私達の演奏スリーピースバント
「どうなっているのよ。この世界は!?」
混浴状態の男女は平然として、共に裸になっている。
私も明もそれには少し抵抗が合った。
男の前で肌を露出するなんて考えられないことだ。
すると私達をつれてきたメイド達は、「さあ、何をためらっているのです。早速中に入りましょう」
三人のメイドは私達一人一人の腕をつかんで男女共同の脱衣所までつれて行かれた。
「あなた方様は戦いで、さぞ汗をかいたでしょう。さあ、お清めにここで体を流すことにしましょう。私達も同じように裸になりますので」
メイド達は何の羞恥もなく肌を露出した。
そしてメイド達はためらう私達の服を無理矢理脱がされた。
「ちょっと冗談じゃないわよ。男の前で肌を露出するなんて」
心音が悲鳴を上げている。
私と明はもう覚悟して、メイドに服を脱がされるのをためらう事を諦めた。
「心音、もう観念するしかないよ」
私が言うと「ぐぬぬぬ」とこらえている。
私達三人は浴室に行き、そこには女も男も関係ないように、肌を洗い流している姿が見受けられる。
ちなみに私達三人はバスローブを巻いている。
「心音様の髪って綺麗ですね」
心音の自慢の長い髪だ。いつも丁寧に心音は扱っている。
「この石鹸を使えばさらにさらさらになるでしょう」
そういってメイドは心音のさらさらな髪にお湯をかけて、しゃわしゃわと泡立つ石鹸をこすりつけた。
「ちょっと直接石鹸を髪につけると髪が痛んでしまうんだけど」
「その点では大丈夫です。この石鹸にはトリートメントが含まれていますので」
この異世界にトリートメントなんてあるんだなんて私は感心した。
二人のメイドも私と明にトリートメント入りの石鹸を髪に押しつけられて、わしゃわしゃと洗われた。
髪も洗って今度は体だ。
もう私達はどうにでもなれと言った感じで、バスローブを抜いで、メイド達に洗わされた。
下から上まで、しっかりと洗ってもらい、最後に入浴するのだが、それはもうさすがに断った。
体を拭いてメイド達にこれがあなた達の装備する防具です。
服じゃなくてメイド達は防具と言ったよ。
私は下の下着は布の物で出来ていて、体には鎖帷子を装着させられて、その上に全身に鎧を着せられた。
ちょっと重いが、動けないことはない。
心美と明を見てみると、心美は白いとんがり帽子をかぶり、体にはタイのついた白いローブをまとっている。
明は黒のとんがり帽子に黒いタイのついたローブをまとっている。
二人とも言っていたが、下着には普通のパンツに上着には鎖帷子を着ていると、聞いた話ではこの鎖帷子は鋼の剣をもしのぐ防具となっているとメイド達に聞いた。
異世界のお風呂から出ると、町の人達となじめるような格好をしていると私は思った。
すると「ゴブリン達が攻めてきたぞ!!」町の青年が町人達に告げる。
するとメイド達は「さあ、勇者様がた、私達をお救いください」
お風呂から出ていきなり、汗をかくことが決定してしまったようだ。
「そこで女亭主の妖精が来て、大変よ、レベル3のゴブリンがレベル1の五十人者のゴブリン達を従えてこちらに攻めてきたわ」
「レベル3、それに五十人のレベル1のゴブリン達がこの町を攻めて来ただって!!?」
「羞恥にさらされた後に再び汗をかくだなんて」
心音が不服そうに言う。
「それより五十の数のゴブリン達を僕達が相手しなきゃいけないの!?」
そこでピンと来て、「そういえばゴブリン達は音楽に弱いんだよね」
女亭主の妖精に言うと「うん。そのためにも、ゴブリン達をあなた達の演奏で迎撃するのよ」
「よし分かった」
町の人達はパニック状態になり、その中をかいくぐりながら私達は攻めてくるゴブリン達の迎撃するために町の外へと向かっていった。
町の門をくぐり抜けるとゴブリン達は盾と棍棒と鎧をまとい、涎を垂らしながら、町の方へと向かってくる。
そして町の門が閉ざされてしまった。
「どうやら、私達は戦うしかないみたいだね」
心美が先っちょに星のついた杖をかざして炎を飛ばそうとすると、私が「心音、やめた方がいい。ここは私達が演奏して、ゴブリン達を弱らせてから、迎撃した方が良い」
私はエクスカリバーからエレキギターに変換させた。
心音は炎の杖からキーボードに変えて、明は賢者の杖からドラムに変換した。
「もうこうなったらヤケクソだ!」
と私が叫んでドラムの明に合図を送る。
すると私達の演奏が始まった。
私達三人は練習の会もあって、息はぴったりと合っている。
するとゴブリン達は苦しみもがいている。
女亭主の妖精は言っていたが、ゴブリン達は音楽に弱いことは本当だ。
レベル1のゴブリン達は、音に苦しむように目を思い切りつむりもだえている。
レベル1のゴブリン達五十人を引き連れたレベル3のゴブリンも「このような物で我らは・・・」と苦しがっている。
私達は命を懸けて歌っている。
するとゴブリン達の体から真っ黒なオーラが霧散に浮き上がってきた。
私はその時思った。ゴブリン達の様子がおかしいと、何かゴブリン達は何かに操られているかのように感じた。
ゴブリン達がひるんでいると、町の外からゴブリンめがけて、弓矢が発射された。
ゴブリン達は雨のように降ってくる、弓矢にまともに食らって、「やめてくれー」とか「俺たちは何も悪さはしない」とかゴブリン達から殺気が消えていた。
私は演奏をやめて、「待って城の人達、ゴブリン達に攻撃を加えないで」と言った。
だがその言葉は通じず、容赦なく弓矢の嵐がゴブリン達に向けられた。
そこで女亭主の妖精は「何を言っているの?ゴブリン達は私達の敵よ、演奏をやめないで、もだえている間にゴブリン達を繊滅させるのよ」
するとレベル3の隊長と思われるボス的ゴブリンは、「その音楽死ぬ前にもっと聴かせてくれ」と涙を流しながら、レベル3のゴブリンは言う。
レベル3のゴブリンには弓矢は通用しないみたいだ。
さすがはレベル3と言ったところか?
私はレベル3のゴブリンの言う通り、ギターを奏でるとレベル3のゴブリンは泣いている。
いや泣いていたのはレベル3のゴブリンだけではない。このレベル3のゴブリン同様にレベル1のゴブリン達も泣きながら私達の演奏に心をひかれていた。
雨のように降る弓が収まり、レベル3と思われるゴブリンは「死ぬ前にその音楽を聴かせてくれ」と懇願する。すると部下であるレベル1のゴブリン達もそう懇願している様子だ。
それを聴いた私達は心音と明にアイコンタクトをとり演奏した。
「何てすばらしい音楽なんだ。俺達の心が洗練していく」
とレベル3のゴブリンは言う。
「私達の演奏がゴブリン達に共鳴している」
それを聴いた心音は「じゃあ気合い入れて歌おうじゃないか」
明のドラムのリズムは正確にリズムを刻んでいる。
もしかしたら、ゴブリンは悪い奴らじゃないんじゃないかと思った。
演奏を続ける私達。
私達の音楽に魅了されるゴブリン達。
「そんなに私達の演奏が聴きたいなら、もう悪さはしない?」
すると女亭主である妖精は、「何を言っているの、ゴブリン達に心なんて存在しないわ」
「いや存在する。現にゴブリン達は私達の演奏を聴いて、邪悪なオーラが消えていったから」
「ゴブリン達にとどめを」
「とどめなんて必要ないわ」
そう私が言った瞬間に、後方からドンッと花火が打ちあがるような音がした。
それは砲弾であり、レベル3のゴブリンにとどめを刺してしまった。
「ぐあああ!!!」
とレベル3のゴブリンは断末魔をあげて「俺はもうクラウザー様の下部ではないのに」と言って息絶える。
私達は息絶えたゴブリン達の親玉のレベル3のところに行くと、完全に死んでいる。
「町は救われたぞ」ある兵士の一人が言う。
町の民衆は喜んでいた。
そして二十人くらいの敗残兵のレベル1のゴブリン達は逃げていった。
確かに私達はゴブリン達を繊滅する事に成功したが、心音も明も複雑な気持ちだった。
町への門が開き、私達が帰ると、「勇者様のお手柄だ」「勇者様」「勇者様」と私達をあがめる人達。
ある老夫婦が言う「ありがとうございます。あなた達のおかげでゴブリンに殺された息子が報われました」さらに「ありがとうございます。あなた達のおかげで親父とお袋が報われました」と青年が言う。
私と心音と明はゴブリン達は何か邪悪な者に操られていると感じた。
それは何なのか私達には分からないが、その事を町の人に言ったって分からないだろう。
町の人達はゴブリンに大事な家族を失った者もいるからだ。
でもこの件でゴブリン達の恨みを買い、またゴブリン達はさらなる力を持って襲ってくるだろう。
その為には私達は演奏して戦わなくてはならなくなるだろう。
銭湯に案内してくれたメイド三人は私達の元へとやってきて「お疲れさまでした、それでは城に戻りましょう」と一人のメイドが言った。
城に戻り、来賓の部屋に案内されて、私は鎧を脱いで、寝間着であるネクリジェに着替えた。心音も明も同じように寝間着のネクリジェに着替えている。
窓の外を見ると、もう夜で、綺麗な星と共に赤い月が上がっている。
何か不気味な予感がして、私達は寝付けなかった。
そして、私達は町の人に祝福され、王にもお褒めの言葉をいただいた。
そんなわけで、私達は話し合う余裕すらなかった。
ここではもう三人だけだから、遠慮なく私達は会話に夢中になれる。
「心音、明、ゴブリン達は悪い連中じゃなさそうよ」
「それはあたしも感じた」
「僕も」
「ゴブリン達は何かに操られている。そういえばゴブリンのリーダー的存在のレベル3のゴブリンは言っていたね。クラウザーと言う者の主じゃないって」
そこで心音が「そんな事私達には関係のない話でしょ。とにかく半年、半年経てば私達は元の世界に帰れるのよ」
「僕もそう思う」
そうだよな。私達は半年経てば元の世界に戻れる。この世界のいざこざを私達が何とかする義理なんて私達はないんだ。
多分またゴブリン達は襲いかかってくるのだろう。
その為にはある程度鍛錬が必要だな。
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そしてこの一ヶ月ゴブリン達の襲撃はなく、私と心音と明は演奏と剣術を磨きに磨いた。
エクスカリバーではなく木の棒で、この国一番の剣術の使い手に特訓を行ってもらった。
「やあ!はあ!」
「勇者殿、飲み込みが早いですね、でもまだまだです」
この国一番の剣術の使い手のマイスターは言う。
「これじゃあ、レベル5のゴブリンに立ち向かうことすら出来ないよね」
「レベル5のゴブリンに遭遇したら最後と言われていますので、わたくしもレベル5のゴブリンに遭遇した事はありません」
こんな剣術の使い手でも、レベル5にはほど遠いとは。
それよりも後五ヶ月、何とか帰れるまでに、この町に攻めてくると思われるゴブリン達を迎撃するために私と心音と明は特訓を行わなくてはいけない。
でも心音と明も私もこの町を見捨てて、逃げるなんてちょっと卑怯なんじゃないかと思ったりもしたし葛藤したりもした。
一ヶ月前の私達の演奏を聴いてゴブリン達が、改心してくれた事を思うと私達でも演奏すれば喜んでくれる人もいたと思うと胸がいっぱいになる。
現実世界では私達の演奏を聴いてくれる人はちらほらといたがこの世界では音楽がなく、私達の演奏を聴いて喜んでもらえる人がいることを思うと、空も飛べそうな程の優越感に浸される。
そう思うとこの世界に一生いたいと言う気持ちに駆られてしまう。
多分心音も明も同じ気持ちかもしれない。
そんな事を思っているとある事件が発生した。
一人の兵士がやってきて「マイスター殿、ゴブリンが三匹この町に潜入してきました」
「何!?そのゴブリン達は!?」
「何も抵抗もせずに、あの女勇者様達の音楽が聴きたいと訴えるばかりで」
「何も抵抗もしないでこの盟様達の演奏が聴きたいから、町まで来たと言うのか!?」
「ハッ、そのつもりです」
「今すぐにそのゴブリン達を始末しろ」
そこで私は話しに参加して「殺すのはダメ!」
「何を言っておられるのですか!?盟殿あなたのおっしゃる事は正気ですか!?」
「とにかくそのゴブリン達と私と心音と明は話がしたい」
「分かりました。そこまで言うなら、会わせましょう。その前に装備をちゃんとしてからにしてください」
そうして私と心音と明は町に潜入してきたゴブリン達と対面する事となった。