勇者だけど…自分に自信が持てない。
僕の名前はカイト、戦士である。
今は船旅の途中、目の前は青く広い海。
僕達は失われた都市レムナンへ向かう。
ドラゴンを倒すために。
「カイト、ちょっとこい。」
モンスターとの戦闘が終了して一休みしているところ
リーダーから呼ばれる。
あの話だろうなあ。気が重い。
遡ること、数時間前。
この平和な船上は戦場だったのだ。
その戦闘で、まあ、へまをやらかしたのだった。
「おまえさあ。なんで俺の言う通りに動かないの。」
「いや、すいません。」
「すいませんじゃなくてさあ。理由をきいてるんだよ。」
うげ、面倒くさいこといいだした。
「正直、指示を勘違いしたというか。先にネクロマンサーを倒すのかと……」
幽霊船に襲われたのだ。難破船に悪霊が取り付いたらしく。多くのゴーストと、それを操るネクロマンサーとの戦いになった。
後衛にネクロマンサー、前衛にはゴーストがたくさん。
僕は、すきを突いて後衛のネクロマンサーに攻撃を仕掛けたが、倒すことかてきず…僕が前に出過ぎたことで、前衛が崩れ大混乱になったのだった。最終的には勝てたから、いいじゃないかとも思うのですが…
「持ち場を離れてどうするんだよ!おかげで俺まで前列でゴーストの対応だよ。俺が手一杯だと指示出せる人間がいなくなるんだよ。」
「はあ。」
「はあじゃねえよ!」
怒鳴られた。
「ケンジさんが前衛に入ってくれてからなんとかなったけど。本当に注意しろよ。」
「はい、申し訳ございません。」
「もういいよ、戻って。」
また怒られた。日頃ケンジさんから色々アドバイスをもらっているけど、全然成長しない。
甲板から海を眺める、嵐はすぎて穏やかな海。
あの時はリーダーから指示があったた気がしたんだよなあ。ただの勘違いかもしれないけど。
「おーい。」
いつのまにか、
隣にケンジさんが立っていた。
「ケンジさん、どうも。」
「ずっと横にいたんだけど全然気づかないから心配したよ。大丈夫?」
「はい、僕のミスで、本当にすいません。」
「よくあることだよ。あまり気にしないほうが良いよ。」
「はあ…そうですね…」
「そう言ってすぐに立ち直れぱ、苦労はないよね。」
そう言いながらケンジさんは鞄から薄いガラス板をとりだす。秘密のアイテム賢者の道。異世界の賢者の知恵の結晶。
「それでは、賢者の道のご意見を伺おうか。」
ケンジさんはガラスの板の表面をなでたり、叩いたりする。板が光る、音が鳴り、模様が変わる。板の裏には絵が彫ってある。なんだろう。リンゴかな。
「賢者の道のお導き、カイトはもっと自分にやさしくなろう。カイトは自分をせめて落ち込んでるんだよね。」
「それは……僕が失敗してみなを危険な目に合わせて、
いつも失敗ばっかりで。」
「反省するのはいいけど自分をせめない。人間だから、だれでも失敗することはあるよ。自分の弱みに目を向けて、自分を許すんだ。」
「でも…」
「急に言われても、なかなか難しいかな。
思いついたことがあるから少し待っててくれ。」
そう言うとケンジさんはどこかへ行ってしまった。
自分にやさしっくっていわれても。僕なんて、いつも失敗ばっかりで…
「おまたせ、ちょっと協力してくれる人を連れてきたから。」
うおっと。
びっくりして変な声が出そうになった。
ケンジさんは魔法使いのバニラさんをつれて来たのだった。
バニラさんは小柄で細身、一見幼くみえる女性だが、強力な魔力の持ち主で、上級魔法も難なくこなす、我がパーティーのエース魔法使いだ。大きめの黒いフード付きのマントに、黒いつばの広い帽子被り、ブーツも黑。インナーは意外と薄手で、ひざから下は生肌が露出している。少しだけ見える太腿につい目がいってしまう。
「なんだ、まだ落ち込んでるのか。しかたないなあ。」
少しかすれた、けれどもかわいい声でバニラさんは言った。
「いや、その。今回は、危険な目にあわせてしまい、すいません。」
「まあまあ、今回は一つお願いがあって来てもらったんだよ。カイトにある魔法をかけてもらおうと思ってね。バニラさんは快諾してくれたけど、カイトはいいかな?」
ケンジさんは言った。
「ええ、はい。いいですよ。よろこんで。」
動揺していてなんだかよくわからなくなっている。
「どんな魔法か気にならないの?まあいいか。
じゃあバニラさんお願いします。」
「よし、では、ゆくぞ。」
バニラさんは右手の杖を軽く持ち上げると、つぶやくように呪文を唱えた。
ダブルバインド(二重拘束)
杖から放たれた魔力は、白い靄になりゆっくりと僕を包む。
一瞬目の前が真っ白になる。
はっ
気が付くと目の前に誰かがいる。
随分しょぼくれた見た目だなあ。
僕じゃないか…
「ダブルバインド、一定量の魔力の塊を特定の個体の情報と結びつける。要するに分身をつくる魔法だ。数分で消えるぞ。」
「ありがとうバニラさん。」
ケンジさんは言った。
「造作もない。カイトも、あまり細かいことを気にするんじゃないぞ。」
そう言ってバニラさんは颯爽と立ち去った。
もうちょっと、気のきいた話ができればよかったなあ。
「魔力で作りだしたカイトの分身だ。シャドーと呼ぼうか。」もう一人の僕を指差してケンジさんは言った。
シャドーは、輪郭がはっきりせず、全体がうすく白く発光していた。そして、背中を丸めて、なんだかくよくよとしている。
「声をかけて、励ましてあげよう。」
「僕がですか?」
「そうさ、自分で自分にやさしい言葉をかけるんだ」
そんな、文字通りの意味で……
「とにかく、なんでもいいから元気づけてみてよ。」
みんな、僕なんかのために色々やってくれているんだし、とにかくやってみようか。しかしこいつ、ほんとにもっとしゃきっとしろよな。
「どうしたんだ。もうちょっとしっかりしようぜ。
我が事ながら、見ていて辛いよ。」
「そういわれても、また失敗しちゃって。もういやだよ。自分で自分がいやになる。」
「そうだよな、気持ちはよくわかるよ。まあ、当たり前だけど。だけどさ、僕だって…いや、君だってがんばったんだろ。結局ネクロマンサーも倒せたし。ゴーストだってかなり倒しただろう。」
「5体かな、いや6体かな。」
「凄いじゃないか。」
「でも、もっとうまくできたよね。毎回必ず失敗して。いつもリーダーに怒られて。」
「そうだよなあ、辛いよね。でも失敗しないことだってあっただろう。」
「そういってもなあ。」
「苦しい気持ちは分かるけど。乗り越えよう。
君はよくやっているよ。胸をはっていいよ。」
「そうかなあ、そういってくれると嬉しいなあ。」
そういい残すと、シャドーは消えていった。
僕はなんとも言えない気持ちになった。
「どうだい、自分と自分の失敗や悩みを切り離してみるのさ。同じことは、カイトの頭の中でもできるんだ。
自分の悩みをいったん切り離して、他人の悩みとして見てみよう。カイトは強く自分をせめていたけど、他人としてみたら、そこまで強くせめなられないだろう。」
「確かに。そうですね、」
「そうさ、これからはもっと自分にやさしくなろう。反省するのはいいけど自分をせめないことさ。」
…
自分をせめる声はすっかりきえていた。僕はやれるだけやった、人間だから失敗もあるさ、それに他の人にできないようなこと成し遂げたじゃないか。自分を褒め称え、評価してみた。
さっきのシャドーの姿を思い出す。
次なにか辛いことがあっても、あんなに悲しそうなシャドーは見たくないなあと思うのだった。
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