって訳じゃないんですよ、僕も悪いところがあると思いますし、なんとか連携しようとおもうんですが、でもですね、ジョニーにも言ったんですが、そのですね…」
「おい、お前さあ。」
リーダーが話に割って入った。不機嫌な感じだが、急になんだろう…
変なこと言っただろうか……
「人の話はちゃんと聴いた方がいいぞ。」
「はい、すいません聴いてるつもりだったんですが。」
「それにさっきからいい加減なことばかり言って。」
「あ、はい、すいません気をつけます。」
「おう、もう戻っていいぞ。もっとしっかりしろよ。」
なんだかよくわからないが怒られてしまった。なんなんだよ。
意見を聞きたいと言われたから、がんばって話したのに。何か変なこと言ったかな。気になる。
どこが悪かったのか、言い回し?やっぱり、進もうって言ったほうが良かったのか…
うーん、わからない…
「やあ、大丈夫?」
ケンジさんだった。この状況でも全く疲れた様子がみえない。相変わらず爽やかだ。
「いや実は…」
あらましをケンジさんに話した。
「そうだったんだ。リーダーから相談をされたのに、うまく答えられなかったんだね。
それでは、賢者の道にどうすればよかったかお尋ねするとしようか。」
そう言うと、ケンジさんは腰から下げたカバンから薄い板を取り出す。板は全体的にとてもなめらかだ。表面を撫で回している。
「カイトはリーダーに話を聴いてていないと言われたんだよね。」
「そうです。しっかりと聴いていたんですけど。」
「リーダーは、そう感じなかったのかもしれないね。傾聴を行うようにとの賢者の道のお答えだよ。」
「傾聴ですか…それは僕でも知ってますよ。自分の話ばかりしないで人の話を聴きましょうってやつですよね。
そもそも僕は自分の話なんてあんまりしないですし。」
「はたしてそうかな。」
「はい?できていないんですか?」
「傾聴で一番大切なことは…」
低めのトーンでケンジさんは話す。
「相手の話を聞くときに、口出ししたり、反論したり、評価したりせず、ただ聴くことなんだ。カイトはできていたかな?」
「できていたと思いますけど、どうでしょう。そう言われると…」
「自分が話すことに一生懸命になって相手の話を最後まで聞かなかったり、遮ったりするのは一番やってはいけないんだよ。」
「言われてみれば、そんなところもあったような…」
「リーダーがカイトの意見を聴きたい、というのは嘘ではないんだと思う。ただそれ以上に人間って自分の話を聞いてほしいんだよ。人に話すことで考えがまとまることもあるしね。」
「そうですか。」
「今回は本当にそれだけ、今言ったことを気を付けて話を聴くだけでよかったんだと思うよ。もちろん話を聞いた後は、自分の意見を言う。手短にね。」
「それだけでよかったんですか。」
「そう、ただ意識しないとどうしても途中で意見をはさみたくなったり、頭の中で反論したりしてしまうものなんだ。
頭の中ででも反論しながら聞いていると相手には伝わってしまうから気をつけて。
これだけだと何なので、少しコツを。
まずは短く定期的にうなずくこと」
「はい。」
「そうそう、ちゃんと聞いてるかどうかわかるからね。あとは短くまとめるのもいい。この理解であってますか?と確認するんだ。そうすると話し手は伝わってると感じて満足感が生まれる。」
「なるほど、そうしていればよかったんですかね。」
「そうだね、もっといい雰囲気になっただろうね。後は細かいことだけど、最後に話した内容を繰り返すというのも意外と効果があるんだ。」
「繰り返すんですね。」
「そうそう、できるじゃないか。そういう合いの手が入ると話やすくなるし、聞き手に対して信頼かんが増すんだ。」
「なるほど。」
「すこし難しいけど、感情を言葉にするのも効果がある。例えば、リーダーが先を急ぎたいと話をしたら、『周りに期待には答えたいですよね。』のように、おそらくこういう思いだろうというのを言葉にしてみる。」
「わかりました、でも、そこまでしないといけないんですかね。」
「面倒に感じるかもしれないけど、仲間や友人に信頼されるというのは自分の利益だと思わないかい。」
「そう言われれば、そうですね。」
「自分の為だと思って、やってみるといいよ。」
「はい、いつもありがとうございます。」
未知のモンスターとの戦いかたを学んだような気分。なんだか気持ちがか軽くなった。
「おいカイトちょっといいか。」
リーダーからまた呼ばれた。
リーダーの所へ足早に向かう。
さあ来い、もう怖くないぞ。