2話 勇者だけど…不安でたまらない。
深い森の中にいる。目的地である港町に向かうには、この森を抜けるのが最短ルートなのだ。
森の中は日中も薄暗い。
「おい、カイト右に回れ!!」
リーダーが怒鳴っている。
森の中でモンスターとの戦闘が始まった。
毒キノコモンスター、マタンゴが現れた。
うげ、10体以上いる。
「ジョニーとおっさんも前衛に入れ、キリがねえな。魔法部隊は回復メインだ。おいカイトちゃん倒しきれてないぞ真面目にやれ!」
リーダーも必死だ。
「はい!」
目の前のモンスターに対応しながら返事をした。
敵が思ったより強い。レベルが一段高い感じだ。
ちなみにジョニーとは後輩の魔法戦士である。優秀ぶっているが、剣の腕はまだまだだと思う。おっさんはシーフのヨアミさん。罠解除や偵察が得意で普段は戦闘補助なのだけど、今回はがっつりと戦闘に参加している。それだけ戦いが激しいということだ。
「ああ、もう、しょうがねえなあ。お前ら、ちゃんとやれよ!」
リーダーはかなりイライラしている。皆がリーダーと同じように出来る思っているのだろうか。こっちは、目の前のモンスターで、手一杯だ。
ぐわっ
痛い、後ろからの不意打ちで、腕を切られた、傷は浅いか。
(くそ、やりやがったな。)
剣を振り下ろし、目の前の敵は何とか叩き伏せたが、次々に敵が襲いかかってくる。
あれ、なんだか気分が悪くなってきた。
さっきの攻撃の毒だ。
まずい。
目が霞む……
「リーダー……毒が、ちょっと離れますよ……」
これはやばい、気持ち悪いし全身がしびれる感じ、意識が飛びそうだ。
回りのメンバーは全員戦闘中で全然気づいてもらえない。緊急事態だ、一旦下がろう。
敵の攻撃を避けて、太い木の影に転がり込んだ。慌てて毒消し草を飲む、回復薬も飲んでおこう。
よし、なんとか復活した、まだ吐き気と目眩がするけど仕方ない。早く戻らないと。
その後、激闘の末、何とかモンスターを撃退できた。こんな戦闘が今後も続くのだろうか。
身を隠せそうな洞窟があり、リーダーの指示で休憩になった。
………
「おいカイト、ちょっと来れるか。」
リーダーに呼ばれる。
ゆっくりしたいんだけど……
「お前さあ、なんだよさっきのは!急に持ち場を離れやがって!おかげで全員大変な思いをしたんだぞ。」
いきなり結構な勢いで怒鳴られた。
リーダーはめちゃくちゃカリカリしている。
「すいません、毒を食らってしまって。」
「だったらちゃんと報告しろよ!
持ち場を離れる時は必ず報告するようにいっているだろう!みんなろくに回復もできずに頑張ってたんだぞ。自分がよければいいのか。」
「いや、みんな忙しそうでしたし…
緊急性も高く、その……」
「だったら大声で声をかければいいだろうが、
そんなことも出来ないぐらい重症だったのかよ。」
「いえ、その、そこまででは。」
(あの状態で大声で報告とか、無理ですよ。)
「お前はそういうところの意識が低いんだよ、他もメンバーはみんなできているぞ、カイトはここにきて何年だ。」
「5年です…」
(知ってるくせに。)
「それならもうベテランだろう、回りに指示したり、リーダーシップを発揮しないといけないんだよ。そういうところをもっと考えないと、いつまでも同じような事では困るんだよ。」
「はい、すいません。」
「そのあたりしっかり考えて反省しろよ。まったく、このままじゃ足手まといだぞ。しっかりやれ!」
はあ?流石に言い過ぎではないでしょうか?僕だって精一杯やってるんですよ!ねぎらいの言葉もないんですか。それでよくリーダーなんかできますね!
と心の中だけで思い返事をした。
「はい、気を付けます。」
「もういい、少ししたら出発するから準備をしておけよ。」
「はい。失礼します。」
そういうと、少し離れた草むらまで移動して、荷物を開いた。
ふぅ、やっと休憩できる。念のため毒消しを追加で飲んでおこうかな。回復薬も準備して、後はなんだろう。何をやればいいのか分からなくなってくる。
僕はお荷物なんだろうか。
あの時本当はどうすれば良かったのだろう。
もう、やりたくない……
「やあ、戦闘大変だったね、大丈夫。」
僕がボーっとしていると、爽やかな声が聞こえてきた。ケンジさんだった。
パーティーメンバーの一人で、弓兵の人。最近少し仲良くなってきた。
「はい、ちょっとやられましたけど、なんとか大丈夫です。ケンジさんはダメージはないですか?」
「私も大変だったけど、なんとかなったよ。
ところで何か悩みごとかい、話してみれば。」
僕はさっき考えていたことを話した。こんな話を人にするようなことは今までなかったけど、ケンジさんには不思議と話すことができた。
「不安になっているんだね。」
「そうかもしれません。正直、出発したくないんです。」
「そうか。じゃあ、今回も賢者の道のご意見を伺ってみるとしよう。」
そう言うとケンジさんは薄い板を鞄から大事そうに取り出した。表面を叩いたりさすったりしている。薄い板が賢者の道というアイテムなんだろう。中の絵が動いていて、音も出ている、言葉を発しているようだが、何を言っているのかは全くわからない。
「賢者の道のお導きだ。
不安は悪いことではない、とのことだよ
君は不安でいいんだ。」
「はい?不安で苦しんでいるんですが…」
「不安に対する捉え方を変えて見よう。不安は無くさなくていいんだと。」
なんだか予想外の答えがかえってくる。
ケンジさん適当に勝手に考えて話しているんじゃないだろうか……
「そんなことはないでしょう。
剣術の稽古では不安や恐怖は敵だと教えられましたよ。ちょっと違うんじゃないですかね。」
僕は言い返した、僕の気持ちをケンジさんは全然解っていない。
「精神的な圧迫感や不安を乗り越えたときに、幸福を感じるように人はできているんだ。
だから避けようとするのではなく、乗り越えようと考えるのがいい。苦しみと喜びはセットになっているんだよ。」
「よくそういうことは聞きますが…
でも、しんどいし、ぜんぜん幸福じゃないです。
このままではどうにかなってしまいそうなんですよ。」
「不安や緊張を悪いものと考えずに自分の成長につながると考えるんだ、そう捉え方考を変えるだけで体の中身が変わってくるんだよ。」
「考えるだけで、体の中身が変わるなんてことがあるんですか。今回ばかりは眉唾です。
魔法使いではないですし……」
「人間の体の中には複雑な作りになっていてね、考えかたによって体にいいものが体内でつくられるんだよ。」
「本当ですか、聞いたこともないです。」
「それは、信じてもらうしかないかな。
後は、不安でびくびくしているのではなく、気分が高ぶっているのだと考えるのもいいかもしれない。そういう感覚だったら戦士の君は分かるだろう。」
「はい、たしかにそういう時はありますが……」
「不安な気持ちは燃料にできるんだよ。不安を燃やして前に進むことができる。
不安が活力を与えてくれると言い聞かされると、成果があがったり、疲れにくくなるということが調べた結果わかっているんだ。」
「誰がどうやって調べたんですか?
異世界の神ですか?」
「大賢者かもしれないね。でも、この世界でも異世界でも人間の作りなんて対してかわらないさ。
いまの不安な気持ちや緊張を、気分が高まっているんだ、と思って燃料にすることはできないかな。」
「ケンジさんは、解ってません、そんなことで解決する単純な問題じゃないんですよ。」
「まあちょつと想像してみようよ。肩の力をぬいて。」
それから、ケンジさんはしばらく黙った。
僕は心の中で呟いてみた。
(不安よ僕の力になれ。)
こんなの効くわけ…
ん、あれ、
これは…
「どうかな?」
「落ち着いてきました…」
自分は意外と単純なのかもしれない。
「そうか、よかった。続けることで効果も上がってくるからね。」
おっと、私も準備しないと、と言ってケンジさんは少し慌てて去っていった。僕のために時間を使ってくれたんだな。でも、なんで僕のために色々してくれるんだろうか、だだの善意か、なにか目的があるのだろうか。
一人になって、また不安な考えか浮かんできた。
モンスターやリーダーに対する不安、自分に対する不安が頭をぐるぐると回る、
干し肉を食べながら、よし燃料にしてやろうと思ってみる。
胸の中のもやもやが消えて、頭の奥の方から、力が沸いてくる。よしもう少し頑張ってみるか。と思った。
「全員準備しろ、出発するぞ。」
リーダーのかけ声が響いた。
僕は荷物を背負い、剣を手に取った。
何でもいいので感想がいただけると嬉しいです。