知らぬ間に婚約させられた女騎士は賢者に弟子入りしてこっそりと婚約破棄がしたい
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「お前三ヶ月後にコイツと結婚なwww」
唐突に見せられた写真には、誠実そうな男性がタキシード姿で写っていた。
私の居ない合間に取り交わされた婚約を波風立てず破棄する為に、私は巷で怪しいと噂の自称賢者に弟子入りをする事を決めた。
「あ、あのー……」
見窄らしい家の玄関を開け、私はおずおずと声を発した。
「うむ。其方が見えることは既に我が『魔法』によりて察しておったぞ!」
そこには畳の上であぐらをかいてお茶を飲んでいた白髪の老人がいた。
「あの、実は……」
「皆まで言わずとも分かっておる。其方……相手を魔法で心変わりさせて穏便に婚約破棄をさせようとしておるな?」
私は何も言わずとも全てを悟られていると知り、老人の前に土下座をした!
「はい!後三ヶ月しかないんです! お願いします!私を弟子にして下さい!!」
「……授業は厳しいが、其方なら耐えて未来を変える姿が私には見えておるぞい」
「し、師匠!!」
それから私は師匠の家に住み込みで魔法の修行に打ち込んだ。
「……で、この格好は何ですか師匠?」
白を基調としたフリフリのついた謎の服。ぶっちゃけて言うとこれメイド服じゃないですかね?
「ふふ、落ち着かんじゃろ? それは周囲に囚われず己の集中力を高める為のものじゃよ……」
「な、なるほど……!!」
私は師匠の崇高なお考えに尊敬の意を表し、修行に取り組んだ。
「……で、このオムライスとケチャップは何ですか師匠?」
「全神経を集中させてこのオムライスに己の名を刻むのじゃ!!」
半信半疑の眼差しでケチャップの蓋を開ける。
──ブジュ……
「あ……」
ケチャップを握る手を強めた途端、瑞々しいケチャップがオムライスからはみ出し凄惨な状態になってしまった。
「ふふ、新品のケチャップは最初水っぽい汁が出る。其方、常に何が起きるか予測しながら生きておらぬな? 魔法は『知』の力。己の知力無くしては魔法は扱えぬぞい?」
「な、なるほど……!!」
私は師匠の深いお考えに感銘を受け、ケチャップに全神経を集中させた!
「……ヒ……ギ……ィ……ィ……ナ……っと」
「最後に♡マークを忘れずに書くのじゃぞ?」
「なっ……! 師匠!既に余白が有りませぬ!! 何故早く言って下さ―――」
しかし私は言い終える前に師匠の言葉を思い出す。
全てを予測しながら生きていかねばならない
つまり相手の心を変える程に強い意志を持たねばならない訳ですね師匠……!!
私はケチャップに込める思いを一段と強くした!!
「ふふ、何やら分かってきた顔付きじゃのう?」
「これでどうですか!!」
私はオムライスを囲むように皿に大きな♡マークを書き込んだ!
「おほぉ!素晴らしいぞい!!」
師匠がウンウンと頷いている。どうやら私にも知の力が付いてきたようだ。果然やる気が出て来たぞ!!
「仕上げじゃヒギィィナ! 『萌え萌えキュンキュン♪美味しくなぁれ♡』と叫ぶのじゃ!!」
「萌え萌えキュンキュン♪美味しくなぁれ!!!!」
私は全てを師匠に委ねオムライスに愛情を込めまくった!
「美味い!」
師匠はオムライスを無心で頬張っている…………
――二ヶ月後――
私は婚約相手の男が居を構える屋敷へと来ていた。決戦の時が来たのだ!
「ヒギィィナ、此度は私との婚約誠に―――」
──サッ
私はコートを脱ぎ、下に着ていたメイド服を露わにした。
「?」
そして予め作っておいたオムライスとケチャップを取り出した!
──ブジュ!ブジュジュ!!
全身全霊を持ってオムライスに己の名を刻む!!!!
♡マークは三重に囲み刻みパセリを振りかける!
仕上げは勿論……
「萌え萌えキュンキュン♪美味しくなぁぁぁれ!!!!」
──ブジューッ!!!!
私は有らん限りの力で男の顔にケチャップをぶっ掛けた!!!!
「ひえーっ! こんな変な女とは婚約破棄だーっ!!!!」
男は顔中を赤く染め、屋敷から逃げていった…………
(師匠……やりました!!)
私の胸にはやりきった清々しい風が吹いていた。
「ヒギィィナちゃん、三番テーブルにいつものお爺ちゃん来てるわよ!」
「はーい♪」
私はその後、小さな喫茶店で働き始めた。師匠は心配なのか毎日私の様子を見に来てくれている。私が怠けないように見守ってくれているに違いない。とてもありがたい事だ。
「ヒギィィナよ、今日は新しい魔法を授けようぞ!」
「本当ですか師匠!?」
「カップを両手で優しく持って……『ふーふー』とするのじゃ!!」
「ふーふー♡」
「良いぞヒギィィナ! 実に素晴らしいぞい!!」
「ありがとうにゃん♡」
「可愛いのぅ!!」
こうして、師匠のお陰で私は毎日幸せに暮らしている―――
読んで頂きましてありがとうございました!!
(*´д`*)