いざ異世界へ
「ねえ心音ちゃんに盟ちゃん、ここ小さなステージがあるよ」
と明は言う。
そう私達が歌うにはちょうど良い低いステージが設けられていた。
それに内装は外観に比べてきれいだし、女亭主が座っているカウンター席や丁度四人座れる向かい座席があった。
「お姉ちゃん達、お客さんでしょ、とりあえず、適当なところに座りなよ」
そう言われて、明が角にステージが見られる、扇形に並べられたイスの真ん中に座った。
「ちょっと明、そこに座るんじゃないの!」
私が明にたしなめる。
そこで女亭主が「良いよ良いよ、好きな席に座ってくれれば良いさ」と言って私と心音は角のステージが眺められる扇形の席に着いた。
そこからステージを眺めて私と心音と明が演奏している姿を想像した。
何か良い。私達がここでステージを囲う扇形に並べられている座席いっぱいにしてお客さん達の前で歌いたいな。
そんな時である、女亭主が私達にお冷やを差し出して「お前さん達、楽器を持っているところを見るとバンドを組んでいるんだね」
そこで私が「はい。いつか東京ドームいっぱいのステージの上で歌いたいと思っています」
「ほう、それは大した夢だな。じゃあ、早速だが、その演奏とやらを見せてくれよ」
心音が「ちょっといきなりすぎないですか!?」
明がステージにあるドラムに座って、ドラムを叩く。
「このドラム良いドラムだね、何か僕にしっくりくるよ」
明がドラムを刻むと私達は共鳴しあうように、私はギターを取り出して、心音がキーボードとその脚立をセットした。
明のドラムが刻む音が何か私達に呼びかけられるように、私はエレキギターをシールドでアンプにつなぎ、マイクは丁度三つある。
そして私達は歌い、演奏した。
曲はオリジナルの物で、私達は三人そろって歌った。
演奏しながら歌っていると、テンションがあがり、すごくドキドキする。心音も明も同じ状態だろう。
一曲が終わって、女亭主は私達に暖かい拍手を送ってくれた。
「見事な演奏だったよ。君達には感服した」
私達はテンションが上がって、三人でハイタッチをした。
それよりも何か不思議な感じがした。いつもより私と心音と明は上手に演奏できるようになっているような感じがした。
もしかしたら、明がドラムの相性が良く、そのテンポが私と心音に共感して私達はうまく演奏できたのかもしれない。
そこで女亭主は「実を言うと君達に折り入ってお願いがあるんだ」
「お願いって?」
女亭主は私のところまで寄ってきて、「私の代わりにこの世界をゴブリン達から救ってはくれないだろうか?」
「「「はあ?」」」
私達三人の疑問の言霊が漏れる。
「ゴメンゴメン、私の言い方が、悪かった。話を端折りすぎてしまった。
ここの店はとある異世界につながっている。私はその世界の住人であり、女勇者だった。
それともう時間がない」
すると女亭主は明が弾いていたドラムを木の杖に変えて、心音が持っているキーボードを先っちょに星形の銀の杖に変えて、私のギターを剣に変えた。
「あたいに出きることはこれぐらいだ、さあ、行ってくれ」
と頼まれ、「行ってくれって言われてもどこへ行けば良いんですか?私達の楽器をこんな物騒な物に変えて」
女亭主は、ドアにあるスイッチを押して、突然地震が起こった。
「何これ!?地震!?」
「二人とも大きいよ。すぐに机の下に隠れて」
私と明は心音に言われたとおり、机の下に隠れた。
こうゆう事、学校で習ったっけ。
すると女亭主は「地震ではない、異世界にこの店は向かっている」
その揺れは東日本大震災のような地震よりも大きいかもしれない。
さすがに怖い。明も心音そう思っているだろう。
でも女亭主は変な事を言っていた。
この店は異世界に続いていると。
それよりも長い地震だ。
私達は恐怖で思い切り目を閉じていた。
そして地震が収まると、私達はおもむろに店の机から出た。
「何なのよいったい?」
私がそういって女亭主がいた方向を見てみると、女亭主はいなかった。
そして私は剣、心音は先っちょが星になった杖と明は先っちょが丸まった魔道士が使うような杖を持っていた。
「私がおこずかいを貯めてやっと手に入れた楽器がこんな剣に変えられるなんて」
そういうと、剣はギターに変わった。
「どうなっているの!?」
と言ってとりあえず剣からギターに戻った楽器をギターケースに収めた。
すると心音も大事にしている先っちょが星になっていたキーボードが元の形に戻り、それをケースにしまい。後は魔道士が使っているような先っちょが丸まった杖はなぜかドラムではなくスティックに変わっていた。
「何なのよこの店は!?」
私が文句を言いながら三人で店の扉を開き帰ろうとすると、そこは魔女や物の怪が住むような森であった。
「どうなっているのよここは!?」
私が言うと心音が「気味が悪い森ね」
そこで明は「僕達帰れるの?」
少し歩いて、店を見渡すと、さっき入ったボロい外観の店のままだ。
そういえばあの女亭主は言っていた。
この店は異世界に通じる店だと。
それで女亭主を捜そうとするとどこにもいなかった。
森を眺めると私達はここを通る勇気さえなく、再び店の中へと戻っていった。
「ちょっと何よこれ!」
「あたしに言われても分からないよ盟」
「そういえばあの女亭主はドアについているボタンを押して、異世界に行くと僕達に言っていたよね」
「冗談じゃないわよ。私帰る」
私が女亭主が押したボタンを探してあった。
そのボタンを押すと何も起こらなかった。
「ちょっと何よこれ」
そういってボタンを連打したが何も起こらなかった。
私は無性に怖くなって、息を潜めていた。
そこで冷静沈着な心音が「盟、とりあえず深呼吸をして落ち着こう」
「僕達どうなっちゃうの?」
と明まで泣きそうな顔をして涙がこぼれ落ちそうになっていた。
心音は「何度も言うようにとりあえずみんな落ち着こう、それで店に何かあるか見て見ようよ、もしかしたら戻れる何かがあるかもしれないから」
私達は心音の言うとおり、森には踏み込まず、店を洗いざらい調べる事にする。
とりあえず私達はお腹が空いているので、調理場に行って何か食べる物はないか調べてみると、銀色の大きな冷蔵庫があった。
私が冷蔵庫を開けてみると、肉や魚など新鮮な素材が入っていた。
それに異世界とやらに転送した私達がいる店の冷蔵庫はちゃんと機能している。
あまりにもシュールだ。
そういえば私達は歌ったので喉が乾いていて、店にはちゃんとドリンクバーが設置されていた。
おまけにビールお酒までついている。
ちょっと歌った後で私はコップを取り出して、コーラのボタンを押して、ちゃんとした喫茶店のようにちゃんとコーラが出てきた。
一口恐る恐る飲んでみると、それは間違いない本物のコーラだった。
「ちょっと盟だけずるい私にも飲ませてよ」
「僕も」
心音と明はそれぞれジンジャーエールのボタンを押して、コップに注いで飲んでいた。
「あー生き返る」「大人の人がビールを飲むってこんな感じかな」
「とにかくお腹が空いたよ、私は料理が下手だから、何か有り合わせの物を探してくるよ」
私は調理場に行き、何か食べられる物はないか調べてみると、ハムとフランスパンが合った。
私は食べられるぐらいのフランスパンとハムを切って、それをフランスパンの上にハムを乗せて食べた。
「おいしい」
もう一つ食べようとすると、心音に「ちょっとあんた、ここは異世界でしょ。とりあえず食料は節約しないといけないでしょ」
「それはそうだね」
「そうだ。僕がビーフシチューを作ってあげるよ」
明が言う。
そうだ。明は父子家庭で、いつも働く父親に食事を作っていて、料理は得意な方だった。
そこで心音が「明、ちゃんと食料は節約しなさいよ。この森の中では食料を調達するすべは私達にはないんだから」
「分かっているって僕に任せて」
明は料理が得意で節約の仕方も上手だと聞いている。
私と心音は明が作るビーフシチューを客席に座るイスに座って、待っていた。
「もうそろそろ出来上がるからね」
と明が厨房から言う。
そして出来上がり、食べてみると本当においしいビーフシチューだった。
「本当においしいよこれ」
私が言うと明は嬉しそうにしていた。
そこで心音が「とりあえずここにある食料は大切な物よ」と現実的な事を言う。
すると私は今の現実に起こったこの状況をどうにかしないといけないと思った。
「とりあえず、これ食べたら、森の中を探索してみない?」
「そういえばあの女亭主はどこに行ったの?」
心美が言うと、小さな羽を生やした妖精が私達の前に現れた。
「あたいはここにいるわ」
「ちょっとあなたどういうつもり!それにあなたどうしてそんなに小さくなっちゃったの?」
「もうあたいには、ゴブリン達から人間達を救うことはできないわ、だからあなた達にあたいの思いを受け継いでほしいの」
「そんな勝手な事をされてこっちは良い迷惑なんだけど!」
「それは百も承知しているわ。私に代わってこの人間世界をゴブリンから救って」
そこで心音が「あたし達を元の世界に戻してよ!」妖精と化した女亭主に言う。
「分かったわ」
妖精がそういうと私達は心にすくっていた不安が溶けて、私が「じゃあ、早速元の世界に戻してよ」
すると妖精は罰が悪そうな顔をして、「帰るには半年の時間を経なければならないの」
私は堪忍袋の緒が切れて「ふざけんじゃないわよ。今すぐに返してよ」
心音も明も私と同じ気持ちだ。
私達三人は妖精を威圧的な目で見つめた。
「大丈夫だから、半年後には帰れるから安心して」
「安心できるわけないでしょ。今すぐに私達を元の世界に戻してよ」
「分かったわ。ここにこもっていたら、必然的に食料はなくなるわ、でもその食料を調達するすべはあたいが知っているから」
「そんな事を言っているんじゃない。今すぐに返してよ」
「そんな事を言われても、あなた達は選ばれし者なんだから」
「選ばれし者?」と妖精は意味心な事を言った。
「ホーリープロフェットを駆使する予言者は言っていたわ。私達人間からコブリンを救うためにこの異世界に通じる店にやってくると。
それにゴブリンは音楽に弱く、あなた達のバンドの音を聞かせれば、ゴブリン達を一掃できるわ」
「そんな事を言われたって私達にはそんな事は出来ないわ。だから今すぐに返してよ」
「でも半年はこの異世界からは帰れないわ」
これ以上何を言っても水かけ論になってしまうだろう。
私は思い切りため息をついて「わかったわ、半年はここにいてあげる。でも私達はあなた達の戦争に巻き込まれないようにして」
「出来るだけ、そうするわ」
「出来るだけって、何なのよ」
そこで心音が私と妖精の話し合いに入ってきて、「分かったわ。本当に出来るだけあたし達を戦争や殺し合いに巻き込まれないようにしてくれるのね」
すると妖精はコクリと頷いてくれた。
話は以上だ。
するとドアベルが鳴り、外から鎧をまとった中年と青年の兵士らしき者が入ってきた。
「いやー外からいい匂いがしてきたが、今日は何の料理を作っているんだ」
中年の兵士が言う。
青年の兵士が私達を見て、「何だ君達は?どうやら人間のようだね。それよりもマスターは?」
そこで妖精となったマスターは「はいお客様二名様ですね。今日はおいしい物を彼女達に作ってもらいました」
「何だ?いつもと違うような気がするが、まあとにかく腹が空いていて戦も出来ないよ、何かうまい物を食わせてくれ」
私は明に視線を送り、お客にビーフシチューをとアイコンタクトをした。
すると明は、厨房に入って行って、今用意しているみたいだ。
心美が「お客様二名様ですね」
「ああ、そうだが」
と中年の男は言う。そして心美は席に二人を案内して、座ったとたんに厨房から、二人分のビーフシチューをもてなした。
「何だこのどろみたいなのは?」
中年の兵士が言う。
すると明が「それはビーフシチューと言って、おいしい料理でございます」
「とりあえず隊長食べて見ましょうよ。何か良い香りがしてきておいしそうじゃありませんか」
青年の兵士は言う。
「じゃあ、食べてみようか」
隊長と呼ばれる兵士はスプーンを片手にとり、ビーフシチューをすくって口に入れた。
「これはおいしいぞ」
隊長は言う。
「本当においしいですね。こんなうまいもの食べたのは初めてですよ」
そんな時である。激しくドアが開く音がして、緑色で頭に角と歯には牙を生やした者達三人が入ってきた。
私達はその時察した。こいつらが妖精達やここにいるお客の兵士達が言うゴブリン達だと。
私達はビビって、動くことすら出来なかった。
「うまそうな人間じゃないか」
「隊長!」
青年の兵士が立ち上がる。
「おう」
隊長も立ち上がる。
私達を助けてくれるのはこの兵士達しかいない。
どうか私達を妙な争いに巻き込まないで。