5話 勇者だけど…過去のトラウマが克服できない
港町エクセリオについた。ここ数日、雨が続いている。ここから、船で海峡を渡りレムナンの街へ向かう。今回のメインミッション、ドラゴン討伐のために。
「それじゃあ、僕の話をしてもいいかな。」
とケンジさんは僕に言った。
ここ数日の嵐のせいで、足止めを食らい、出港まで自由行動になった。
僕は出歩くのは苦手なので一人で宿にこもっていたのだが、ケンジさんに誘われて外食になった。
ケンジさんとは仲良くしてるつもりだったが、よく考えたら二人で食事をするのは初めてだ。少し緊張する。
「僕はねアカツヤの出身なんだ。知ってるかい。」
ケンジさんは話始める。
「すいません、知らないです。」
知らない村だった、失礼だったかな…
「そこそこ大きな街なんだけどね。10歳頃だったと思うけど、私の家族が魔物に操られているとの噂が出て。」
「魔女狩りみたいなものですか。」
「そう、色々調べられて、当然証拠なんか出るわけなく、間違いだったのだけれど。それから大変だったんだ。」
「そうなんですか。」
「そうさ。親は裕福だったから、やっかみもあったのかもしれないけど、ひどい差別だったよ。
石を投げられたり、殺されかけたこともあった。今でも傷がのこっているんだよ。」
「ひどいですね。」
「両親の悪口言われるのが、一番辛かったな。」
「それは、辛いですね。」
「親父は頑固な人で、やましいことがないんだから堂々といていればいいっていつも言っていた。私は引っ越したかったけどね。」
なんて返事をしていいのか分からずに、小さくうなずきながら黙って聴いていた。
昔の自分を思い出す。
僕は少年期、周りから孤立していた。
髪の色が変だとか、そんな理由でよくからかわれていた。嫌で嫌でしかたがなかった。
「それから強くなりたくて弓を勉強した。ほとんど独学さ。知っているかい、弓を射る時はね、余計なことを考えると当たらないんだ。」
「なんとなく分かります。僕は弓が苦手で、命中率はひどいものです。」
「弓の練習をやってる時は余計なことを考えなくてもいいんだ。なぜ自分は不幸なんだ…とかね。弓が僕を救ってくれたんだ。」
「弓がですか。」
「ある日街にモンスターが紛れ込んで、多くの被害がでたんだけど、私が全部弓で倒してね。それからいじめはなくなったよ。」
「良かったですね。」
「その後は弓の腕を買われて冒険者になった。ある冒険の時に賢者の道を手に入れて…その導きもあって、それなりの戦士になれた。かつてのいじめられっ子は、今ではギルドのSランクの弓兵だよ。」
「すごいなあ。」
「これが、殺されかけた時のキズだよ。酷いだろう。」
肩口をはだけてケンジさんは笑った。
少し酔っているみたいだ。
「つまらない自慢話だったかな。」
「いえ、とても良い話でしたが……今のは自慢話何ですか?僕も子供のころ、少し辛い時期があって、でもそれは恥ずかしい思い出で、誰にも話したくないんです。」
「その気持もわかるけど、辛い過去があるから、今がある思った方がいいんじゃないかな。
本当は、そうではなかったとしても、そうだったという物語を作るんだ。
辛い過去をただ辛いだけにせず、別の意味をあたえるんだ。」
「そうじゃなかったとしてもって、捏造でもいいんですか?」
「捏造は言葉が悪いかな。苦労を糧に頑張ったっていうことは誰にでもあるだろう。こじつけでもいいから自分の物語を作ってみよう。できれば人に話してみるのがいいよ。」
私も少し大げさにいってるところもあるし、とケンジさんは言った。
「え、話を盛ってるんですか?」
びっくりして大きな声を出してしまった。
「少しだけだよ。そんな顔しないでよ。大筋は本当なんだからさ。」
感動してたのに…
ケンジさんもいい性格してるよな……
「話を戻すけど、自慢話というのは嫌がられるんだ。ただ組織の中で生きていくには多少の自己アピールは必要だろ。だから、逆境をはねのけた話があると便利なのさ。自己アピールをする前に、こんな辛いことがあってという話をつけるといい。」
「でも自慢話って、性格的にあんまり…」
「苦手かもしれないけど、自分を売り込むのって大事なんだよ。自然にやらないと疎まれるけどね。カイトだって、ずっとこのパーティーにいるとも限らないだろう。」
そう言われて、ドキッとした。
このままの生活はいつまでも続かないだろうと、僕もそう思っている。
「そういえば、この話ってもしかして、賢者の道の?」
「ばれたか。そう、お導きだよ。」
「賢者の道を手に入れた話もききたいです。」
「うーん、その話は秘密なんだよ。また今度、話せる時がきたら話そう。それよりカイトの話をきかせてよ。」
「僕ですか、急に言われても。特に話せるようなことは……」
「そんなことはないだろう。逆境を乗り越えて一流冒険者になった成功譚を聞きたいな。」
「全然一流じゃないですよ。でも、はい、すこし時間をもらえますか…」
「ああ、時間はたっぷりあるからね。」
僕は食べながら考える、辛い過去を、それを乗り越えて有名パーティーの戦士に成長した物語を…
「多少大袈裟でいから、すこしぐらいは脚色を加えてもいいよ。」
「あまり難しいことを言わないでくださいよ。」
ケンジさんと僕は笑いあった。
外はまだ雨が降っている。
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