シャノアール氏は華麗に暗躍する
今日はさんざんだったわよねー、汚れちゃった!リアルの声がバスルームに響く。
かっぽーん、仕事の後のお風呂はいいのう、しかし全く、今日はダメだったな、手間取ったお陰で、粘液で汚いことこの上なかった。
はぅー、ん?俺かい?ご主人様と、一緒に素晴らしいお風呂タイムに、決まってるではないか!いい香りのシャンプーで、しゃわしゃわと洗ってもらっている最中だよ、
あー、幸せだなぁ、オッサンはこの極楽を守るためなら、何でもする決意を改めて誓う!
『オッサン転生』に置いてのラッキーとは、可愛い魔女の『使い魔』になることが一番の当たりだぞ!誠に当たりだ。
「ふくちん!」
お湯が鼻にはいってしまった。小さく、くしゃみをする子猫の俺を目にすると、おおおおー!
「あーん、可愛いー!、シャノアール」
ぎゅぅっと、素肌に抱き締められてしまった。
幸せだなぁ、だなぁ、生前のリアルの仕打ちは無い!無い、彼女はいい子だったよぉ!
サァと流して、パラダイス終了ー、後は『今日の晩御飯』お昼は、魔物の力をいただいたが、不味い!
人間的にはグズだが、マートンの方が遥かに美味しい、しかし今朝、奴を食ったせいか今日の任務は、散々足る有り様、
まあ、いきなり目減りした分、普段と体の動きがちがう様子だったな、色々なタイミングがずれていた。
それならば、臨機応変に戦えばいいものを、苦手だからな奴は。あれほど教えたのに、なさけない。
プルプルと体を振るっていたら、ふぁと温かい風に包まれる。リアルが乾かしてくれた様子だ。自分でも出来ない事も無いけど、ここは任せとこう。
そして彼女も身支度を終えると、よせば良いのに『全員揃っての晩御飯』食堂へと、俺を抱き締めながら向かう。波乱、起こってくれよな、フフン。
―――「なんだよ、今日のアレは、酒を飲み過ぎて動きが悪かったよな、あー?」
おっほー!いいねぇ、勇者に剣士が怒られるぞぉ!この殺伐としたお二人、幸せだなぁ、オッサン。
「………すまない」
うつむき、ポツリと漏らすマートン。それを叩き付けるような口調で、責め立てるアーディー、こいつはこうなんだよな、自分には甘いくせに、他者の失敗を許す事はけっして無い、
「すまないですむのかよ、はっ?オッサンのがまだ使えたぞ!ほぼタダで働いてた分、遥かにマシだわ」
あー?何か聞き捨てならん事を聞いたぞ?まぁ、過去の話だからな、先程のお湯に流してやろうとするか。
「もう、食堂でよくないわよ、人目があるのだから」
リアルがまともな事を言いながら、椅子に座るとウェイターに、食事を頼む。もちろん可愛い俺は膝の上。しかし、腹減ってきたから移動しないと行けないな。
「しかしな、あんな雑魚に手間取った、こいつはどうかと思わないか?」
そうだけど、体調悪かったのかもよ、と一応かばってはいるけれど、それは口だけだ。
リアルは決して許してはいない。むしろ一番怒ってるのは彼女だな。戦いに置いて、冷徹かつ残酷なのはご主人様だ。
中年になり、魔力が衰えてきた『育ての親』を平然と、囮に使うのだからな。そして、勇者と剣士はギリギリ迄、助けようとはしなかった。
出来れば、俺を餌にしているときを狙って楽に仕事を終わらせたいのが、見え見えだったぞ!
その都度、何とか術で逃げ仰せたけどな、俺の『魔法使いの微笑み』が、かなりの力になってるのも、そのせいでもある。
しかしな、おどろおどろしい魔物やら、見た目にドン引きなのに、ニッコリはきつかったぞー!お前ら。リアルは免除だが、二人はアウトだ!
お待たせしました。と先に注文していた食事が運ばれて来る。その中から、俺に食べれそうな物を取り分けるリアル。
朝は可哀想だったから、少しお膝の上でハミハミしてからぁと『晩御飯』に移動しなくては。
「何処に行くの?マートンならやめてよね」
辛辣な彼女の言葉に、食事の手が止まる奴。いえいえ、晩御飯ですからね、朝より美味しいのがいいですにゃ、ククク
トン、と着地すると『メインディッシュ』勇者頂きまーす。足元へすりすりすりー、
「ウナあーん」
「おお?シャノアール、見る目があるなぁ!クズ剣士より、勇者の俺がいいのか!」
得意満面で抱き上げるアーディー、そしてマートンが、ぼんやりとして、手をつけていない、彼のメインの皿を引き寄せると、どれが食べたいか?と聞いてくる。
「おい、それは俺のだろ、自分のからやれよ」
「はっ?半端な仕事しかしてないのに、一人前食べるの?」
ほほー!いいねえ、中々良いけどな、オッサン昼間に色々考えて、出来ればこのパーティー残したいんだよな。ククク
「止めなさい、それにシャノアールはもう食べないわよ、私が上げたから、自分の食事はきちんと片付けてから席を立ってよね、勿体無いでしょ」
リアルの一声で、収まる二人。ウンウン、ご主人様いい展開ですよ。
そして俺は勇者のお膝で丸くなる。それを可愛いなぁと目を細めて見てくるアーディー。
食事が再び、気まずい中で始まったのを確認すると、此方も頂きまあーす!取って置きの晩御飯ー!
うおおおー!これは美味だにぁー!勇者最強!美味しいよお!
肉なら最上級の霜降り肉をレア!てな味わいだぞぉー、
美味しい、うひょー勇者最高!うん、ここらで止めとこう、長くお付き合いしたいからな、お二人さん、しっかりといい飯食っとくんだぞ、
食べる事、休む事で体力同様に、微妙に回復するからな、マートンは普段の摂生が悪いから、たかがあの量喰われただけで、影響大だった、
でもこれからは少し此方も、気をつけて頂かないと、持たないな。末永く頼むよ『ご飯』達。
色々復讐の策を考えていたけれど、大きく方向変換だ。
………『生かさず殺さず』に変更さ。なあに、時間はたっぷりあるからな、慌てることは無い。
――「どういう事?貴方達はムダ飯食いなの?」
リアルが、仁王立ちで彼等を見下している。それを俺は彼女の肩の上から更に見下している。
気持ちいいねえ!オッサンスッキリだよぉー、日々『剣士』『勇者』の魔力を朝食、夕食に、美味しく少しづつ、少しづつ頂き、
そして足らずをカロリーが高い『魔物』で過ごしていたら、
それなりに『愛らしい子猫シャノアール』も戦える様に成長を遂げたのさ!
『剣士』の力は『爪』に威力を与えてな、大抵の物なら切り裂ける。
『勇者』の力はオールラウンドだ。全ての能力の底上げと後は『耐魔』の力が美しい毛並みに宿ったぞ!
そして元々持ち得ていた、魔法使いの力と、ご主人様の力、一人と一匹でほぼ最近は任務をこなしている、このパーティー、
ククク、いいねえ、上手く進んだよ!計画通りだ。
当然力関係も逆転する。アーディーはリーダー陥落、マートンは言うにも語らない。
二人共にガタガタに力が落ちたと、評判をひそかに流してやったから、リアルから離れると食いっぱぐれは間違いない運命だ。
「す、すまん、すまんから追い出さないでくれ、頼む」
「フン、役にたたないのを私とシャノアールで、養えって言うの?」
さっさと消えろ言いたげなリーダーのリアルに二人は、懸命に頭を下げている。それは、肩の上の俺にもよーく見える。
いい眺めだよ、ククク、本当ならとうに、見切りをつけてる彼女なのだが、そうはさせない俺。
トン、と軽やかに着地すると、二人に慰める様にすりすりすりー、そしてリアルを金の瞳でしかと見つめる。
「ウナあーん」
二人を慰める様な、俺の姿を目にすると、ため息をつきながらもう、シャノアールったら、と苦笑を浮かべる。
「もう、どうしてシャノアールはそいつらがいいのよ、最近代わりを入れても、入れてもなつかないんだからー、仕方ないわね、貴方達!シャノアールにお礼言いなさいよ!」
おおー!シャノアール。ありがとうな、ありがとうなと二人からお礼と共に頭迄下げられるこの立場!良いよぉ!バッチリだ。
最近、俺はパーティーに新参として来る、勇者やら、剣士を片っ端から追い払っている。
必要無いからね。任務ならご主人様とで十分だし、必要なのは俺の『食料』それのみでいいんだよ。
まぁ『魔物』で十分なんだけど、美味しく無いんだな、手っ取り早いけど、そこが残念。
なので、ご主人様リアルが引退するまでの間、それまでの美味しい『ごはん』の為に二人は、必要だから、いてもらわないと。
他の恨み辛みがない、他者にそれを求めるのは気の毒だからな、こう見えても俺は人間的にはまともだ。
少しづつ頂けばもつだろう、ククク、美味しいからね、勇者と剣士の力は、チビチビとやって行こうか。
俺は『追放』なんてバカな事はしないよ、別れたら終わりだろう?オッサンは執念深いからな。
だから『飼い殺し』にするよ二人をな、長く楽しめるだろう。リアルは俺にぞっこんだから心配無いしな。ククク、上手く行きそうだ。
―――そして、時が終われば、全ての力を食った後に、冷たい雨の夜に、一文無しで棄ててやるよ。
もちろん、リアルが俺を裏切ったら、一緒にな。
フフフ、フ。
「完」