レベル5ゴブリンのキラーとの攻防
黒い外套をまとった正体不明のゴブリンに演奏を本気で試みた。
黒い外套をかぶったゴブリンに演奏を聴かせると、「ぐっ」とうめき、「それしきの事で」と言って私達が演奏している私達に強い竜巻みたいな物を召還して、私達に襲いかかる。
「心音、明、これは演奏どころじゃない!いったん引こう」
「そうした方が良さそうね」「僕もそう思うよ」
心音も明もそういう。
外套をかぶったゴブリンは宙に浮き、大気を竜巻に変えている。
黒い外套をかぶったゴブリンは敵味方関係なく、私達に攻撃を仕掛けてくる。
そこで私が「どうして仲間まで巻き込むの?」
「コマの換えなどいくらでもいる」
と言って、外套をかぶったレベル5のゴブリンだと思われる奴は嵐を起こした。
そこでレベル5と名乗ったメルヘルは「やめろキラー、お前もクラウザー様、いやクラウザーに操られているのだ」
「貴様メルヘルよクラウザー様に刃向かう気か!?」
黒い外套を被ったキラーと言うレベル5のゴブリンは言う。
「先ほどは勇者との戦いで手加減していたが、貴様とは本気で戦わねばこの者達の演奏を聴いてはくれぬだろう」
メルヘルは言った。私と戦っているときに手加減していたと。
なぜ私と戦っている時に手加減をしたのか私は疑問に思ってしまった。
そしてメルヘルは「ブーストアップ」と叫び、体中が金色に光り、キラーの元へと跳躍して、その剣でキラーを引き裂いた。
だが引き裂いたのは、キラーではなくキラーがまとっている外套だった。
「キラーよ、お前の素顔を見る事はなかったな」
「うぐっ」
と狼狽えるキラー。
その素顔を見て私達は驚愕した。
顔中の肌がそがれていて、歯と牙と目がむき出しになっていたのだ。
まるで化け物のような顔をしていた。
メルヘルは「それが貴様の素顔か!?」
「私の素顔をみた者は皆呪われる」
キラーはそういった。
それはどういう事だと思うと、体が重くなり、まともにギターを持つ手の力さえ奪われてしまった。
これでは楽器は弾けない。
でもなぜだろうか、心を邪心にすると、体が動くようになってくる。
そこでメルヘルが「ゴブリン達よ、それに女勇者達よ、小奴の力で動いては行けない。心を邪心に染められてしまう」
じゃあ、私達は動かない方が良いと言うのか?
心が真っ黒に染まりあがると、体が自由に動くようになる。
心が邪心に染まっても良い。
「心音、明」
私は二人にアイコンタクトをとった。
邪心の力でも歌の力であれば、私達の呪いも解けて行くだろうと思った。
そこでメルヘルが「やめろー、勇者達よ、演奏をしてはならぬ、小奴の呪いにかかれば、邪悪な音楽しか弾くことしか出来なくなる。私が小奴を倒せば、済むことだ」
「メルヘル・・・あなたは・・・・そやつを・・・倒す・・・事が・・・出来るの?」
私のありったけの聖なる力を前に、メルヘルに言う。
レベル5のゴブリンに出会ったら最後と言うのはキラーの呪いをかけられて、心が邪心に染まって、クラウザーに操られている私達の演奏を聴かぬゴブリン達の心になってしまうのか?
じゃあ、私達はどうすれば良いのだ。
このようなピンチに追い込まれるなんて思っても見なかった事だ。
今まで演奏を続けていれば、ゴブリン達は改心してくれる。そう信じていた。でもキラーの呪いによって、私達の心は邪悪に染まってしまっている。
ここはメルヘルにかけるしかない。
メルヘルは宙を舞い、キラーと戦っている。
凄い戦闘だ。
メルヘルはどうして私と戦う時に手加減をしたのかわからない。
メルヘルも私達に心を奪われたかったのか?
ちょっとでも動こうとすると心が邪心に染まってしまう。
今の私達の力は皆無だ。
この邪悪な心で演奏をしてしまったら、ゴブリンはおろか、私達人間達も邪悪な心に支配されてしまう。
でもそうはさせない。
邪悪な心はゴブリン達だけでなく人間達にもそれは存在する。
現に私の心は邪悪に染まっている。
私達は負けるわけには行かない。
でも邪心に心を捧げなければ体が動かない。
空を見ると、レベル5同士のゴブリン達が互いに戦っている。
たとえ、呪いをかけられなくてもあのようには戦えない。
でも楽器の演奏なら私達は誰にも負けない力を感じる。
私が倒れているところにシロツメクサが合った、何となくふれてみると、すぐに枯れてキラーが嵐吹く風に粉々にされてしまった。
「心音、明」
聖なる力を振り絞って、かろうじて二人の名前を呼ぶ。
「盟」「盟ちゃん」
心音と明も同じように聖なる力を振り絞って、倒れながらも私に手をさしのべようとする。
そして私達三人が手を重ねた瞬間だった。
私達の音楽を聴いてくれたゴブリン達や人間達の声が心から溢れるように聞こえてくる。
私達の演奏を聴いてくれたみんな。
私達の目的はゴブリン達と人間達を一つにする事。
何だろう?力がわき起こってきた。
少しで良い、楽器を演奏できれば。
邪悪な心ではなく、聖なる心で奏でれば。
私は聖なる力を振り絞って、ギターをとって、一弦だけ弾いてみた。
すると心の聖なる力が、ポタポタと言った感じで、潤してくれる。
そして心音がキーボードのドの音を弾くと、また心にポタポタと心が潤ってくる。
さらにドラムの明が、聖なる力を振り絞って、ハイハットを叩き、何かがはじけ飛んだような感じがした。
空中でキラーとメルヘルが戦っている。
私達に危害が及ばないように、嵐をすべてなぎ払っている。
状況的にメルヘルの方が不利だ。
そしてメルヘルは、キラーの嵐をまともに喰らって、地面へと激突した。
「メルヘル」
メルヘルは私達の為に戦っている。
キラーの心は邪悪に染まったままだ。
「フッフッフッ、愚かなメルヘルよ、そんなに小奴らの事が大事か!?」
メルヘルはかろうじて立ち上がり。
「大切だとも。この者達がいなければ、我々は何の為に生きるのかを教えてくれた者達だ」
私は聖なる力を振り絞って、叫んだ。
「メルヘル」
と。
するとメルヘルと私達三人に聖なる力が宿った。
「今よ、心音、明」
二人にアイコンタクトをとって、私達は演奏した。
邪悪な演奏ではなく、聖なる力の演奏だ。
「私達は負けない」
そういって私達は歌いだした。
するとキラーは「うおおおお」と苦しみもがきだした。
だが、私達の心はまだキラーの呪いが解けたわけではない。
キラーは嵐をまといながら、そのおぞましい顔を私達に見せつけてくる。
その顔を見た者は、呪われてしまうとメルヘルは言っていた。
だから私達は目を閉じて演奏した。
目を閉じても感じる。
キラーの呪いが、目を閉じただけではキラーの呪いは解けないだろう。
私達の聖なる力と、キラーの邪悪な力が拮抗している。
すべての願いを込めて私達は歌わせてもらう。
キラーの犠牲になったゴブリン達や人間達にも私達は演奏してキラーの心を清める事さえ出来れば。
竜巻が吹き荒れる中、私達は演奏した。
これがレベル5のゴブリン。
その強さは半端じゃないほどに強い。
レベル4のゴブリン達とは大きな差がある。
でも私達は負けるわけには行かないんだ。
人間達やゴブリン達の為にも、それに今戦っているレベル5のゴブリンであるキラーに対しても。
私達の演奏は私達の世界ではちらほらと見向きを示してくれたが、世界を変えるほどの力はない。
でもこの異世界の住人達は私達の演奏を聴いて、心が清らかになってくれる者達がたくさんいる。
この異世界のゴブリン達や人間達の間をつなぐ者は私達しかいないと思っている。
だから、私達は負けるわけにはいかないんだ。
レベル5のキラーの悪しき心は伊達じゃない。
これがレベル5のゴブリン。
メルヘルはきっと私達に期待して、手加減をしてまで私に戦いを挑み、私達の演奏を聴いてくれた。
そしてメルヘルは改心してくれた。
私達とキラーの聖なる演奏と、邪悪な心が拮抗している中、メルヘルの気を感じた。
そしてメルヘルは背後からキラーをその剣でとどめを刺そうとしている。
さすがのレベル5のキラーでさえも私達の演奏とレベル5のメルヘルがつけば、完全に勝利する事は出来る。
でも私はレベル5のキラーを改心させたくて、メルヘルに演奏で念じる。
『お願いメルヘル、キラーを改心させて。だから殺さないで』
するとメルヘルから『わかっている。私もキラーを殺すつもりはない。お前達の演奏でキラーを改心させてくれ』
メルヘルはキラーの背後に回り体当たりをした。
邪悪な怨念を阻止してくれたんだ。
「今よ明、心音」
私達三人は目を開いて、気合いを込めて聖なる力を放出するようにキラーに演奏をした。
「うぐぐぐぐうぐ」
キラーは苦しそうにもがいている。
もう一押しだ。
キラー、もういいだろう。
何で私達は戦わなくてはいけないんだ。
それほどの力があるなら、弱き人間達の為に尽くすつもりはないか?
でも竜巻で犠牲になってしまったゴブリン達や人間達はお前をキラーを許さないかもしれない。
でもこれから私達の為に、共に二つの国を一つにするために力を貸してくれないか?
そんな時だった。
キラーの思いが私の心に響いた。
『人間達は私の両親と家族、兄弟を殺された。人間は弱くて一人では何も出来ないモロい者ばかり、私の家族を殺された事により私は人間達を許す訳にはいかない』
『キラー、あなたの気持ちは分かるよ。でも憎しみは憎しみしか生まない』
『ならば貴様等も同じ思いをしたらどうする?』
キラーの瞳から赤い光が私達の方に飛び込んできた。
それを見た瞬間、私達は大切な者を無くした気持ちに翻弄されてしまう。
もし目の前で私の家族、そして私の大切な親友の心音と明が殺されたら、どう思うかと言うような気持ちだ。
そうなったら私は許さないだろう。
きっと明も心音も同じ気持ちだ。
でも私達はそれでも聖なる気持ちを邪悪な心には変えない。
たとえ、両親が殺されて、明が殺されて心音が殺されても、それでも一筋の希望を掲げて私は歌う。歌い続ける。
邪悪な心に染まらない。
一人ぼっちの時でも誰かが私の事を見てくれる人がいる。
悲しい気持ちの時でさえも、その後から楽しいことが待っている。
だから私達は負けるわけにはいかない。
そんな邪悪な心に心を染めたりはしない。
『キラー、あなたもゴブリンの子でしょ。多少私達人間達と違うけれども、ゴブリン達も人間達も、和解すれば、もっとハッピーな気持ちになれるよ』
そして私達三人はキラーが放つ、憎しみの赤い瞳を圧倒させて、キラーから出てくる、憎しみの気持ちが、放出される。
終わったと思っても、私達は歌っていた。
でも油断はしていたかもしれない。
その時、終わったと思ったら、キラーから放出される邪悪なエナジーが私達を襲おうとしている。
これはさすがにやばいと思った。
このままでは私達はこの邪悪なエナジーの餌食となってしまう。
だがその時、キラーが、私達の前に立ちふさがり、キラーはその邪悪なエナジーの餌食となり消滅していった。
「キラー」
と私は叫び、演奏をやめてキラーの元へと駆け寄った。
「これは私が招いた罰そのものだ。私は人間を滅ぼすことを必死で考えたが、それは間違いだった事に気がついた。私はお前達の演奏に負けたよ。でも私は死ぬがとても良い気分だ」
「何をいっているんだ、キラー、これからあんたの力も借りるつもりで戦っていたのに」
「役に立たなくて申し訳ない。でもこうするほかなかったのだ。私はこれまでに何人者人間を殺してきた。そうすることで私は邪悪な気持ちをより一層強くさせ、レベル5のゴブリンの座まで登り積める事が出来た」
「明、何をしている。キラーに回復の魔法を」
「盟ちゃん、それは無理だよ。キラーはゾンビ属性だから、回復の魔法は皆無だよ」
「そんなあ~」
私はキラーが不憫で今までのゴブリン達よりもかわいそうな存在だとわかり、涙が溢れて来た。
そこで瀕死となったキラーは「私はもうダメだ。でもせめてお前達の演奏を聴かせてくれぬか?」
「もちろん。お望みとなれば」
私は涙を振り切って、三人で演奏した。
この曲はまだ、誰にも聴いた事のない、レクイレムと言う曲だ。
まさに今のキラーにぴったりな曲だと思って、私達は奏でた。
心音のキーボードを叩く音と明のドラムを奏でる音楽が何か悲しみを帯びていたことに気がつく。
きっと二人も今の私の気持ちと同じなのだろう。
どうして人は憎しみは憎しみしか生まないのに戦うのか?それが私には分からなかった。