1話 勇者だけど…メンタルが弱いんです
「お前さぁ、何年勇者やってんだよ。」
イライラした口調で、リーダーが言った。
モンスターとの戦闘は先程終わったばかり。今は休憩中である。
「戦士になって8年で。ここに来てからは5年になりますが……」
以前から何度もされてる問いにうんざりしたが、僕はしかたなく答えた。もちろんリーダーは知っている癖にわざと聞いているのである。
「5年といえばかなりのベテランだ。苦戦続きで他のメンバーからは相談とか報告とか来てるんだけど、お前からは、なーんにもないんだよ。何も考えてないの?」
「いえ、あの、まあ、なんとかなりましたので。その……」
まったく言葉がでてこない。目上の人とはなすのは正直苦手なのだ。
はぁ、とわざとらしくため息をついてリーダーのお説教は続く。
「確かに、俺たちは魔物討伐という人類の生き残りをかけともに戦っていく仲間だ。ただな、俺はこのパーティーのリーダーでもある。報告ぐらいはしっかりしてくれないと困るんだよ。」
「はい、それは重々承知しているのですが。」
「俺だってこんなこと言いたくないしさ、お前だって別に俺に雇われている訳じゃないんだからさ、こんなめんどくさいこと言われたくないだろう。」
「いえ、そんなことは……」
(ありますが。)
「冒険者ギルドが俺たちの雇い主だ、俺たちは全員あそこと契約を交わして冒険をしている。」
「はい、そうです。」
リーダーは叩き上げ、いけいけタイプでギルド内で頭角をあらわしたのだ。部下に厳しい。いつまでたっても苦手である。
「だからといって、好き勝手にやっていわけじゃないんだぞ。お前だってここにきて長いんだからさあ、言われなくても解れよ。もうちょっと回りをみて行動しないと。」
「はい、そう、思いますが、そのなかなか時実践できず……もう少しなんとかできれば…」
僕はなんだか要領の得ないことをごにゃごにゃといった。
「わかっているなら、ちゃんとやれよ!いい加減にしろよ!自分一人でやっているんじゃないんだからな。」
リーダーの声が大きくなる。はっきりしない僕の言動にで怒らせてしまったようだ。
「はい、すいません。」
「しっかりしろよ。もういいよ、あと少し休んだら出発するから準備しておけよ。」
ふぅ。やっと話が終わった。
最近、妙にリーダーの当たりがきつい。何か怒らせるようなことをしたのだろうか。だんだん不安になってきた。
(なんだよ、言いたいこといいやがって。)
とリーダーに対して怒りが湧いたが、それは不安に変わっていく。同じ考えがぐるぐると頭をめぐる。
本当に嫌なのは自分自信のダメっぷりだ。なんだか酷く悲しくなってきた。
(ポーションで回復だけでもしておかないと。)
そう思い高台から道を降りてき、荷物置き場の近くにさしかかると不意に声が聞こえた。
「やあ、どうしました。」
ゆっくりとした、やさしい声だった。声の主は最近パーティーに加入した弓使いの人だった。名前が、ええと、思い出せない。
「ケンジだよ。カイト君」
「そうでした、すいません。」
ちなみにカイトとは僕の名前である。
身長は僕より少し高い、髪が長く、肩の所で無造作風に切り揃えられている。おしゃれである。明るい人気者タイプだな、こういう人は苦手だ。僕は少し警戒した。
「ずいぶんもめてましたね。」
「いやその、僕が悪いんですよ
何だか色々うまく行かなくって。」
「ふーん、でもここ長いんですよね。
けっこう有名なパーティーだし、腕が悪いと続かないでしょう。」
「そんなことないですよ、さっきみたいに怒られてばっかりなですよね。全く自分が嫌になりますよ。」
ほぼ初対面の人なのに、ぐちを言ってどうする。ダメ人間だと思われたかもしれない、でもしょうがないさ、だって僕は…いつも……
「大丈夫だって、君はダメなやつなんかじゃないよ。」
「え、なにか。」
声にだしていたのかな、そんなはずはないけど。
「……賢者の道ってしっているかな。」
少し間を開けてケンジさんが話し始めた。
「いいえ、なにか魔法とか。」
「そう魔法のアイテムなんだよ、詳しいことは秘密なんだけどさ。心に効くんだ。」
「そうなんですか、ちょっと怖い気もしますが。」
「怪しい薬とかではないから。」
そう言うとケジジさんは鞄の中からガラスでできた平たい板を取り出してきた。板の表面をなでまわしたり叩いたりしている。何をしているんだろう。
「カイト君、君は周りに起きることは嫌なことばかりだって思っているんじゃないかな。」
「そんなことないですけど。」
僕は節目がちに答える。
「賢者の道からの提案。
嫌なことを一つ思い浮かんだら
いいことを3つ思いだすんだ。」
「いいことを3つ?」
「そうさ、今君はリーダーにお説教されて落ち込んでいるよね。
ささいなことだと私がいっても、君はそうは思わないだろう。だからさ、別のアプローチをするんだ。」
(いいことを3つか。)
いいことなんて、そんなこと、全然なくって……
いつもいつも、辛いことばかりで。
嫌な記憶がよみがえる。勇者になって良いことなんて一つもなかった、頭のなかで考えがめぐる、ぐるぐると……
「肩の力を抜いて、ゆっくり考えよう。
ささいなことでいいから。
例えばそうだなあ、昨日は何を食べたかな。」
「シチューとパンを。」
{おいしかった?」
「ええ、シチューはシーフのヨアミさんの得意料理でとてもおいしかった。」
「まず一つ。」
「え、そんなことでいいんですか。」
「それから、戦闘はどうでした、傷を負ったようにはみえませんでしたが。」
「ええ、ほとんど攻撃をうけずにたおせました」
「はい2つ目。」
「でもたいして強いモンスターじゃないし、当たり前では。」
「あのモンスターに倒されて命を落とす戦士も少なくないんだよ。」
そうか、そんなこと…考えたこともなかった。
「あと一つだね。」
「そうですね、ええと、その。」
「何でもいいからさ。」
「ええと、親切なパーティーメンバーに励まされて、
嬉しかっ…た……かな。」
「ふふふ。これで3つめだ、少しは気分が上がってきたんじゃないかな。」
そういわれてみれば、さっきまでのどんよりとした気分は不思議と消えていた、
「これが賢者の道の力さ。物事は変えられなくても、意識の方向を変えれば世界はかえられるのさ。」
「でもこれって、よくある人生訓とかじゃないんですか。」
「共通するところはあるけど、これは大勢のひとを集めて、繰り返し試して効果が高いと確認されている方法なんだ。」
「そんなこと、誰がやったんですか。」
「それは私にもわからない。不思議アイテムたるゆえんだね。恐らく異世界の神々じゃないかな。」
「本当ですか、なんだか怪しいなあ。」
「これでも長い年月をかけて調べられてきたアイテムなんだよ。それに効果もあったでしょう。」
確かに、気分は良くよくなってるし、リーダーから色々いわれたことも、気にならなくなっている。
「でも、リーダーから言われたことは全然解決してませんよ。」
「それはそれとして、対策は必要だろうね。
でも落ち込んだままだったら何も手につかないでしょう。」
「はっ、確かに。」
「また困ったら力になるよ、よろしく。」
そう言うと、ケンジさんは爽やかに笑って立ち去っていった。やっぱり、あの人はリア充だな、間違いない。警戒心は消えないが、リア充でもいい人はいるんだと思ったのだった。
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