3話 勇者だけと…打たれ弱いんです。
僕の名前はカイト、戦士である。勇者と呼ばれることもある。力なき人々のためにモンスターと戦うものを勇者と言うのだ。
前回、無事に森を抜けて、街道沿いに港街エクセリオへ向かっている。だいぶ日も落ちてきた、今日も野宿か。そんな事を考えていると…
「あのーちょっと、いいっすか。」
めずらしく、魔法剣士のジョニーが話かけてきた。年下の後輩だ。生意気な奴であまり得意ではない。
「やあ、なにかな。」
僕は警戒ぎみに答えた。
「さっきのモンスターとの戦闘なんですけど、
あの動きはちょっと、どうっすかね。」
短く刈り込んだ金髪をかきあげながら、ジョニーは言った。
「はい?」
「俺って、立場的に前衛と後衛の両方わかるんで言いますけど、後衛の人はカイトさんの動きに困ってますよ。」
「でも、さっきの戦闘だと僕が一番モンスターいを倒してるよね。」
突然の話しに困惑しなかがら答えた。
「はぁー」とわざとらしくため息をつき、ジョニーはさらに話す。
「そういう考えかたダメなんですよ。リーダーもいつも戦闘前に言ってますよね。自分一人で戦うんじゃなく回りとの連携を大事にしろって。自分も前のパーティーではリーダークラスやってたからよーく分かるんすよ、勝手されると上の人間は困るんです。それ出来てると思います?」
口調が強くなってきている。
なんだこいつ。ダメってどういうことだよ。お前後輩だろう。と思いながら返事をした。
「そ、そうかな。」
「そうでしょう、自分一人でやってるわけじゃないんだから。約束事は全て決まった通りにやってもらわないと。」
「何かあったかな。」
「わかってないの。戦いの位置どりも悪いし、魔法の範囲とか考えて動いてます?やってないっすよね。モンスターに攻撃する順番もめちゃくちゃだし。回りに声掛けとか全然しないし。一人でやってるんじゃないんだから。」
「そうかな、でもさあ。」
「でもじゃないんですよ!」
怒鳴られた、結構な大声で。
うわ、こいつ、いいかげんにしろよ。
こっちは必死で壁役やってんだよ、変わりにやってみろよ。そもそも、お前は何匹倒したんだよ、僕の半分も倒してないだろう。その分の負担がこっちにきてんだよ!
と心の中で思ったが、黙って聞いていた。
「顔真っ赤ですよ。もういいっす、次から気をつけてくださいよ。俺はいいんですが、みんなが迷惑するんで。」
そう吐き捨てるとジョニーは、はーやれやれ、まったく、とぶつぶつぶやきながら去っていった。
(なんだ、あいつ、ふざけるなよ。)
頭がかっとしてきた。こっちにだって言い分はある。
絶対やりかえしてやる、どうしてやろうか。今すぐ怒鳴りこむか。反撃れたらどうするか、知るかあんなやつに負けるものか。
「こんばんは、元気かな。」
僕が、一人でかっかしていたら、ケンジさんが現れた。いつも通り、爽やかだ。
「ああケンジさん。どうもしないですよ!」
つい強い口調で答えてしまう。
「どうしたの、イライラして。」
「全然なんでもないですよ。」
「そうは見えないけど。話してみたら。」
ケンジさんは味方になってくれるよな。
全部ぶちまけよう。
「はい、実はこんなことがあって……」
ジョニーからひどいことを言われたことを話した。
「……ジョニーは僕の事を軽く見ているんですよ。
あんな、人をばかにしたような言い方をして。」
「まあ落ち着いてって言いたいけど、そういうことがあると頭に残ってなかなか忘れられないよね。誰でもそうだよ。」
「それで、なんとかしてやりたくなって。これから、あいつに言い返しにいこうかなと思ってるんですよ。」
「それは、やめた方がいいんじゃないかな。」
「え?どういうことですか。僕が間違っているんでしょうか。」
「納得いかない見たいだね。賢者の道に行くべき方向を指し示してもらおうか。」
そういうとケンジさんはガラス状の板をとりだす。板の上で指を滑らせたり、板をたたいたりしている。なんだか少し 嬉しそうだ。
「賢者の道によると、無礼な人に対しては、相手に働きかけても不満に終わる可能性が高いのでやらないほうがいいようだね。ほぼうまくいかないという結果になる」
「そんなこと、だれが調べたんですか!」
ケンジさんなら、僕の味方になってくれると思ったのに。
「遠い世界の頭のいい人たちが調べたんだろうね。我々の思いもよらない方法でね。」
「はあ。うーん。」
(やっぱり、納得できない。)
「さてと、賢者の道によると、ふーん。なるほどね。ジョニーは本当に君の事を軽くみたり、馬鹿にしたりしているのかな?」
「だってそうとしか思えないですよ。」
「もっとほかの可能性もあるのでは。例えば、ジョニーはバニラさんに告白してうまくいかずに機嫌がわるかったとか。」
バニラさんは魔法使いの女性で、まあ、かわいい感じの、娘であって。僕もひそかに、思いをよせているのであった。
「そうなんですか?」
「たとえばだよ。そこに食いつかないでね。」
「そうですか。」
「あとはそうだな、肉親がモンスターに襲われて怪我をしたとか、大事なアイテムをなくしてしまったとか。」
「でもそんなこと本人に聞かないとわからないんじゃ。」
「事実でなくてもいいのさ。ものごとの別の側面を考えてみるのさ、カイトの勝手な予測でいいんだよ。」
「でも、そんなことしてなんの意味があるんですか。」
「気分の問題だよ。そもそもなんで言い返さないといけないんだい、気分の問題だろう。」
「それだけじゃないですよ。ここで注意しないとまた同じことになるかも。」
「でもさ、さっきの賢者の道の予言だと、ほぼ失敗に終わるんだよ。」
「それは、やってみないと分かりませんよ。」
「うまくいく、可能性は低いと思うよ。自分の意見をしっかり言うのは大事だと思うけど、今の状態ではやめた方がいい。
まずは別の方法で気分を回復させて、本当にやらなければいけないことに手をつけた方がいいよ。」
「そうですかね。」
「自分のためになることに時間を使おう。想像力を働かせて、別の可能性を考えてみるとイライラが治まる。最悪だと思った体験を別の視点でみてみよう。カイトは想像力が豊かだから、うまくできると思うよ。」
「そうですか、じゃあ少しだけ考えてみます。」
僕は渋々ながら、やってみることにした。
(別の可能性か…)
考えているうちに、さっきのやりとりを思い出してしまった。イライラがよみがえる。
(くそー、絶対にやりかえしてやる。)
「ほら、想像力だよ。落ち着いて、別の可能性を考えてみよう。」
イライラはまったくおさまらないが、ケンジさんに言われたのならしかたない。
「そうですね、まずは…
ジョニーのやつは両親と喧嘩をして親子の縁を切られたのかも知れないですね。あいつはいいところの家の子なのでかなりあせっているはず。」
「うん、そういうことだね。」
「さらに、この前の戦いで装備を壊してしまい、直すのに金がかかるがその金がないのかも知れないですね。あいつはみえっぱりでいい装備を使っているから修理費用もさぞ高いだろう。」
「いい感じだよ。」
考え始めると色々思いつくものだな。
「ペットを飼っているっといってたから、そのペットも死んでしまったのかも。あと投資もしてそうなんでそれも失敗したんだな。」
「そうだね、そういうことがあって精神が不安定になり、カイトについ強く当たってしまったのかもしれないよね。」
「さらにミキさんに泣き言をいったけど相手にされず、ふられてしまったんですね。」
「うーん、そうかな、落ち着いてきたかい。」
「はい、さらにですね、この前リーダーから難しい仕事を依頼されてたので、それについてもうまくいっていないんですよ間違いない!」
「そのぐらいでいいんじゃないかな…」
「いや、もうひとつ思いつきました、こんなのはどうですか、えーとですね…」
「効果はあったみたいだね。よかったよ。」
ケンジさんはそう言って微笑んだ。何故か少し顔が引きつって見えた。